クァンゲト・デワン級駆逐艦の対空兵器

 以下の投稿で、クァンゲト・デワン級駆逐艦の搭載レーダーについて主に記載しましたが、本投稿では対空兵器について記載します。
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クァンゲト・デワン級駆逐艦の対空兵器

 Wikipediaによればクァンゲト・デワン級駆逐艦には(魚雷や対艦ミサイルといった明らかに対空戦闘に使えない装備を除外すると)、以下の兵装があるようです*1
広開土大王級駆逐艦 - Wikipedia

 単装砲とCIWSに加えてVLSという装備は、特筆すべき点はなく海上自衛隊護衛艦も似たような装備を搭載しています。
 中でも、たかなみ型護衛艦あたりが近そうに思えるので、これらの装備についてたかなみ型を参考に記載します(以降の掲載画像は護衛艦たかなみの一般公開時に撮影したものです)。

たかなみ型護衛艦1番艦 たかなみ(DD-110)の艦首付近
たかなみ型護衛艦1番艦 たかなみ(DD-110)の艦首付近
 

54口径127mm単装速射砲

海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)の54口径127mm単装速射砲
海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)の54口径127mm単装速射砲
 イタリアのOTO MELARA社が開発した砲です。ちなみに艦これに登場する「OTO 152mm三連装速射砲」のOTOもこの企業を指していますが、2016年にイタリアのFinmeccanica社の防衛部門に吸収され、FinmeccanicaはLeonardoへと社名変更しています。
 イタリア海軍のみならず、世界各国で採用されておりクァンゲト・デワン級駆逐艦に搭載されている砲と、たかなみ型護衛艦に搭載されているものは同じものです(ただし、護衛艦たかなみの砲は日本製鋼所によるライセンス生産)。

海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)の54口径127mm単装速射砲の解説パネル
海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)の54口径127mm単装速射砲の解説パネル
 海自の解説パネルによれば毎分10~40発の連射が可能で、仰角83度~俯角-15度まで向けられるとされており、比較的角度の浅い水上艦や沿岸部などへの対地攻撃のみならず、上空を飛行する航空機に対しても砲撃可能なようです。また、Wikipediaによれば有効射程は対水上で15000m、対空で7000mとされています。
オート・メラーラ 127 mm 砲 - Wikipedia
 一般の旅客機の巡航高度は高度1万m程度と言われていますが、哨戒任務中の哨戒機の巡航高度についての情報は見当たりません(軍事情報なので当然と言えば当然ですが)。とは言え、哨戒機は海上・海中の監視をするために飛んでいるわけですから、任務中は旅客機より低い高度で飛行しているのではないかと想像され、場合によってはこの砲の射程内を飛行するようなこともあるかもしれません。

海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)の54口径127mm単装速射砲の砲弾(模擬弾)
海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)の54口径127mm単装速射砲の砲弾(模擬弾)
 127mmすなわち5インチの砲弾を使用しますが、改めて現物を見るとでかいです。奥に映りこんでいる来場者の靴と比較するとイメージ付きやすいと思います。

 こんなものが航空機に被弾したら…しかも毎分40発のペースで撃ち込まれたら…。戦闘機より低速で大きな哨戒機は的にされたら当たりやすいことを考えると、十分な脅威でしょう。
 

CIWS

海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)のCIWS
海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)のCIWS
 CIWSとはClose-In Weapon Systemの略で、その名の通り近づいてきた敵(のミサイルや航空機)にバルカン砲を浴びせて撃滅するためのシステムです。システムと言っているのは単なるバルカン砲ではなく、レーダーと追尾装置やそれらを制御するコンピュータ等を複合した装置だからです。バルカン砲の上に乗っかっているように見える白い円筒状の箱の中にはレーダー等が入っています。
 多くの海自護衛艦CIWSを搭載していますが、クァンゲト・デワン級駆逐艦CIWSとは別物です。

海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)のCIWSの解説パネル
海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)のCIWSの解説パネル
 海自の解説パネルに「高性能20mm機関砲」とあるように、海自で採用されているCIWSは米国レイセオン社のPhalanxと呼ばれるもので20mm弾を使用しますが、クァンゲト・デワン級駆逐艦はオランダSignaal(現Thales Nederland)社のGoalkeeperと呼ばれる30mm弾を使用するものです。
 Wikipediaによれば有効射程はPhalanxが1.49km、Goalkeeperが350~1500mまたは2000m(使用する弾薬によって異なる)とされています。
ファランクス (火器) - Wikipedia
ゴールキーパー (火器) - Wikipedia

 CIWSは上記の海自の解説パネルにも記載されていますが、VLSより発射したSeaSparrowや127mm単装砲が外れて、自艦まで接近してきた対艦ミサイル(や航空機)に対する最後の砦という位置づけです。そもそも射程距離も短いですし、弾も小さいです。
 この特性から、哨戒機がCIWSの射程に入るほど接近・低空飛行すれば脅威となるでしょうが、通常は脅威とはなり得ないでしょう。
 

VLS

海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)のVLS
海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)のVLS
 VLSはVertical Launching Systemの略で、垂直にミサイルを発射するシステムです。上記護衛艦たかなみ(DD-110)の画像では32個の小さな蓋が格子状に並んでいるのが確認できますが、このそれぞれの箱の中にミサイルが格納されます。
 多くの海自護衛艦VLSを搭載していますが、クァンゲト・デワン級駆逐艦と同型のVLSを搭載しているのはむらさめ型護衛艦のみです。

海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)のVLSの解説パネル
海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)のVLSの解説パネル
 たかなみ型を含めほとんどの海自護衛艦VLSはMk 41であるのに対して、クァンゲト・デワン級駆逐艦はMk 48を搭載しています(いずれも米国ロッキードマーチン社)。
 Mk41が対空・対潜・対弾道弾と多様なミサイルを発射可能であるのに対して、Mk48はSeaSparrow専用すなわち対空ミサイルのみが発射可能な限定的なシステムとなっています。

海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)のVLSの解説パネル(対空戦)
海上自衛隊護衛艦たかなみ(DD-110)のVLSの解説パネル(対空戦)
 通常の砲は敵に向けて発射しますが、VLSは敵がどこにいても垂直(真上)に発射し、上空で向きを変え敵に向かいます。例えば艦首に設置した砲では、艦橋など艦上構造物が邪魔になるため艦尾方向には発射できませんが、VLSから発射されたミサイルなら360度全方向に対して攻撃が可能というメリットがあります*2

 対空ミサイルSeaSparrowを発射するためのVLSを搭載していることから、航空機にとっては重大な脅威となり得ます。クァンゲト・デワン級駆逐艦がSeaSparrowを発射するには、前回の投稿で触れた火器管制レーダー(STIR 180)を使用することになります。
 

雑感

 以上より航空機にとっての脅威レベルが高いクァンゲト・デワン級駆逐艦の対空兵器はVLS(SeaSparrow)、54口径127mm単装速射砲、CIWS(Goalkeeper)の順になると考えられます。
 CIWSは独立したレーダーをシステムに内蔵していますので、VLS(SeaSparrow)と54口径127mm単装速射砲が火器管制レーダーSTIR 180による制御であると考えられます。
 54口径127mm単装速射砲を哨戒機に向けて発射するつもりなら、レーダー照射以外にも砲塔の旋回・砲身の仰角変更といった動きが(光学で確認できる距離なら)前兆として確認できるでしょうが、VLSから放たれるSeaSparrowの場合はレーダー照射以外に攻撃の前兆は確認できないでしょう。正確にはVLSの蓋が開くのが確認できるかもしれませんが、以下の映像などを見る限りでは蓋が空いて1秒以内にミサイルが発射されますので、蓋が空いたのが見えた直後には撃墜されているでしょう。
www.youtube.com

 これらのことから、火器管制レーダーSTIR 180からレーダー波を照射された航空機はSeaSparrowによる攻撃に晒されるリスクを排除できず、相当な緊張状態に置かれることは間違いありません。
 



以上。

*1:搭載レーダーについては日本語版Wikipediaのみ多言語版と異なる(恐らく誤っている)情報が記載されていましたが、兵装については日本語版、韓国語版、英語版、中国語版での差異は無いようです。

*2:単なる砲弾よりミサイルの方がもちろんお高いですが、誘導ミサイルの高い命中率も加味すると1発あたりの単価で比較することにあまり意味は無い