KORG AI2 Synthesis Systemの音源モジュールの違いを整理する

 90年代のKORGシンセサイザーの音源システムだったAI2 Synthesis Systemの音源モジュールは色々ありますが、シリーズ名の統一性が無かったり、同じAI2 Synthesis Systemを名乗りつつも機能が違ったりと、判りにくくもあります。個人的な観点から、その主要な違いなどをまとめてみます。
 

AI2 Synthesis Systemについて

  • M1で導入されたAI(Advanced Integrated) Synthesis Systemを発展させた音源方式
    • T1/T2/T3までAI Synthesis System、01/WでAI2に進化
    • TRINITYのACCESS(Advanced Control Combined Synthesis System)登場までの約10年間KORGのPCM方式として継続利用
  • AI2と表記されることもあるが、正確にはAI2
    • 「エーアイ ツー」ではなくAIの二乗を意味する「エーアイ スクエアード」が正しい読み
    • 完全名は"Advanced Integrated Squared Synthesis System"

 

AI2 Synthesis Systemのラックマウント音源モジュール一覧

Year ModelName BaseModel
1991 01R/W 01/W
1992 03R/W -
1993 X3R X3
1994 05R/W X5
1995 X5DR X5D
1997 NS5R N5
1998 N1R N1
1999 NX5R NS5R

※基本的にはベースモデルとなる鍵盤モデルが存在する。但し、03R/Wはベースモデルが無い。また、NX5RはNS5Rに拡張ボードを積んだF/W違いのモデル。
※ラックマウントではないが、音源モジュールという意味ではi5mというモデルも存在する。
 

各モデルの波形メモリ容量と波形数

 ここで言及するのは音色数ではなく、波形(いわゆるwaveformですが、AI2では"MultiSound"と呼びます)の数です。

ModelName PCM ROM Size #of waveform note
01R/W 48Mbit (=6MB) 254 -
03R/W 40Mbit (=5MB) 254 波形総数は01R/Wと同じだが容量が小さく01R/Wとは異なる。MultiSound#1-24までは01R/Wと同じ名前の波形だがそれ以降に違いがある。
X3R 6MB 339 01/W系と収録波形が異なる(鍵盤モデルのX2には#340 Pianoが存在)
05R/W 6MB 339 X3Rと同一波形
X5DR 8MB 429 MultiSound#1-339まで05R/Wと同一。#340以降にM1 PianoやLoreなど過去の定番を含む波形が追加
NS5R 12MB 527 X5DRとMultiSoundの番号が変わったが同一波形は(恐らく)網羅されている
N1R 18MB 562 MultiSound#1-527までNS5Rと同一。#528以降に新規波形追加
NX5R 12MB+ 527+ AI2としてはNS5Rと同一。同一筐体内にYAMAHAのAWM2音源ボードが載っている

 

各モデル固有の機能

ModelName note
01R/W 本機のみWave Shaping機能搭載。
03R/W 本機以降GM対応。
X3R VDFにColor Intensity(Resonance的なパラメータ)が追加。
05R/W 1Uハーフラック化。VDFからColor Intensityが消滅。
X5DR -
NS5R 本機以降VDFのColor Intensityが復活。本機以降XG,GS対応
N1R -
NX5R YAMAHA DB51XG搭載。AI2とは別にMU50相当のAWM2の出音も得られる

※Wave Shapingは01R/W(というか01/Wシリーズ)にしか存在しない。
※AI2のVDFはLPFのみで、どのモデルもCutoff Frequencyは設定可能。X3R, NS5R(NX5R), N1R(とそれぞれの鍵盤モデル)だけがResonanceのようなColorパラメータを設定可能。
※※TRINITYのACCESSになるとレゾナンス設定可能なLPFだけではなくHPF, BPF(Band Pass Filter), BRF(Band Reject Filter=Notch filter)が使用可能で、フィルタも2系統になる
※※TRITON等のHI(Hyper Integrated) Synthesis SystemになるとLPF with resonance, LPF&HPFのいずれか1系統に集約される
※NS5R(NX5R),N1RのGS再生はRoland SC/SDシリーズと同様の音がするわけではない。音色の並びとパラメータ体系に互換性があるだけで、その出音は異なる。
※NS5R,N1RのXG再生はYAMAHA MUシリーズと同様の音がするわけではない。音色の並びとパラメータ体系に互換性があるだけで、その出音は異なる。
※NX5RのXG再生はAI2 Synthesis Systemとは無関係に、内部の別基板YAMAHA DB51XGで行われるため、MU50相当の出音が得られる。
 

まとめ

  • AI2 Synthesis Systemの音源モジュールはNX5Rが最終モデルだが、ハイエンドモデルはN1R
  • Wave Shaping機能は01R/Wにしか存在しない

 

雑記

 個人的に(ラックマウントではない)01/W FD使いでしたが、Wave Shapingによる強烈な音色変化ができるPCM系のシンセには他には出会っていません。元波形に無い倍音成分が増える作用はかなり独特で、あまりにも強烈に変化するので、使いどころが限定的でもあるのですが。ソフトウェアシンセサイザー化されてもいないので、01R/WをWave Shaping目的で確保しておくのは悪くないと思います。

 かつて、Rolandのミュージ郎やYAMAHAのHello MusicのようなDTMパッケージとして、KORGが展開していたAudio Galleryというパッケージがありました。そのバンドル音源として05R/W、X5DRが採用されていました。また、NS5Rもその段ボールに紙一枚張っただけでAudio Galleryとして売られていました。当時、DTM音源としてはRoland/YAMAHAの2強で、KORG製品は超絶不人気でしたので、特価処分されていることがありました。そのため、当時購入した05R/W、X5DR、NS5Rを持っていたりします。05R/WとX5DRは似たような(というかほぼ同じ)音ですが、NS5Rはちょっと違う感じがします。
 そして最近中古のN1Rを買いました。05R/WとX5DRが似ているのと同様に、NS5RとN1Rも似ているような感じがします。この辺りのモデルは良くも悪くも単なるPCM音源なので、特に保持する必然性は薄いかもしれませんが、好みのプリセット音色があったり、好きな波形があれば手放せないでしょう。主観では、いわゆるマルチ音源として使う分にはこれらの音源である必然性は無いですが、自分で鍵盤弾いたり、ソロパートを演奏するような目立つ音色を使うような用途では、まだまだ現役で使えるポテンシャルが十分あると思います。シンセサイザーというよりかはキーボード用音源モジュールみたいな感じでしょうか。
 音色エディットはいずれも本体単独で可能ですが、05R/WやX5DRの2行液晶では辛いです。NS5R, N1Rではグラフィック液晶に変わっていますが、ボタンポチポチ押してページ切り替え・パラメータ選択するのは面倒です(N1Rでは特定のパラメータは直接ツマミを使うこともできます)。これらのモデルは似たようなSystem Exclusiveメッセージでエディットできますので、それが苦手でない方ならPCから制御するのはそれほど苦痛ではないでしょう。

 なお、1Uハーフラックサイズの05R/WとX5DRはACアダプタ駆動ですが、NS5R(NX5R)は電源内蔵で一般のメガネケーブルで100Vを直結できますので、ライブなどで移動するような用途では邪魔なものが不要でコンパクトな点は特筆できるかもしれません。なお、N1Rは1Uフルサイズなのに電源内蔵ではない上に、あまり一般的ではない端子形状(DIN4pin)の交流出力のACアダプタで給電するように退化している点には注意が必要かもしれません。N1Rの特殊なACアダプタについては、以下の投稿に詳細を記載しています。
wave.hatenablog.com
 
 各モデルのサンプリング周波数などは網羅的には調べていませんが、N1Rのいくつかの波形*1を調べてみたところ16kHz以上の倍音成分が確認できませんでしたので、サンプリング周波数は32kHz以下だと思います。
 なお、NS5Rに使われているDACはBurr-Brown(現Texas Instruments)のPCM1717Eでした。このDACのスペックはサンプリング周波数は32kHz~48kHzまで対応しており、量子化ビット数は16or18bitとなっています。I2Sのクロックを実際に観察したわけではないので推測ですが、恐らくは32kHzで動作しているのではないでしょうか。これまた推測ですが、MultiSound(waveform)は16bitでサンプリング周波数は32kHz未満で収録されていると思います。また、ポリフォニック・マルチティンバー音源ですから複数音同時発音するため、発音中の各波形のサンプル値の和は16bitを超える状態が発生します。このため、当時の他社音源と同様に、DACには18bitで出力するような構成を採っているであろうと想像されます。
 



以上。

*1:N1R世代で新規収録の#528 St.Piano L,#529 St.Piano RなどのMultiSoundを含めて確認