富士重が産業機器事業の終了を決定したが、航空機は?

本投稿は金融商品等の投資勧誘を目的とするものではありませんし、投資判断の根拠として依拠すべき情報でもありません。
 
 富士重工が産業機器事業の終了を決定した旨が報じられています。当該の件を私が初めて目にしたのはITmediaの以下の記事。
富士重、産業機器事業から撤退 自動車に集中 - ITmedia ビジネスオンライン
 記事タイトルから、自動車以外は全部辞めてしまうようにも解釈できます。個人的には航空機事業がどうなってしまうのか興味があるのですが、当該記事本文を読んでも触れられておらず、判りません。
 

 正確な情報を得るべく、富士重工の公式のニュースリリースを探したところ以下が該当するようで、冒頭を引用すると以下の通り。

富士重工業は、今後の持続的成長の実現を目指し、事業の中核である自動車事業のさらなる競争力の強化 に向けて、経営資源をより有効に活用するために、産業機器事業を終了することを、本日の定例取締役会 にて決定しました。

富士重工業 産業機器事業の終了を決定(PDF/147 kB)
 

 公式のニュースリリースでも航空機事業については触れられておらず、産業機器事業に含まれるのか気になりますが、富士重の事業紹介を見るとそうではないようです。
富士重工業株式会社 : 企業情報 > 事業案内

 「富士重工業株式会社」は「スバル自動車部門(Automotive Business)」と「航空宇宙カンパニー(Aerospace Company)」があり、富士重工業を構成する3つの事業として以下の説明が掲載されています。

  • スバル自動車部門
    • 乗る人すべてにとって安心で愉しい走りを約束するクルマの開発を続けています。
      【主な事業案内】自動車ならびにその部品の製造、修理および販売
    • 産業機器製品
      【主な事業案内】発動機および発動機搭載機、ならびにその部品の製造、修理および販売
  • 航空宇宙カンパニー
    • 日本の航空宇宙産業をリードし、多種多様な航空機の開発・生産に携わっています。
      【主な事業案内】航空機、宇宙関連機器ならびにその部品の製造、販売及び修理

 

 ニュースリリースの表現と突き合わせると「スバル自動車部門」の「産業機器製品」が今回の事業終了対象と解釈するのが適切なようで、航空機事業を手掛ける「航空宇宙カンパニー」には無関係と考えられそうです。ということで、航空ファンとしては安心して良さそうです。以下、富士重の航空宇宙カンパニーの最新動向を紹介します。
 

中島飛行機から100年

 先月開催された2016年国際航空宇宙展(Japan International Aerospace Exhibition 2016)にも富士重は出展していました。
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↑ブース入口で大々的に展示された右側の機体がUH-X、左側の機体が412EPIの40%スケールモデル

 陸自が運用しているUH-1Jの後継機として開発されているUH-Xと、米ベル社と共同開発中の412EPIの関係は、以下のパネルを読むとよく解ります。

UH-X

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新多用途ヘリコプター「UH-X」
災害派遣活動等でも活躍している、陸上自衛隊向け多用途ヘリコプター「UH-1J」の後継機種。「UH-X」は「412EPI発展型機」をプラットフォームとして開発。

Next-generation Utility Helicopter UH-X for Japan Ground Self-Defense Force (JGSDF)
A successor helicopter to the UH-1J Utility Helicopter for the JGSDF, which is well known as the aircraft playing active roles on disaster relief missions. The advanced variant of 412EPI constitutes a platfoem for the UH-X.

 

412EPI

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新中型ヘリコプター「412EPI発展型機」
富士重工業が米国ベル・ヘリコプター・テキストロン社と国際共同開発中の、高い信頼性と汎用性を持つ412シリーズの最新型となるヘリコプター。性能と安全性の向上のため、金属表面加工技術、高効率生産技術など、弊社独自技術を最大限に投入。

The advanced variant of the 412EPI helicopter
FHI jointly develops with Bell Helicopter Textron Inc. an advanced variant of the 412EPI. FHI applies its original cutting-edge technologies, such as metal surface treatment technologies as well as highly efficient production system derived from civil aircraft production.

 

自衛隊納入機

 富士重が納入している自衛隊向け航空機のパネル展示もありました。
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  • 練習機T-5/Trainer T-5
  • 初等練習機T-7/Primary Trainer T-7
  • 多用途ヘリコプターUH-1J/Utility Helicopter UH-1J
  • 戦闘ヘリコプターAH-64D/Attack Helicopter AH-64D
  • 対戦車ヘリコプターAH-1S/Attack Helicopter AH-1S

 

伝統の系譜

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当社の原点は1917年に創設された航空機メーカー「中島飛行機研究所」です。以来、航空機づくりの技術とスピリットを受け継いで日本の航空宇宙産業をリードし続けており、これまで多種多様な航空機の開発/生産に携わってきました。伝統と実績に裏付けられた高度な品質と技術、高い安全性により、航空宇宙カンパニーはさらなる発展へ向け、たゆまぬ努力を続けていきます。

We originated Nakajima Aircraft Laboratory established in 1917. Since then, we have been leading the Japanese aircraft industry by developing and manufacturing a variety of aircraft, with inherited technology and spirit.
Aerospace Company's superior performance, development capabilities, and special emphasis on safety based on the experience and achivements, we continue to make effort for further growth among the world's aircraft manufactures.

 中島飛行機時代から富士重が携わった航空機が年代と共に整理されていました。紫色で表示された航空機はプライムコントラクト、緑色で表示された航空機はジョイント/サブコントラクトとして関わったことを示しています。概ね年代順に記載すると、

  • 創業から終戦まで
    • 九七式戦闘機(KI-27)
    • 九七式艦上攻撃戦*1(B5N1)
    • 月光(J1N1)
    • 零戦(A6M)
    • 隼(KI-43)
    • 呑龍(KI-49)
    • 鍾馗(KI-44)
    • 彩雲(C6N1)
    • 天山(B6N1)
    • 疾風(KI-84)
    • 橘花(KIKKA)
    • 連山(G8N1)
  • 戦後
    • T-34A
    • T-1A
    • LM-1
    • L-19E
    • T-1B
    • YS-11
    • KM-2
    • UH-1B
    • 204B
    • PS-1
    • FA-200-160
    • FA-200-180
    • FA-200-180AO
    • P-2J
    • BQM-34A/AJ
    • C-1
    • US-1/1A
    • UH-1H
    • T-2/F-1
    • 204B-2
    • FA-300
    • 747SP
    • T-3
    • 767
    • F-15J
    • P-3C
    • TL-1
    • AH-1S
    • CHUKER II*2
    • T-4
    • FOKKER 50
    • 747
    • J/AQM-1
    • T-5
    • MD-11
    • 757
    • U-125/125A
    • BQM34AJKai
    • UH-1J
    • 777
    • 205B
    • RPH2
    • ALFLEX
    • UAV
    • OH-1
    • F-2A/B
    • H4000
    • T-7
    • HSFD
    • FFOS
    • 飛行船
    • AH-64D
    • E500
    • FFRS
    • UAVKai
    • 787
    • A380
    • P-1
    • X-2
    • D-SEND#2
    • C-2

 で、来年2017年で創業100周年を迎えるそうです。

 長年のBoeing 7x7シリーズだけではなく、近年ではAirbus A380の製造にも携わっていたり、突如として現れる飛行船にはモデルナンバー無いのかしらとか、いろいろ興味深く見ることができます。1980年代中盤に現れたCHUKER IIがChukar II(MQM-74C)の誤植であれば、そんなころから無人機製造に携わっていたのかとか、その数年後にはJ/AQM-1として空対空ミサイルの訓練用標的としての無人機を製造しているとか、キャッチアップ能力凄いなこの会社。それから数年後にはBQM34AJKaiって改じゃないBQM34AJって存在しないのかとか、等々、いろいろ興味深い点が多すぎます。
 

おまけ

 別ブースで、米ベルの80周年の展示を見かけました。先に触れた412EPIなどで富士重と共同開発している大手ヘリ製造メーカーですが、中島飛行機から100年になる富士重より20年も若いんですね。
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追記

 そういえば今回、「産業機器事業」が終了したのと同じように、かつて富士重鉄道車両も製造していましたが撤退しました。Wikipediaによれば東武鉄道200形(日光軌道線用車両)もその一つのように記載されていますが、当該車両のWikipediaページでは「宇都宮車輌および汽車製造東京支店」で製造されたとあり、どちらが正しいのかよく解りません。ちなみに、当該車両は東武博物館で展示されており、今でも目にすることができます。
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↑日光軌道線200形203

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↑解説板には「汽車会社で造られた」とあり、汽車製造*3を指しているのかもしれない(であるならば富士重関係ない?)
 



以上。

*1:九七式艦上攻撃機の誤植?

*2:Chukar II(MQM-74C)の誤植?

*3:汽車製造は川重に吸収合併されている。