SpaceXのFalcon Heavyが「世界最強」は適切な表現か

 ヤフーニュースにも掲載されていましたが、朝日新聞が以下の記事を掲載しています。
「世界最強」ロケット、来月打ち上げ 積み荷はテスラ車:朝日新聞デジタル

 記事タイトルでも「世界最強」という言葉が使われていますし、本文中でも以下のように記載されています。

米宇宙企業スペースXは、月や火星探査用に開発中の「世界最強」の大型ロケット・ファルコンヘビーを2月6日、米フロリダ州の米航空宇宙局(NASA)のケネディ宇宙センターから初めて打ち上げる。最高経営責任者(CEO)イーロン・マスク氏が27日、自身のツイッターで明らかにした。

 この記述ではイーロンマスク氏が「世界最強」とTwitterに投稿したかのように(私には)思えます。軍事転用も可能なロケット開発で、"world's strongest"とかそんな感じの(受け取り方によっては物騒な感じもする)言葉を使うだろうかと疑問に思ったので調べてみました。
 

 朝日新聞の記事中にある27日のイーロンマスク氏のTwitterの投稿で、Falcon Heavyについて言及しているものは以下の投稿しか無いようです。


 日本語訳すると、「アポロが打ち上げられたケネディ宇宙センターの39A発射場で2月6日にファルコンヘビーの打ち上げを目指しています。公道からも簡単に見れますよ。」といった感じの内容で、朝日新聞の言う「世界最強」に相当するような語は投稿中で使われていません。

 一方、今回のFalcon Heavyの打ち上げについての海外メディアの記事では"the most powerful rocket"という表現が多く使われているようです。これに「世界最強」という日本語を充ててきたのなら、朝日新聞の意訳が不適切な気がします。ここでいう「パワフル」は宇宙への物資搬送能力の事を言っているのであり、強さの事を言っているのではありません。

 なお、SpaceX社自身による説明では以下の記述があり、"the most powerful operational rocket"と表現されています。"operational"という語が使われており、現役の(運用中の)ロケットで最もパワフルだという説明です。
 具体的には現役のボーイングなどが手掛けるDelta IVロケットの2倍以上のペイロードを1/3のコストで打ち上げられる事、1973年のSaturn VロケットだけがFalcon Heavyより多くのペイロードを軌道上に搬送できることなどが説明されています。

When Falcon Heavy lifts off in 2018, it will be the most powerful operational rocket in the world by a factor of two. With the ability to lift into orbit over 54 metric tons (119,000 lb)--a mass equivalent to a 737 jetliner loaded with passengers, crew, luggage and fuel--Falcon Heavy can lift more than twice the payload of the next closest operational vehicle, the Delta IV Heavy, at one-third the cost. Falcon Heavy draws upon the proven heritage and reliability of Falcon 9. Its first stage is composed of three Falcon 9 nine-engine cores whose 27 Merlin engines together generate more than 5 million pounds of thrust at liftoff, equal to approximately eighteen 747 aircraft. Only the Saturn V moon rocket, last flown in 1973, delivered more payload to orbit. Falcon Heavy was designed from the outset to carry humans into space and restores the possibility of flying missions with crew to the Moon or Mars.

Falcon Heavy | SpaceX


 ところで、CNNの以下の記事は今回の打ち上げの内容がよくまとまっており解りやすいです。何が凄いの?何を宇宙に送り届けようとしているの?どれだけコストがかかるの?それって安いの?出来るの?もし爆発したら?どうすれば打ち上げを見れるの?といった段落構成ですので、興味のある方は(英語ですが)参照されると興味深いのではないかと思います。
SpaceX sets February launch date for Falcon Heavy. Here's what you need to know - Jan. 27, 2018
 

蛇足

 Falcon Heavyの話から脱線しますが、件のイーロンマスク氏のTwitter発言を探している際、氏のアカウント以外にSpaceXやTeslaのアカウントもチェックしていたところ、以下の投稿をTesla公式がRTしているのを見つけました。
 雪道で動けなくなったトラックをテスラのモデルXがけん引している映像のようです。テスラ車(というか電気自動車)は加速が凄いというイメージがありましたが、トルクもなかなかパワフルなようです。

 これを見たら数年前に日本では軽自動車(スズキのジムニー)がトラックをけん引してたのが話題になったのを思い出しました。
www.youtube.com

 Tesla Model X vs Suzuki Jimny でどちらがパワフルで世界最強なのかを検証してみると面白いネタになりそうな気がします。ジムニーならモデルXの1/nのコストでトラックをけん引できます!といった具合で。
 



以上。