通信アプリのLINEが手掛けるMVNOサービスとしてLINEモバイルが9/5より開始されました。
多くのニュースサイト等でも取り上げられており、MVNOへの乗り換えを検討されている方やそうでない方の耳にも入っているのではないでしょうか。
LINEモバイルの特徴は、カウントフリーと呼ばれる機能でLINE、Twitter、Facebookが使い放題といった趣旨の説明も見かけましたが、ざっくりとは合っていますが正確ではなさそうです。
そして、これらのサービスに限定してデータ通信料にカウントしないという仕組みも、日本国憲法第21条第2項「検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。」に該当せずに実現できるのかといった観点から注目されている方もいるのではないでしょうか。
個人的にも気になるため、そこら辺を少し整理してみました。
カウントフリーの対象サービスについて
LINEモバイルの提供するプランによって異なります。何故かPDFでしか提供されていない「カウントフリー機能に係る説明書」より引用しつつ、整理してみます。
カウントフリー機能に係る説明書(PDF)
LINEフリープラン
LINE フリーでは、コミュニケーションアプリ「LINE」のご利用(下表 1 記載のご利用に限ります。)に伴 い発生するデータ量が、カウントフリーの対象となります。
表1に該当する内容は以下の通り。
- トーク機能のご利用
- テキスト及び音声メッセージの送受信
- スタンプ・画像・動画・その他ファイルの送受信
- 無料通話・ビデオ通話
- タイムライン機能のご利用
- 画面閲覧・投稿(画像・動画含みます。)
- その他のご利用
- スタンプ・着せ替えのダウンロード
- アカウント設定に関わるご利用
- 友だち一覧画面の表示・友だち追加
- 「その他」画面の表示
また、以下の注意事項も記載されています。
※LINE アプリ経由で友だちから共有された外部リンクへの接続、LINE アプリ内でも LINE トーク画面等 に配信されるライブストリーミング動画(LINE LIVE 機能)のご利用及び LINE 株式会社が提供する 「LINE」アプリ以外のアプリサービスのご利用は、カウントフリー対象ではありません。
テキストメッセージの送受信や、無料通話などLINEアプリの基本的な使用においては、カウントフリー対象として利用できるようです。
が、「LINE」アプリそのものではなく、「LINEほげほげ」系の関連アプリ・サービスはLINEブランドを冠していても対象外、「LINE」アプリそのものの機能でもLINE LIVEは対象外となっています(解りにくい)。それらのアプリ・機能を利用するユーザは注意が必要でしょう。
コミュニケーションフリープラン
コミュニケーションフリーでは、LINE フリーのカウントフリーに加えて、「Twitter」及び「Facebook」のご利 用(下表 2 記載のご利用に限ります。)に伴い発生するデータ通信量が、カウントフリーの対象となります。
表2に該当する内容は以下の通り。
- Twitter
- タイムライン画面の表示・投稿(画像・動画含みます。)
- 「ホーム」「ニュース」「通知」の画面表示
- メッセージ機能のご利用
- プロフィールの編集
- Facebook
- タイムライン/ニュースフィード画面の表示・投稿(画像・動画含みます。)
- 「リクエスト」「お知らせ」「その他」の画面表示
- プロフィールの編集
また、以下の注意事項が記載されています。
※Facebook Live(Facebook 上でのライブストリーミング動画)、Facebook が提供する Messenger 及び Twitter のライブストリーミング動画(Periscope)のご利用に伴い発生するデータ通信量は、カウントフリーの対象外となります。また、外部リンクへの接続はカウントフリーの対象外となります。
こちらもライブストリーミング系の機能はカウントフリー対象外とされています。
また、その他留意事項として以下の4項目が記載されています。
上記のカウントフリー対象サービスについては、アプリケーションでのご利用のみならず Web ブラウザで のご利用についてもカウントフリー対象となります。
- 「LINE フリー」、「コミュニケーションフリー」のいずれのプランであっても、LINE モバイルウェブサイト(マイページを含みます。)への接続はカウントフリー対象となります。
- 上記においてカウントフリー対象とご案内しているデータであっても、アプリケーションの更新に伴う識別子の変更などの理由により、カウントフリーの対象外として認識される場合がありますので、ご了承くだ さい。
- カウントフリー機能の利用により、他のお客様のご迷惑となるような、大容量のデータの継続的な送受信などを行った場合に、一時的に通信を制限する場合があります。
- 上記カウントフリー対象サービスの範囲は、今後、変更又は追加されることがあります。変更又は追加された後のカウントフリー対象サービスの範囲は、すでにご契約頂いたお客様にも適用されます。
上記4項目の留意事項を注意深く読んでみます。
1点目は、アプリだけではなくブラウザからの利用でもOKということで、ユーザに優しい配慮と言えそうです。ただ、スマートフォンからわざわざブラウザ版を利用するのは(会社貸与のためアプリを自由にインストールできないなどの理由が無ければ)考えにくく、恩恵はあまりないのかもしれません。明示されていないので不明確ですが、LINEモバイルのSIMを指したスマートフォンのテザリング機能でPCを接続し、PCのブラウザからTwitterやFacebookを利用する場合にもカウントフリーなのであれば、便利に使える局面もあるかもしれません。
2点目は、アプリ更新等でカウントフリー対象外として認識される場合があると言っています。
そもそもカウントフリー機能の実現に際して、Twitter社やFacebook社と何らかの提携をしているとはどこにも明示されていません。一方で「"Twitter"はTwitter, Inc.の商標または登録商標です。"Facebook"は、Facebook, inc.の登録商標です。」といったお約束の注意書きも見当たらず、見方によってはTwitter社やFacebook社の公認或いは提携しているかのようにも解釈できなくもありません(そうではなく、無断で自社サービスの一部と誤認できるように他社商標を使用しているのなら両社に商標権侵害で訴えられる可能性も否定できないでしょう)。
LINEモバイルがTwitter社やFacebook社と提携しているのなら、事前にアプリ更新に伴う連絡を受け、カウントフリー対象通信を正しく認識できるように設定することもできるのでしょう。そうではなく、LINEモバイル側で勝手に行っているだけなら、アプリが更新された後に初めて対象外になったことに気付き、後追いでカウントフリー対象通信と認識するようシステム設定を行う形になると考えられます。それまでにアプリを更新してしまったユーザーはカウントフリー対象外としてデータ容量を消費されてしまうことが予想されます。
ただ、通信先が変わるようなアプリ更新等でなければ事実上問題ないと思われ、このような事態が頻発するとは考えにくいと思われます。
3点目は、カウントフリー対象通信でも、大量に通信したら一時的に通信制限する場合があると。常識的に考えれば合理的な施策ですが、規制対象となる具体的な(過去3日間に1GBのような)期間とデータボリュームが明示されていないのは不安点と言えそうです。
4点目は、カウントフリー対象が変更又は追加される可能性があり、既存契約者にも適用されると言っています。追加される分にはユーザが不利益を被ることはないでしょうけれど、削除される場合には不利益そのものです。「変更又は追加」という表記がなんとも狡賢く、「変更」から「追加」を除いたら「削除」しかないですよね?目障りなのでオブラートに包んだつもりかもしれませんが。
カウントフリーの仕組みについて
こちらも先と同一PDFの「カウントフリー機能に係る説明書」や公式Webサイトに以下の記載があります。
当社は、カウントフリー機能に係る業務を MVNE(仮想移動体サービス提供者)に委託しており、MVNEは、カウントフリー機能の実現のために必要最低限のデータ(IPアドレス、ポート番号、パケット内容のうちヘッダの一部(テキスト、動画、画像等のデータ内容含まない部分))を機械的 及び自動的に識別することで、カウントフリー対象を識別しております。
素直に読めば、冒頭で触れた「通信の秘密」(電気通信事業法や民法ではなく憲法で規定されている辺り、とても大切な事です)を侵さないよう配慮していそうな文面に見受けられます。
一方、上記文面で「当社」は「LINE モバイル株式会社」ですが、「MVNE」がどこなのか公式Webサイトにはどこにも明示されていないようです。必要最低限とは言っているものの、ユーザの通信データの一部を読み取ることになる事業者がどこの誰なのか、大事なことだと思うんですけどね。
調べてみると、以下の記事でLINEモバイルのMVNEが「NTTコミュニケーションズ」であるとインタビューに回答していますのが見つかります。
[ついに登場「LINEモバイル」、LINE舛田氏とLINEモバイル嘉戸氏に聞く] サービス設計の背景、カウントフリーへの考えは - ケータイ Watch
邪推すると、法的にマズかった場合もLINEモバイル1社で責任を負うのではなく、NTTコミュニケーションズと一蓮托生でリスク分散できるといったメリットがあるのでしょう。法的に問題なければNTTコミュニケーションズとしても他のMVNOにこの機能を売り込めるメリットがあり、他のMVNEに対する差別化が図れることになるわけで、まさにWin-Winの関係。
話を戻して、カウントフリー機能実現のために必要最低限のデータとして挙げられているのは以下の3点。
- IPアドレス
- ポート番号
- パケット内容のうちヘッダの一部(テキスト、動画、画像等のデータ内容含まない部分)
1と2については郵便物の表面に印刷されている宛先と同じように、送達するための機器や事業者が見てもいいよねって理屈に近いと感じられ、個人的には違和感を感じません。
3については、具体的に何を指しているのか解らないので、少し不気味ではあります。IPアドレスとポート番号以外で読み取る必要がありそうなのは、URLとかでしょうか?でもSSLで暗号化されていればURLも暗号化されてて見えませんし、何を見るのでしょうか?逆に、カウントフリー判定のためという名目で、暗号化されていない非SSL通信のURL等が覗かれる可能性は否定できなさそうです。過剰に不安がる必要は無いのかもしれませんが、やはり何を見られているのか解らないのは不気味ではあります。
これらの仕組みを理解すると、カウントフリー対象サービスでもVPN経由で利用した際は、データ容量を消費するのだなということが解ります。一方、PCからテザリング経由でカウントフリー対象サービスを利用した際も、通信先がモバイル版と同じIPアドレス・ポート番号(と、上記3の具体的に何だかわからないデータが一致するの)であれば、カウントフリー対象になりそうに思えます(実際のところどうなのか、明示されていないため判りませんが)。
一方で、この仕組みを実現するためには、カウントフリー対象サービスで利用される可能性のある全てのIPアドレスとポート番号(と、上記3の具体的に何だかわからないデータ)の組み合わせをMVNEが把握している必要性があります。要するに、TwitterやFacebookが利用する公開サーバーのIPアドレスを全て把握し、その一覧を抜け漏れなく更新し続ける必要があることになります。そんなことTwitter社やFacebook社からの情報提供無く本当に実現できるのでしょうか?各サービスのWebにアクセスし、含まれる全URLをDNS参照してIPアドレスを収集、モバイルアプリで各種機能を利用しつつ、その間に発生した通信をパケットキャプチャで取得し、そこに含まれるIPアドレスを収集とか、非常に泥臭いやり方はできそうですが、網羅性が担保できそうにありません。モバイルアプリを解析してやれば網羅性は上がるでしょうけど、リバースエンジニアリングは許可されてませんし。そして、どうにかして集めたこの情報を日々最新化し続けることが本当にできるのでしょうか?(というか、できない可能性があるから「カウントフリーの対象外として認識される場合があり」の留意事項があるのだろうけど)
理解や推測が及ばない範囲もあるものの、とりあえず(不気味な感じは一部に残るものの)通信の秘密を侵してる感はなさそうです(私は法曹界の人間ではないため何の保障もできませんし、責任も取れませんけど)。技術的にどう実現してるのかの詳細には興味がありますが、何らかの係争に発展しない限りは表に出てくる可能性は低いのではないでしょうか(他MVNEには無い強力なツールの詳細を明かす必要なんてない、と経営的には判断するでしょうから)。
以上。