右舷・左舷の英語表記

 船舶・艦船では船体の右側或いは左側を指す右舷・左舷という表現があります。
 類似して航空機の場合には右翼・左翼という表現がありますが、どこから見た左右で表しているのか混乱することもあります。
wave.hatenablog.com

 船舶の場合は船首を前にして(=操舵室からの視点と同じで)船体の右側が右舷側、左側が左舷側であると、特に何の疑いも無く思っていましたが実際この認識であっています。

 ところで、この右舷・左舷の英語表記を調べてみると、rightやleftと言った表現は出てきません。右舷がSTBD、左舷がPORTと表記されるようです。
 敢えて他の語で示すなら、右舷ならright side of the shipであるものの、when facing forwardという補足をつけなければどの位置から見た右なのか判断が付かないため、そのような混乱を排除できるSTBDという表現が使われているようです。

 なお、船首側がFORE、船尾側がAFTと表記されるようです。
STBD/PORT/FORE/AFT of the ship
 

STBD

 STBDはstarboard(スターボード)の略記で、右舷を表しています。
 陸上で生活していると日常的には全く耳にしないstarboardという単語が何なのかというと、以下のサイトに拠れば"steering board"(ステアリングボード;操舵板)が訛って"starboard"になったそうです。
スターボードサイド、ポートサイドって?/海の不思議箱 日本船舶海洋工学会 海洋教育推進委員会
 

PORT

 PORTは略称ではなく、港を意味するポートで、これが左舷を表しています。
 歴史的には前述の操舵板が右舷側に設置されていたため右舷側には接舷できず、何もない左舷側で接岸していたということから港側を表してPORTと呼ばれるようです。現在でも多くの港では左舷側に接岸することが多いようです。
 

FORE

 FOREはforwardと表記されることもあるようですが、略記というわけではないようです。
 日常的にはあまり使う機会は少ない気がしますが、foreは単独の英単語でLONGMAN英英辞典に拠れば、名詞の前でだけ使われる形容詞で、船や航空機の前方を指すとされています。カタカナ英語的には「フォー」と読みます。
fore | meaning of fore in Longman Dictionary of Contemporary English | LDOCE
 

AFT

 AFTも略記というわけではないようで、単独の英単語のようです。
 LONGMAN英英辞典によれば形容詞で船や航空機の後方を指すとされています。カタカナ英語的には「アーフトゥ」「アフトゥ」的な読みが近そうです。
aft | meaning of aft in Longman Dictionary of Contemporary English | LDOCE
 

蛇足

 なお、LONGMAN英英辞典のように、STBD/PORT/FORE/AFTといった表現が船舶だけではなく航空機でも用いられているという情報は見当たるのですが、国や組織によって実際に利用されているのか状況は違うようです。

 以下の書き込みによれば、英空軍やBAEで20年にわたりメンテナンスに従事してきたという人はPORTやSTBDなんて単語は使っていないと言っている一方で、英空軍の文書では使っているという人もいるようです。使っていないならどう表現しているのかというと1番エンジンや右エンジン、右メインギアなど、番号や左右での表現が使われているようです。
flight controls - Why is port-starboard terminology used in aviation? - Aviation Stack Exchange

 また、先にリンクを張った日本船舶海洋工学会のページには以下の記述があります。

左舷への接岸の考え方は、航空機にも取り入れられており、人の出入り口は機体の左側に設けられています。ただ航空機では機体の右側、左側のことをスターボード、ポートとは呼んでいないようです。

 といったことから、日本国内では航空機に対してSTBDやPORTといった表現は利用されていなさそうな感じがします。
 なお、航空機の出入口が機体の左側とありますが、必ずしもそうではなさそうです。例えば戦後初の国産旅客機であるYS-11には機体の左右両側にドアが設けられた個体があることが確認できます(納入先会社や組織の要求仕様によって異なるようです)。
YS-11左側
YS-11右側
 



以上。