BehringerがJP-8000を部分的に再現したJP-4000を発表

 BehringerがJP-4000のlaunchをFacebookで発表しました(2022/2/25)。対象国は不明ですが6月に出荷開始予定のようです。

 

JP-4000

 Facebookの投稿によれば、4voice(各voice辺りアナログモデリングの2オシレータ)構成で、アナログフィルタとアルペジェーターとOLEDスクリーンを備えた小型シンセサイザーとなるようです。
 おもちゃみたいなルックスをしていますが、想定価格49USDで子供でも買えるシンセサイザーを目指しているようです。
 もう少し詳しい説明も記述されており、適当に意訳すると、

  • プログラマブルな4voiceハイブリッドシンセ(2 analog modeling OSC/voice)
  • アナログフィルタによる温かみのある自然な出音
  • Supersaw波形を備えたJP-8kの音の再現
  • 比類なき音を作るための追加の2OP FMエンジン(2oscをcarrierとmodulatorに設定できるという意味か? 原文:Additional 2-operator FM engine for unparalleled sound possibilities)
  • クラシックサウンドの12bitDAC
  • プリセット32音色、SynthTribeアプリで拡張可能
  • 演奏性に優れた16タッチ鍵盤
  • ホールド機能付き3パターンのアルペジェータ
  • クリエイティブな音作りのためフィルタとアンプで独立したエンベロープ
  • フィルタとオシレータを制御する2つのLFO
  • 6つのボタンと明るいOLEDディスプレイで素早く簡単にパラメータ変更可能
  • microUSB端子でスマホやモバイルバッテリやPCから電源供給可能
  • 包括的なUSB/MIDI実装(全パラメータのNRPNやCCでのコントロールやバルクロード/セーブを含む)

 みたいなことが書かれています。JP-8kと書いてあるのは原文通りですが、Supersawの文言も含め要するにRoland JP-8000を意識したものでしょう。
 

Behringer JP-4000 vs Roland JP-8000

 Behringerはこれまでも複数社の過去の名機のクローンを製品化していますが、上記の説明を見る限りではJP-4000はJP-8000クローンとはとても言えません。
 例えば、オリジナルのRoland JP-8000は8voiceで1voice辺り2OSC構成です。そして、オシレータ波形はSuperSawだけではなくTriangle Mod、Noise、Feedback OSC、Square、Saw、Triangleから選択可能ですし、各オシレータ波形固有のパラメータを2つ持っています。また、フィルタはデジタルですが-12dB/octまたは-24dB/oct切り替え可能なLPF/BPF/HPFから選択可能です。DACも当時のRoland製品で多用されていたNEC製uPD63200GS-ESであり12bitではありません。
 といった具合にJP-8000とは全く別物と考えるのが妥当でしょう。
 ただし、JP-8000の代名詞とも言える(後述)SuperSawが使えるポリシンセという意味では使い勝手が良さそうな気もします。が、気がかりなのはSuperSawの倍音成分の鋸波の成分を決めるDetuneとMixの2パラメータがJP-4000に存在するのか否か。これらのパラメータの設定値次第でSuperSawらしさが弱いために目立たないシンセリードになってしまったり、SuperSawらしさが強すぎてコードを弾くと濁って使い物にならないといった実用性に乏しい楽器になってしまいます。

 とは言え、想定価格49USDを1USD=115円で試算すると6000円弱になりますから、この価格でプログラマブルなポリシンセが手に入るなら何も文句は無いでしょう。
 JP-8000相当のシンセが欲しい人は実機またはJP-8080を購入する必要がありますが、小さくて安価なポリシンセが欲しいという需要にはマッチするのではないかと思います。
 

JP-8000の代名詞がSuperSawと言える根拠

 いわゆるSuperSaw系の波形を搭載したシンセサイザーは現代では複数ありますが、オリジナルのSuperSawそのものを始めて搭載したのはRoland JP-8000です。そしてその特徴的なサウンドは多くの楽曲で使用されています。といった感じの抽象的な説明は多く見受けられます。
 ここではJP-8000の代名詞はSuperSaw説をもう少し数値的に補強を試みましょう。JP-8000のプリセットパッチは128種類ありますが、そのうち51種類の音色がSuperSawをOSC1波形として使用しています*1。つまり約40%のプリセットパッチがSuperSawを使用しており、下表の通りその他の波形と比べてSuperSawは最多の使用率となるのです。

JP-8000 OSC1 waveform #ofUsedPresetPatch
SuperSaw 51
TriangleMod 5
Noise 20
FeedbackOSC 5
Pulse 16
Saw 18
Tri 13

※このデータはRoland JP-8000実機所有者なので自分で調べました。
 逆に言うと約6割のプリセットパッチはSuperSawを使用していないので、このデータによりJP-4000がJP-8000のクローンとは言えない説も補強できるでしょう。
 

蛇足

 もしモノフォニックでもいいなら拙作KORG NTS-1用SuperSawオシレータを公開していますのでお試しください。DetuneもMixも設定可能で、MIDI CC#54及びCC#55でコントロールできます。
github.com

 ついでに触れておくと、JP-8000のSawとTriangleにはSHAPEというパラメータがあり単純なSawやTriangleではない波形を出力することができます。これをシミュレートしたオシレータもそのうち作るつもりで実機で設定値替えながらサンプリングして調査しています。
 



以上。

*1:Roland JP-8000でSuperSawが使えるのはOSC1だけでOSC2には使用不可。