KAWAI Kシリーズシンセの系譜を整理する

 ZOOM RhythmTrakシリーズの型番が判りにくいなんてことを書きましたが、KAWAIのシンセサイザーも難解だよなと思いつつ、自分も良く知らないモデルもあるので調べながら整理してみました。
 ご存じの通り、KAWAIのシンセサイザーは20年以上前のK5000シリーズを最後に事実上の絶滅種となっており、現行製品はありません*1。興味が無い人は見向きもしないけど、欲しい人は欲しい、そんな機材です。
 

歴代モデル

 Kシリーズ(と関連モデル)を整理して一覧にすると、下図のようになります。よくある誤解*2ですが、K1, K3, K4, K5, K5000の数字順に発売されたのではありません。

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KAWAI Kシリーズ歴代シンセサイザー一覧
※現在ではマニュアルPDFが公式から参照できるようになっているので、そこから情報を拾い読みして整理したものですが、私の読み違いや誤記が含まれるかもしれません。
※リリース月としたのはMIDIインプリメンテーションチャートに記載の日付またはマニュアルPDFのファイル名に含まれる日付から拾ったもので、厳密な発売月ではありません。

 各シリーズの特徴的な機能を箇条書きにすると以下のようになります。(敢えてKシリーズを今使おうとする人には関係ないと思われるので、)マルチティンバー周りの話は割愛しています。
 

K3シリーズ
  • デジタル・ウェイブ・メモリー音源搭載
  • 2オシレータ
    • 各オシレータにはデジタル音源波形(32種類)またはユーザー書込波形またはホワイトノイズのいずれかをアサイン可能
      • デジタル音源波形: 128倍音で構成されている
      • ユーザー音源波形書込機能搭載: 本体内及びカートリッジに各1つ保存可能, 128倍音までの32倍音の振幅を指定可能(所謂加算合成)
  • ステレオコーラス搭載
  • アナログフィルタ搭載(LPFカットオフ, LPFレゾナンス, HPFカットオフ同時使用可能, EG制御可能なのはLPFカットオフのみ)
  • K3: 61鍵キーボード
  • K3m: 2Uラックマウント

 

K5シリーズ
  • DIGITAL MULTI-DIMENSIONAL SYNTHESIZERと銘打っている
  • ADD音源という表記とARTS(Additive Real Time Synthesis)音源という表記が取説で混在
    • ADDが何の略かは明示されていないが、ADDitiveでARTSをさらに短縮した表記?
    • 最大2SOURCE(オシレータ)の正弦波加算方式
      • 1~127倍音の振幅、エンヴェロープ、モジュレーションを設定可能
  • デジタルフィルタ搭載(LPF, カットオフ, ※レゾナンスそのものは無いがSLOPEとFLAT.LV(フラットレベル)という2つのパラメータを組み合わせてカットオフ周波数付近のレベルを制御可能で、これでレゾナンス的な効果を得ることができるらしい)
    • カットオフ周波数だけではなくSLOPEもモジュレーション可能
  • K5: 61鍵キーボード
  • K5m: 4Uラックマウント※据え置きタイプに変更可*3

 

K1シリーズ
  • VM音源搭載
    • 最大4SOURCE使用可能
    • 各SOURCEにはPCM波形(52種類)/VM波形(204種類)のいずれかをアサイン可能
      • VM波形: FFT分析後128倍音までで再合成された波形
        • VMが何の略か不明だが、後のKシリーズでDC(Digital Cyclic)波形と言っているものと同じ模様
    • 基本思想としてアタックにPCM, サスティンにVMを組み合わせて使うRolandのLA*4みたいな考え方
    • AM(振幅変調・リングモジュレーション)も可能
  • フィルタは無い
  • K1r以外はスティックでベクターシンセと同様に4sourceの音量比率を変えることが可能
  • K1: 61鍵キーボード
  • K1m: デスクトップモデル
  • K1r: 1Uラックマウント, 4パラ出力(K1rのみジョイスティック無) ※バージョンアップで独立したドラムセクション(K1II相当)が使用可能になる
  • K1II: 61鍵キーボード, K1にデジタルエフェクト(リバーブ、ディレイ等16モード)とドラムセクション(ドラムパート)を追加(元々K1シリーズはPCM波形として9個のドラム波形が含まれている)

 

K4シリーズ
  • DMS(Digital Multi Spectrum)音源搭載
    • 最大4SOURCE
    • 各SOURCEには16bit PCM波形(160種類※内43個はDRUM & PERCUS GROUP)/DC波形(96種類)のいずれかをアサイン可能
    • AM(振幅変調・リングモジュレーション)も可能
  • デジタルフィルタ搭載(LPF, カットオフ, レゾナンス)
  • K4: 61鍵キーボード, エフェクト搭載(リバーブ、ディレイ、オーバードライブなど16タイプ)
  • K4r: 2Uラックマウント, 6パラ出力, エフェクト無
  • XD-5: K4rと同一筐体のDMS音源でパーカッション用の派生モデル(PCM波形215種類/DC波形41種類)

 

GMega/K11
  • DMS2(Digital Multi Spectrum 2)音源搭載
    • 最大2SOURCE
    • 各SOURCEにはPCM波形(179種類)/DC波形(77種類)のいずれかをアサイン可能
    • パーカッション波形(255種類)
      • 各波形は16bit/44.1kHzで合計48Mbit
      • DACは18bit
    • AM(振幅変調・リングモジュレーション)も可能
  • デジタルフィルタ搭載(最大2系統同時使用可能, LPF/HPF切り替え可能, カットオフ,レゾナンス)
  • 2系統MIDI IN(32 MIDI channel)
  • デジタルリバーブ搭載
  • GMega XS-2: 1Uハーフラック
    • 型番的にはXS-1の後継となるが、音源システムは全くの別物(SPECTRAの系譜ではなく、Kシリーズの末裔)で、PCと組み合わせて使うハーフラック音源モジュールということでマーケティング観点からXS-2と命名されたと想像される*5
  • K11: 61鍵キーボード*6

 

K5000シリーズ
  • Advanced Additive音源搭載
  • デジタルフィルタ搭載(LPF/HPF選択可能, カットオフ, レゾナンス)
  • デジタルエフェクト(Reverb, GEQ + Chorus/Delay/Distortionなどから4つを同時使用可能)搭載
  • K5000S: 61鍵パフォーマンスシンセ, FORMANT FILTER搭載(モジュレーション可能な128band formant filter), つまみ搭載
  • K5000W: 61鍵ワークステーション, GM対応PCM音源搭載(AdvancedAdditiveの同時発音数とは別に32音ポリ), シーケンサ搭載
  • K5000R: K5000S相当の2Uラックマウント版

 

SPECTRA KC10/XS-1

※KCシリーズはKシリーズと言えるのかかなり微妙

  • 16bit digital synthesizer / 16 bit synthesizer moduleと銘打っているが、音源方式には命名されていない
    • 16bit PCM波形(80種類)/DC波形(48種類)
    • 独立ドラムセクション有
    • 何故かDCA(Amp EG)が2系統ある
  • フィルタ無
  • SPECTRA KC10: 61鍵キーボード
  • XS-1: 1Uハーフラック音源モジュール

 

SPECTRA KC20/GMegaLX

シンセサイザーではなく、パラメータを何も弄れない完全なプレイバックサンプラー

  • 型番的にはKC10/XS-1の後継機で音色数は増えているがシンセサイザーではなくなり、ローエンドDTM市場向け廉価機種
  • GM SOUND KEYBOARD / GM SOUND MODULEと銘打たれており、シンセサイザーではないと製造元も理解している
  • GM SPECTRA KC20: 61鍵キーボード
  • GMegaLX XC-3: 1Uハーフラック音源モジュール, GMega XS-2の後継機のような名前だが音源システムは全くの別物

 

GMouse

シンセサイザーではなく、パラメータを何も弄れない完全なプレイバックサンプラー
※型番も実態もKシリーズでは無い

  • GM SOUND MODULEと銘打たれており、シンセサイザーではない
  • GMouse XC-1: 乾電池駆動対応小型GM対応音源モジュール*7

 

雑感

 個人的にはKAWAIと言えば最後のK5000シリーズの印象が強く、加算合成なイメージですが、同様に加算合成方式なのはK5まで遡ることになります。その間のK1, K4, K11シリーズでも、VM或いはDC波形はフーリエ変換で周波数成分に分解された音を128倍音まで再構成して生成していることから、加算合成部分にはユーザーが直接触れることは無いながらも、加算合成と同じことをKAWAIのエンジニアが施しているわけで、やっぱりこの会社は加算合成が好きなんだなと思います。自分も好きですし、ロジックが単純明快なので自力でCでコード書いて、WAVファイルに書き出してサンプラーに放り込んでDAWで使ったりしますが、オルガン的な音ばかり作れてしまいます。その点、多様な音が作れるようなDC波形としてプリセットされているのは(好みに合えば)効率的に音作りができると思います。
 自分はXD-5から入ったKAWAIユーザーなので、旧機種のことはあまり知らなかったのですが、K3にはアナログフィルターを積んでいたり、(GMegaシリーズはしょぼいと思い込んでいたものの、)実は初代GMega(XS-2)のみKシリーズ直系のDMS2音源で、プリセットGM音源としてではなく自分で音を作るシンセサイザーとしてのポテンシャルは高そうだとか発見がありました。
 興味をひかれる機材は多いものの、YAMAHARoland製機材より明らかに流通している絶対数が少なく、今後目にする機会があるかは解りませんけど。
 



以上。

バンドプロデューサー5 ダウンロード版|ダウンロード版

バンドプロデューサー5 ダウンロード版|ダウンロード版

  • 発売日: 2018/02/01
  • メディア: Software Download

*1:厳密にはバンドプロデューサーというKAWAIの作曲支援ソフトにソフトウェア音源(所謂プリセットサンプラー)が付属しているのが唯一の生き残りと言えるかもしれません。但し、VSTiとかではないので他のDAWから使えません。バンドプロデューサー内で打ち込んで再生させる(か、どうにかしてバンドプロデューサーにデータをインポートする)しか鳴らす方法がありません。他のDAWから使うには、地道にサンプリングするしかないと思われます。

*2:私もかつては間違えていました。

*3:変更時はサービスセンター・販売店に問い合わせと書かれており、ユーザが自力で変更することはできないと思われる。

*4:D-50とかD-10の音源方式

*5:同時期のKORGが05R/WやX5DRとしてシンセ系の型番でハーフラック音源モジュールを作っていたのと同じように、Kシリーズを前面に打ち出した方が実態が判りやすいと思うのです。いずれにせよDTM向けにはKORGもKAWAIもRoland/YAMAHAに全く対抗できませんでしたが…。今となってはDTM向け音源モジュール市場そのものが無くなってしまいましたが…。

*6:発売順序から考えると、従来のKシリーズのように、キーボードを取っ払って音源モジュール版を作っているのではなく、GMega相当の音源部にキーボードコントローラをくっ付けてK11を作ったことになる。

*7:YAMAHAの乾電池駆動対応小型GM対応音源モジュールMU5(MUシリーズ唯一のXG非対応機で、音色パラメータを何も弄れない)辺りの対抗馬と思われる。