北の無人偵察機についての考察

北が飛ばしたと思われる無人偵察機が韓国に墜落したというニュースが先月末に報道された。その後の報道によって、搭載されていたカメラの詳細が明らかになってきた。

ペンニョン島の無人機、小青島と大青島の軍施設を撮影

「数兆ウォンのKAMD構築する」韓国、北の低価格無人機に対応できず(1) | Joongang Ilbo | 中央日報

「数兆ウォンのKAMD構築する」韓国、北の低価格無人機に対応できず(2) | Joongang Ilbo | 中央日報

これらの記事によると、墜落した無人機は2機あり、それぞれ

  • Canon 550D + 50mmレンズ + 日本製2気筒エンジン
  • Nikon D800 (レンズ不明) + 欧州製4気筒エンジン

が搭載されていたという。なお、550Dは日本国内でEOS Kiss X4として販売されていたモデルと同等の海外モデルである。(ちなみにRebel T2iも同等モデルで、Canon製品はマーケットによってモデル名が異なる。)

 

初期報道では貧相なラジコン飛行機のような機体画像とともに、Canon製カメラが搭載されていた旨が報道されていた。このため重量の軽いPowerShotシリーズにCHDK*1を導入し、一定時間隔のインターバル撮影を行っているのではないかと予想していたのだが、実は一眼レフを搭載させていたのだった。

ここで、重量的に不利な一眼レフを搭載するメリットは何だったのか考察してみよう。

  1. オートフォーカス速度
    撃墜を避けるため高速飛行することを考慮すると、AF中に
    偵察対象上空を通過してしまう事態が発生する可能性がある。これを回避するため、高速な位相差AFが利用可能な一眼レフを選択した。
  2. 高画質
    飛行中の撮影のため、鮮明な画像を得るためにはシャッタースピードを通常撮影より速める必要がある。さらに、飛行重量を抑えるために小型軽量のレンズ、すなわちF値が大きく暗いレンズを搭載する状況を考慮すると、たとえ日中であっても基本感度ではなく、増感したISO値で撮影する状況となることが想定される。故に、高感度特性に優れる一眼レフを選択した。
  3. (機体は墜落せず回収・再利用可能な前提で)レンズ交換可能
    撮影した偵察ターゲットの画像解析後、より精細な画像が必要な場合、同一機体を望遠レンズに換装後、再度飛行させることを想定し、一眼レフを選択した。
  4. シャッター制御
    外部装置からのシグナルでシャッターを切る用途を想定すると、リモートレリーズ端子が必要である。記事によるとGPSデバイスも搭載されていたとのことなので、予め設定した空域内に入るとシャッターを切るような制御を行っていたのではないかと推測される。このため、一眼レフを選択した。

上記のような推察が可能であるが、これらのメリットは必ずしも一眼レフである必要は無い。むしろ、この用途ではファインダーを覗く人間が居ないのだから、ミラーレスカメラを採用する方が、重量や体積といった観点から適切である。(上記2,3,4は多くのミラーレスカメラでも同様のメリットが得られる。そもそも1については、飛行高度にも依るがAFではなくMFで無限遠設定とすることが適切と考えられる。)

もし、私が開発担当で同様の予算制約下にあるなら、どうするであろうか。コストが掛けられない以上は、いかに民生品を流用し、ミッション成功に繋げるかが肝要であろう。ミッションも近視眼的ではなく、短期・中期・長期それぞれを見据える必要があるだろう。故に、以下のような機体製作を検討するであろう。

前者2案はEOS Kiss搭載機より安価に、3案目もD800より低価格で実現可能だ。いずれの案も無人偵察機の単価が下がり、同一予算でより多くの機体が製造可能となる。すなわち、単位時間当たりに偵察可能な面積が広がることを意味し、軍事戦略上のメリットは大きいだろう。そのうえ3案目は偵察機から爆撃機等に転用可能な柔軟性を有しており、戦時であれば研究開発に投資する意義はあるだろう。

しかしながら、北は一眼レフを選択したのは何故であろうか?単にミラーレスカメラを知らない、GoProのようなアクションカメラを知らない、CHDKを知らない、arduinoのようなプログラマブルなプラットフォームを知らない、スマートフォンの本質は小さなコンピュータであることを知らない…といった無知が積み重なった結果なのであろうか。

この無知の原因が情報アクセスの制限に拠るものであるとするならば、興味の有る情報に自由にアクセスできる国で生活できることに感謝しなければならないのかもしれない。

 

考察、以上。

*1:Canon Hack Development Kit; 非公式カスタムファームウェアで、RAW撮影非対応機種でRAW撮影を可能にしたり、自作スクリプトを実行させることも出来る。

*2:カメラの外部制御は行わず、常時動画撮影。安い軽い小さい壊れにくいという特性から、撃墜リスクの高い第一波偵察用に最適。弱点としては、所詮動画メインで高精細静止画は期待できず、超広角のため低空飛行しないとターゲット詳細は掴めない。

*3:件のCHDKを用いると、ズーム操作もスクリプトで制御可能なため、カメラの外部制御は行わず、焦点距離を変更しながらインターバル撮影させ、第一波を補完。

*4:Wi-Fi経由でシャッター及びズーム操作可能なミラーレスを選定。レンズはパワーズームを選定。飛行制御装置はarduino等で製作しスマートフォンにUSB接続。スマートフォンは偵察対象国の携帯電話ネットワーク経由で、地上からリモートで操作する。この構成を応用すると、爆弾積んで自爆攻撃させるなど、何でも出来てしまう。