VAIO Phone Bizが発表された

 Windows 10 Mobileを搭載するVAIO Phone Biz (VPB0511S)がVAIO株式会社より先週発表された。
vaio.com
 先代VAIO Phoneを振り返りつつ、新VAIO Phone Bizの何が訴求ポイントなのか考えてみたい。主観を多分に含む点をご注意いただきたい。なお、本投稿は記載時点(2016/2/7)での情報を元にしており、カタログやWebサイトの記載などについては変更される可能性がある。

先代VAIO Phoneを振り返る

 "Biz"のつかないVAIO Phoneと称されるスマートフォンVA-10Jは、日本通信の製品としてAndroid 5.0 Lollipop端末として登場した。
www.bmobile.ne.jp
 VA-10JはVAIO株式会社が中身の設計・製造を手掛けた製品ではない。また、日本の携帯電話市場からは撤退済みのPanasonicが台湾市場向けとしてリリースしたELUGA U2と酷似しているとも指摘されている。VA-10J、ELUGA U2共に台湾Quantaによる同じベースモデルを利用したOEM供給品ではないかとも言われている。そんなこともあってか、販売実績は芳しくない模様。日本通信のプレスリリースより引用すると、
http://www.j-com.co.jp/ir/pdf/press_20160122.pdf

VAIO Phoneを完売するのに必要な在庫評価減等を行っています

と明記されている。これは想定した価格で売れる気がしないから、値引いて処分するということでしょう。

 設計・製造を他社に委託していることなんて、今の時代ではそれほど珍しいことではない。けれど、何よりVAIOらしさが感じされない製品(にも関わらず、VAIOらしい価格設定)だったことが敗因ではないだろうかと思う。いくらVAIO株式会社の製品ではなく、日本通信の製品として売り出されたVA-10Jだったとしても、自社製品としてVAIO Phoneシリーズをリリースする前の貴重な先行事例であるのだから、徹底的に敗因を突き詰め改善してほしいと思う。もちろんそうした結果として、VAIO Phone Bizがリリースされるのだと期待しているが…。
 

VAIO Phone Bizの訴求ポイント

 では、VAIO Phone Biz VPB0511Sはどの辺がVAIOらしいのか。公式サイトによると大きく以下の3点が訴求されている。

  1. Windows PCとの親和性
  2. 快適・快速・SIMフリー
  3. 妥協なき作り込み

以下に、各項目について掘り下げてみたい。

Windows PCとの親和性

 VAIOだからWindowsPCとの親和性が高いのではない。Windows 10 Mobileだからである。

快適・快速・SIMフリー

 docomo回線に対応したSIMフリー機は既に多数流通しており、特別に新規性があるわけではない。「国内通信網に合わせて設計したからどこでも高速&どこでも使える」と書いてある割にはau回線には対応しない。

妥協なき作り込み

 「本体デザイン、品質管理、そしてもちろん基本性能の高さ。最も長く身につけているビジネスツールなればこそ、VAIOは決して妥協をしない。」と謳っている。
 アルミ削り出しボディや、レーザーエッチングされたVAIOロゴなどは、良い意味でVAIOらしいと言えるだろう。
 また、"安曇野FINISH"クオリティが謳われており、「専任の技術者の手で1台ずつ仕上げを行ない、全数チェックを実施」と記載されている。察するに、海外製造の半完成品の最終組み立てと、試験を国内で実施ということだと思われる。国内の優れた技術や生産設備は研究開発においては大きなメリットであろうが、iPhoneがどこで製造されているか、Xperiaがどこで製造されているか。量産品の組み立て工程に国内のリソースを投入することは、日本経済としては歓迎すべきことかもしれないが、消費者としては製品価格に跳ね返ってくる点も理解する必要があるのではないだろうか。
 スペックについては現時点で国内に投入されているWindows 10 Mobile搭載スマートフォンとしては、客観的事実としてハイスペックである。Snapdragon617(8core/1.5GHz)、3GB RAM、FullHDディスプレイ、1300万画素リアカメラ/500万画素フロントカメラと言った点が訴求力があるのではないだろうか。
 

結局VAIOらしいのか?

 これまでに紹介した内容を踏まえると、「VAIOのデザインが好き」、「ハイスペックなWindows 10 Mobile端末が欲しい」というユーザ層には支持されそうである。が、それだけで数量を捌けるとは考えにくい。そもそも個人向け販売もするものの、製品名に"Biz"とあるように、法人やビジネスユースを主眼に置いたモデルであることを念頭に置くと、どんな会社がこの端末を導入すべきなのかが、伝わってこない。WordやExcelが使えるだけならばiOS/Android版にもアプリはある。ではWindowsPCで利用している業務システムがそのまま利用できるかと言えばそうでもない。となると、何らかのSI案件とセットで法人営業を行うことになるのだろうか。とすれば、当該SI案件のカットオーバーまでWindows 10 Mobileのメリットは享受できず、ようやく使える頃にはさらにハイスペックな端末が市場には流通しており…。みたいな、残念なシナリオにならないだろうか。
 

SONY本体に遠慮し過ぎてない?

 Xperiaを有するSONYとのカニバリを避けるために、いろいろ遠慮してそうにも見える。また、それがVAIO Phoneの魅力を削ぐ要因になっていそうな気もする。例えば、以下のような点。

OS

 AndroidではなくWindows 10 Mobile端末とした。これはXperiaの顧客をなるべく奪わず、なるべく多くの新規顧客を獲得できるのは法人ユーザーだと考えた?

ガラケー由来機能

 赤外線、おサイフケータイ(Felica)/NFCワンセグ/フルセグを切り捨てた。これもXperiaの顧客を奪わないためだろうか?都合のいいことに、法人ユーザーならこれらの機能を重視しないであろうと考えた?SONYの技術であるFelicaを切り捨てたのは対応アプリが無いとおサイフケータイとして機能しないことから妥当かもしれないが、NFCは積んでもよかったのではないか?今風のオフィスでは入退室時の鍵に使われていたりもするし。

カメラ機能が一切訴求されていない

 Xperia(に限らず最近のスマートフォン)では新モデルが出る度にカメラ機能を訴求してくるが、不思議なことにVAIO Phone Bizでは全く訴求されていない。カメラ機能が大きな特徴の一つであるXperiaの顧客を奪わないためなのだろうか?法人ユースであれば、カメラはその存在と画素数だけ明示しておけばいいだろうと考えたのか?Exmorとも裏面照射型とも書いてない。SONY製か他社製センサかも書いてない。レンズF値も書いてない。動画については解像度やフレームレートも含め一切何も触れてない。明示されているのはCMOSセンサーであることと画素数だけ。ホワイトボードを記録する程度の使い方なら画質なんてどうでもいいし、動画なんて撮らないよねって判断だろうか?

スピーカー

 モノラルスピーカー搭載なのはXperiaの顧客を奪わないためだろうか?法人ユーザーは音楽を聞くわけでもないし、モノラルで良いだろうと考えた?ステレオスピーカーを積んでるのは他社製含めて新しめのハイスペック寄りのモデルだし、大多数はモノラルスピーカーだし。会議の録音聞く程度ならモノラルスピーカーでいいよねって判断だろうか?

防水・防塵

 防水性能も防塵性能も無いのはXperiaの顧客を奪わないためだろうか?法人ユーザーはオフィス内だけで使うとでも考えたのか?工場ユーザは切り捨て?外回りユーザーは切り捨て?導入後比較的長期間使用されることが多い法人ユースでは、(防水・防塵性も含め)堅牢性が大きな訴求ポイントとなることは法人向けPC事業を手掛けていれば認識済みなはずであるが。一応「高剛性ボディ」や「強化ガラス」という単語は製品サイトに出てくるが、その具体的な説明は無い。

急速充電非対応

 Snapdragon 617を搭載しているからQuickCharge対応可能なのに、カタログ上は急速充電非対応となっている。外回りユーザーが一時的にオフィスに戻ったらサクッと充電したいだろう。前述の通り外回りユーザーは切り捨て?
 

その他

 発売前であるが、大手PC系ニュースサイトでは既にレビュー記事なども出ている、例えば以下のImpressの記事。
【Hothotレビュー】「VAIO Phone Biz」 〜ハイスペックなビジネス向けWindowsスマートフォン - PC Watch
 それによると、実は非公式ながらQuickCharge2.0に対応しているらしい。個人ならそういった非公式扱いでもそれほど問題ないだろうけど、故障時の保証含め、法人向けにはそんな非公式機能を使わせるのは無理がある。故障イコールその端末を利用する社員の業務が止まることを意味するわけで、そんな危なっかしい使い方はさせられない。代替機を準備していても各社員の利用していた状態を復元する手間や時間を考えると、故障そのものを避けたいと考えるのが普通。
 さらに実はDualSIMであるらしい。狙い通りDualSIMで設計しているなら隠す必要は無く、本機も実は中身どっかのOEMベンダが作ってるんじゃ、と邪推したくもなる。少なくとも外装は自前で設計してるみたいですけどね。
 

感想

 VAIOって"Video Audio Integrated Operation"の略じゃないですか。今のPCやスマートフォンで動画や映像が扱えない端末なんて無いわけですけど。過去の同時期の他社のPCでも音は鳴るし映像も見れる、でもVAIOなら高音質スピーカーだとか高画質化回路だとかを積んでたりしたわけです。また、他社に先駆けてカメラを搭載してみたり小型軽量化に取り組んでみたり。その代償としてパフォーマンスが振るわないモデルもあれば、パフォーマンスに振り切ったモデルも有ったりして、それでいて比較的かっこいい外観をしている。VAIOってそういうマシンだと私は認識しています。
 私は学生時代にPC販売のアルバイトをしていたこともありますが、かつてPanasonicのPC事業が迷走していた際、VAIO同様にAV機能に指向したHITOシリーズが生まれたことを記憶しています(結果として鳴かず飛ばずでしたが)。その後、堅牢・小型・軽量に振り切ったLet's note Light R/Tシリーズが登場しました。当時はこれが売れなければ撤退も近いという噂も耳にしました。スペックだけで比べれば高価格なこともあり、指名買いする人は一定数居ましたが、個人で購入する人はそれほど多くはありませんでした。が、その堅牢性・可搬性が法人ユースに高く評価され、高単価にもかかわらずかなりの数量が売れたようです(松下系列の法人営業部が優秀だったこともあるでしょうけど)。PC更新時にも同シリーズが選定されることが多いとも聞きますが、単なる価格勝負に持ち込ませないだけの実績(堅牢性)が効いているのでしょう。中古PC店を覗けばリースアップ品と思われる、動作するけど外装ボロボロのLet's noteがよく売られています。それだけ酷使されても壊れないのが仕事道具として信頼されている証しともいえるでしょう。
 VAIO Phone Bizは外観デザインはVAIOらしいと思いますし、中身も現時点ではハイパフォーマンスでしょう。ですが、VAIOなのにVideoやAudioが何も訴求されず、ただの事務機状態。それでいてビジネスに要求される堅牢性が訴求されるわけでもなく、誰に売りたいのかよく解らないと思ってしまいました。実機を触ればまた違う感想を持つかもしれませんが。
 Xperiaと競合せず、魅力的なVAIO Phoneを作れという命題には、そもそも解が無いのではとも思います。そんな命題は無いのかもしれませんが、それなら今回のVAIO Phone BizのVAIO感の無さは何なのか。両社の偉い人はどういう棲み分けができると考えているのか解りませんが、XperiaだろうとVAIO Phoneだろうと変な妥協はせず、魅力的な製品をリリースしてほしいですね。とすると、両社で二重投資となりかねず、分社化の弊害ここに極まった感。




以上。