SONYがワンボードマイコンに参入

 SPRESENSE(スプレッセンス)という名称でSONYがIoT向け開発ボードを発売することがImpressによって報じられました*1
ソニー、GPSやハイレゾ録音/再生に対応したIoT向け開発ボード「SPRESENSE」 - PC Watch
 

 SONY公式のニュースリリースは以下。
Sony Japan | ニュースリリース | 低消費電力のIoT向けスマートセンシングプロセッサ搭載ボード「SPRESENSE™」を商品化

 同じくSONY公式のSPRESENSE開発者向けサイトは以下。
Overview - Spresense - Sony Developer World
 

 これらの情報によれば、ソフトウェアの開発環境は、Arduino IDEEclipse IDE等に対応するとされています。
 また、販路についても「オンラインならびに一部店頭での販売を予定」とされていますので、法人と言うか産業用途向けだけではなく、一般個人もターゲットとなっているようです。

 以下に、簡単に特徴とスペック等を纏めてみます。
 

メインボード(CXD5602PWBMAIN1)

Model name CXD 5602 PWBMAIN 1
メーカー希望小売価格(税別) 5500円
CPU ARM Cortex-M4F (6 cores)
CPU clock 156MHz (Max.)
RAM 1.5MB
FLASH Memory 8MB
Digital I/O GPIO, SPI, I2C, UART, PWM, I2S, Camera
Analog Terminal 2ch (0.7V range)
GNSS GPS, GLONASS
Dimensions 50.0 mm x 20.6 mm

SONY SPRESENSE メインボード CXD5602PWBMAIN1

SONY SPRESENSE メインボード CXD5602PWBMAIN1

  • Arduino IDE対応を謳っているが、オリジナルArduinoとは異なりAtmelのAVRマイコンではなくARMアーキテクチャ
  • AVR等のマイコンのEEPROMに対応するのが、本機ではフラッシュメモリになっていると思われる
  • 純正Arduinoより圧倒的に高速なプロセッサを搭載しつつ、大容量メモリ・フラッシュメモリを搭載
  • Cortex M4FはCortex M4のFPU(浮動小数点演算装置)搭載バージョンの名称*2
    • Coretex MシリーズはARMの32bit RISCプロセッサシリーズ
    • Cortex M4シリーズは開発ボードの類ではmbedで採用されていたりする
    • 本機に搭載されるプロセッサ(SoC)自体の製造元は不明(SONY自社製?)
      • Cortex MシリーズでもLinuxを動かしている事例もあるが、搭載機能の差異によってLinuxを動かすことが不可能なチップもある模様
      • シングルボードコンピュータを謳っているわけでもないので、基本的には本機ではLinuxは動かないと考えておくべきと思われる
  • 電源及び消費電力不明
    • microUSB端子らしきものが見える画像があるので、給電はmicroUSBから5Vを供給すると思われる
    • ニュースリリースには「スマートセンシングプロセッサにFD-SOIを採用し、動作電圧を下げることで、低消費電力を実現」とあるので、ボード上の電源回路部で降圧していると思われる
  • I/Oピンの電圧は1.8Vと思われる*3
  • ニュースリリースにはメインボードの主な特徴として「192kHz/24ビットのハイレゾ音源の録音・再生」とあるが、該当するアナログ入出力端子は見当たらない
    • 拡張ボードにメインボードが乗っかるようなコネクタがあるので、そこにアナログオーディオ信号も乗っていると思われる
  • アナログ端子は入出力どちらなのか不明確(DAC/ADC両方搭載して任意に設定できるのかもしれないが情報が見当たらない)
  • GPS/GLONASSには対応しても、日本のみちびき(QZSS)の対応は謳われていない
    • QZSSのGPS互換信号(L1C/A)にも対応していないのだろうか?
  • Arduino UNOより小さいが、Arduino Nanoより大きい(同一基板サイズのArduinoは恐らく無い)
    • 基本的には拡張ボードにメインボードを乗せた状態で使用することを想定していると思われる

 

拡張ボード(CXD5602PWBEXT1)

Model name CXD 5602 PWBEXT 1
メーカー希望小売価格(税別) 3500円
Audio I/O 8ch digital microphone input
or
4ch analog microphone input, headphone output
Digital I/O 3.3V or 5V digital I/O
SD card slot *4
Dimensions 68.6 mm x 53.3 mm

SONY SPRESENSE 拡張ボード CXD5602PWBEXT1

SONY SPRESENSE 拡張ボード CXD5602PWBEXT1

  • Arduino UNOと同一サイズ
    • ネジ穴の配置も同様に見える
    • ピンソケットの配置も同様に見えるが、ピンアサインは不明

 

雑感

  • IoT向けを謳っているのに、有線/無線LAN共に(もちろん、3G/LTEも)未搭載のため、単体ではネットワークに接続できない
  • 既存のArduinoシリーズ及び互換ボードよりも高価
  • プロセッサ及びメモリは一般のArduinoより高速・大容量だが、Raspberry PiのようにLinuxのようなOSが動くわけでもない(と思われる)
    • ニュースリリースに例示された、「GNSS測位技術と高機能プロセッサを活用して飛行制御を行うドローン」のような用途には適していると思われる
    • 一方で、「音声で操作するスマートスピーカー、低消費電力のセンシングカメラなどのIoT端末」のような用途では、前述のように本機単体ではネットワークに繋がらないのであまり適してないのではないかと思われる

 

 というわけで、制御のために複雑な計算をするし、メモリも比較的多く消費するし、プログラムも巨大だけど、ネットワークは要らないという特殊な用途があれば本機は活躍すると思います。

 そうでなければ既存のArduino互換ボードやRaspberry Piシリーズをはじめとするシングルボードコンピュータの方が安価かつ先行事例も多いため、開発しやすいとも思います。
 例えば、Arduino IDEで開発可能なマイコンボードESP-WROOM-32なら技適マークの付いた無線LAN/Bluetooth搭載で1000円台から市販されていますし、GPSモジュールも安いものは1000円台で市販されています。Raspberry Piならハイレゾオーディオに対応した拡張ボードも市販されてます。

 といった事を踏まえると、まだまだ情報が少なく、見落としているメリットや特徴があるのかもしれませんが、SPRESENSEならではという優位性があまり見当たらないとも思ってしまいます。
 



以上。

*1:本投稿記載時点ではImpressの記事中の画像キャプションは間違っています。「メインボード「CXD5602PWBMAIN1」(右)と拡張ボード「CXD5602PWBEXT1」(左)」とありますが、左右逆です。小さい方がメインボードで、大きい方が拡張ボードです。

*2:https://en.wikipedia.org/wiki/ARM_Cortex-M#Cortex-M4

*3:ニュースリリース本文の拡張ボードの説明に「メインボードのI/O電圧を1.8Vから3.3Vもしくは5.0Vに変換が可能なコネクター」と記載されている。

*4:画像から察するにmicroSDスロットと思われる