2017年9月16日に開催された横田基地日米友好祭で、例年同様航空自衛隊入間基地のパトリオット*1発射機が広報展示されました。
今年になって特に活発化している感のある北朝鮮のミサイル開発の影響や、開催前日に日本上空を通過する弾道ミサイルの影響もあってか、例年以上に今回の展示は多くの人の興味を引いていたように見えました。
発射機全体
↑小雨が降る状況下で人が減るのを待っても、完全に人が捌けることは無く、注目の高さを感じます。
発射機右側面
↑2つのハコ(キャニスタ)が並んでいるのが判りますが、違うハコが並んでいます。
発射機後方
↑後ろから見るとよく判りますが、写真左側のハコは4分割されているように見えます。すなわち左側はPAC-3のキャニスタで、分割されていない右側にはPAC-2のキャニスタが搭載されています。
個人的には異なるキャニスタを同時に搭載している様子は初めて見ました。
発射機左側面
↑この位置から見ると、報道や自衛隊イベントで見かける見慣れたパトリオット発射機らしい姿をしています。
なお、仰角は動的に角度変更することはできず、設置した際に固定されるそうで、一見すると不便そうな感じもします。が、少し考えると、ミサイル発射地点とパトリオット発射機の位置関係が変化しないならば、実用上問題が無いことも解ります。すなわち高速移動する航空機から発射される空対地ミサイルのようなものを撃墜する用途では不便でしょうけれど、地上基地から発射されるミサイルを撃墜する用途では特に影響ないように思えます。
蛇足
ところで例年展示されている発射機とは様子が異なることに気付きました(PAC-3とPAC-2を同時に搭載していることも珍しい気がしますが、その点ではなく。)。
↑上記は2015年の展示を撮影した画像ですが、キャニスタ後部に"INERT MRT"(MRTはMissile Round Trainerの略)の表記があります。すなわち模擬弾であることが表示されているのですが、今年の展示にその表示は見当たりませ…ん?
↑2017年のキャニスタをアップで撮ると、PAC-3の方には破線で囲った部分にINERT表示が有るような、無いような。このラベルはマスキングテープのようなもので、剥がすとINERT表示が現れるのを剥がし忘れたのか、昨今の情勢からINERT弾を実戦転用するため、INERT表示を塗りつぶして塗装したものの、元のINERT表示がラベルで行われており剥がれかかっているのか…。
気になったので近くに居た隊員さんに聞いてみたところ、展示されているのは模擬弾だそうで。なお、情勢的に昨今は忙しいのか伺ってみたところ、やはり大変だそうで。民間人の私からは頑張ってくださいと声をかけるくらいしかできませんけど。
解説パネル
発射機
↑簡潔に説明されていますが、後述の英語版パネルも設置されているのに諸元に英語表記があるのは謎です。しかもこちらはOverall Lengthが10.43mなのに対して、後述の英語版ではLengthが15.65mと、Overallの方が短いというカオスっぷり。
発射機(LS)
Launching Station
1 概要
高射隊が保有するミサイルの発射装置であり、ミサイルを内蔵するキャニスタを最大4個キャニスタ搭載可能である。戦闘間、射撃管制装置(ECS)からの統制により無人で射撃を行う。
発射角については固定、方位角については左右に変更が可能である。
2 諸元(展開時)
全長: 10.430m
全幅: 5.840m
全高: 10.570m
重量: 22,380kg (PAC-2)
23,500kg (PAC-3)
発射機(英語版)
↑日本語版とは微妙に違う内容の説明になっています。
Launching Station (LS)
PURPOSE, CAPABILITIES, AND FEATURES
The LS is used to launch the MIM-104GM or PAC-3 munition.
The LS is remotely operated, and up to four MIM-104GMs or up to four PAC-3 munitions (16 Missiles).
The LS is locally raised to a fixed angle for firing and cannot be remotely raised or lowered.
Physical Data
1.Length: 51.4ft (15.65m)
2.Width: 19ft (5.84m)
9.5ft (2.9m) Travel Mode
3.Height: 13ft (3.97m)
4.Weight: 49,339lb (22,380kg) 4 PAC-2
51,807lb (23,500kg) 4 PAC-3
高射隊の主要機材
※パネル表面に張られた透明ビニールによる反射・映り込みで画像が見難くなっています※
↑発射機(LS)だけでは機能しないよ。というのがよく判ります。発射機の解説パネルにもあった射撃管制装置(ECS)でかではなく、他にもレーダー装置(RS)や電源車(EPP)などの必要機材があります。
高射隊の支援機材
※パネル表面に張られた透明ビニールによる反射・映り込みで画像が見難くなっています※
↑主要機材を運用するために必要な支援機材が紹介されています。
- 指揮・管制
- 有蓋指揮車
- 整備支援車両
- 隊整備センターⅠ型
小型部品運搬車 - ミサイル再搭載
- レッカー車
ミサイル運搬車 - 後方支援車両
- 燃料タンク車
水タンク車
炊事トレーラー
待機車1号
待機車2号
ペトリオットの防空戦闘のイメージ
※パネル表面に張られた透明ビニールによる反射・映り込みで画像が見難くなっています※
↑高度の高い弾道ミサイルに対して防御可能なエリアは狭く、それよりは相対的に低い航空機や巡航ミサイルに対して防御可能なエリアは広がるものの、基本的にはそれ程広くない範囲の拠点防空のためのシステムであることが薄ら解ります。
弾道ミサイル対処の概念(イメージ図)
※パネル表面に張られた透明ビニールによる反射・映り込みで画像が見難くなっています※
↑昨今話題の弾道ミサイルにフォーカスした図。航空自衛隊のパトリオットが対処するのはターミナル段階と言われる大気圏再突入後の高度が落ちてきている段階(低いので迎撃のための飛距離も短くて済むが、敵ミサイルの速度は速い状態)で、それ以前に海上自衛隊のイージス艦がミッドコース段階と呼ばれる宇宙空間を飛行中の段階(高いので迎撃のため長距離を飛ばす必要があるが、敵ミサイルの速度は最も遅い状態)で(書いてないけどSM-3で)撃墜を試みることが判ります。
すなわち日本国土を狙ったミサイルが発射されたなら、(ミサイル発射を探知・追尾することに成功し)国民保護情報としてJアラートで警報が通知されるのとほぼ同時か数秒後には、海上自衛隊のイージス艦からSM-3ミサイルで迎撃を試行しているはずです。それで打ち漏らしたら、航空自衛隊のPAC-3で迎撃を試みることになるのでしょう。昨今発令されたJアラートでイージス艦がSM-3ミサイルを発射していないのは、発射後のミサイルの軌道が日本国土を明確に狙っていると判断できないからなのでしょう(それでも、不測の事態に備えてミサイルの推定飛行経路の半径何キロ圏内の自治体にはJアラート発令といった感じの運用をしているのだと推測されます)。
その他
*1:自衛隊的には「ペ」トリオットが正式表記。LONGMAN英英辞典によれば原語"patriot"は愛国者的な意味ですが、その読みはカタカナでは「パトリエット」と「ペイトリオット」的な2種類の発音がある模様。
patriot | meaning of patriot in Longman Dictionary of Contemporary English | LDOCE
*2:Wikipediaによれば台数ベースで約6%のLAVが空自向けのようです。
軽装甲機動車 - Wikipedia