三菱自動車の燃費不正問題を世界はどう報じたか

 三菱自動車の燃費不正問題が昨日(2016/4/20)から報じられています。国内では以下の記事のように「3度目の危機」「隠蔽体質」など、同社の過去の不祥事と関連付けた報道も少なくありません。
三菱自動車、燃費不正で3度目の危機へ:日経ビジネスオンライン
三菱自動車、変わりえない「隠蔽体質」の末路 | 自動車 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

 世界はどのように報じているのでしょうか。初出が早い(古い)と思われる順に紹介します。
 

  • (英)Financial Times

Mitsubishi admits altering fuel consumption data

The global auto industry has been rocked by scandals over the past two years, first with the mass recalls prompted by concerns on airbags made by Japanese firm Takata, and subsequently by Volkswagen’s admission last year that it had cheated US emissions tests.

適当に訳すと、

日本のタカタによるエアバッグ関連の大量のリコールに続き、昨年のフォルクスワーゲンの排ガス不正問題と、グローバル自動車産業は過去2年間にわたりスキャンダルに見舞われている。

国内で見られる「また三菱自か」的な解釈ではなく、同じく日本企業のタカタのエアバッグ問題まで引き合いに出しつつ、フォルクスワーゲンの排ガス不正と絡めてグローバルな自動車産業全体の話に昇華されてるようです。
 

  • (英)Mirror

Mitsubishi Motors admits that fuel efficiency tests broke Japanese rules in at least 600,000 of its vehicles - Mirror Online

This is the first time a Japanese automaker has reported misconduct involving fuel economy tests since Volkswagen last year was discovered to have cheated diesel emissions tests in the United States and elsewhere.

適当に訳すと、

昨年、フォルクスワーゲンのアメリカなどで発覚したディーゼル車の排ガス不正問題以来、初の日本の自動車メーカーによる燃費不正が報告された。

三菱自動車の企業体質に対する言及は無く、フォルクスワーゲンの不正と絡めた話になっているようです。misconduct/cheatedと言った単語から、意図的に欺いている事案を併記しているためタカタは引き出されなかったと思われます。
 

Mitsubishi Motors Admits Manipulating Fuel-Economy Data - WSJ

Mitsubishi’s admission is the latest instance of a global auto maker caught manipulating vehicle data, with Volkswagen AG embroiled in an emissions-testing scandal. It also comes after more than a decade of repeated quality lapses and recall failures at Mitsubishi, denting its efforts to rebuild its image.

適当に訳すと、

フォルクスワーゲンの排ガス不正問題以来、グローバル自動車メーカーによる自動車のデータを不正操作した最新の事案が三菱である。10年以上前の三菱自動車で繰り返された品質問題とリコール隠し以来の事態で、三菱自動車のイメージを再生する努力を台無しにします。

また、

Mitsubishi Motors has a history of scandals involving quality lapses and recall failures. In 2000, the company admitted having hidden vehicle-defect information for decades, leading to arrests of former company officials. After an inspection in 2012, Japan’s transport ministry said Mitsubishi had inadequately reported some defects and delayed recalls.

とあり、過去の三菱自動車の品質問題とリコール隠しについて逮捕者が出たことも含めて前歴を紹介しています。
フォルクスワーゲンの不正と絡めてグローバル自動車メーカーの話をしつつも、三菱自動車の前歴について触れている辺りが、国内の「また三菱自か」的印象も含んだ感じで、FT, Mirrorとの違いが感じられます。
 

When saying sorry is the only thing to do - BBC News
いきなりタイトルから強烈なのですが「ごめんなさいと言うことだけがすべき事の時」から転じて「謝罪しかできない時」とでも意訳すればいいのでしょうか。続く1行目には、

Saying sorry is an art in Japan. It is thought there are at least 20 ways to do it.

これまた、強烈なのですが、

謝罪は日本のアートである。そのためには少なくとも20以上の方法があると思われる。

的な感じ。続けて、

Apologising is very much part of Japan's corporate culture - and the person at the top often has to take the fall.
And recently there have been lots of reasons why Japanese bosses have had to say they're sorry.
Takata, Toshiba - and now Mitsubishi Motors

すなわち、

謝罪は日本の企業文化の重要な部分を占める。そして、企業のトップはしばしば責任を負わなければならない。
最近、多くの理由で日本人の社長は謝罪しなければならなかった。
タカタ、東芝、そして三菱自動車だ。

この記事だけ、他の記事と違い過ぎる…というか、検索に引っかかっただけで、今回の事案そのものを報じる記事ではなく、コラム的記事みたいです。
読みやすい英文だと思うので、興味のある方はぜひ元記事をチェックしてみてください。

改めて、BBCが今回の事案を報じた記事は以下。
Mitsubishi Motors admits falsifying fuel economy tests - BBC News

Mitsubishi's announcement follows on from the Volkswagen's emissions scandal last year, in which it was found to have cheated diesel emissions tests in the United States and elsewhere.

適当に訳すと、

三菱の発表は、昨年のフォルクスワーゲンのアメリカなどの各国でディーゼル車の排ガス不正が発見された問題に続くものである。

と、シンプルにフォルクスワーゲンの排ガス不正問題だけを引き合いに出しています。
また、他記事とは異なり、スリーダイヤについての説明がありました。

Mitsubishi Motors is part of the Mitsubishi Group, which includes about 40 individual companies. The group was established in 1870 as a shipping company and its name roughly translates to "three diamonds" - hence its logo.
The main divisions are the Mitsubishi UFJ Financial Group; Mitsubishi Corporation - Japan's largest general trading company; and Mitsubishi Heavy Industries - which includes atomic, chemical and power systems divisions as well as the car maker.

すなわち、

三菱自動車は、40社以上含む三菱グループの一部である。グループは1870年に海運会社として設立され、そのロゴから、スリーダイヤと荒っぽく訳される。
主要な部門は自動車製造と同様に、三菱UFJフィナンシャルグループ、三菱商事(日本最大の総合商社)、三菱重工(原子力、化学、電力システムを含む)である。

"as well as the car maker"って三菱自を過大評価しているというか、ミスリード感がありますが。三菱UFJ三菱商事MHIと比べれば、三菱自は売上・利益でも劣るわけだし。とは言っても、特に海外の人には「ミツビシ」と言えば全部同じ企業だと思っている人も多そうなので、各企業を紹介するのは有意義な情報なのかもしれません。
 

感想

 共通してフォルクスワーゲンの不正と絡めて報じられており、グローバル自動車産業全体の問題となると、無関係の自動車メーカーへの風評被害に近いものが発生しないか懸念されます。
 そもそもこのような事態を根本的に防ぐには、自動車メーカーの報告する全車種の全数値を、行政側検査機関が全て再検査するなどすれば対策可能でしょう。反面、そのためには莫大なコストが発生することも想像に難くありませんし、それは自動車価格或いは自動車税のような形で、消費者に跳ね返ってくるのでしょう。コスト効率も踏まえ、実効性のある対策を打ち出すことが必要ではないでしょうか。
 また、タカタ・東芝と絡めて日本企業の謝罪文化を伝えるBBCの異才っぷりが目立つと思いましたが、逆に海外から見ると日本の謝罪文化は異様に映るのかもしれませんね。

 英文記事ばかり紹介しましたが、フォルクスワーゲン母国ドイツでどのように報じられているのか興味があります。(語学力の問題から個人的には難しいのですが。)
 



以上。