ALESIS D4 drumset list等

 90年代のドラム音源の名機ALESIS D4のドラムセット(とマップ)一覧がどこにも見当たらないので、バルクダンプからパースした情報を残しておきます。
 KAWAI、KORGRolandYAMAHAといった現存する日本メーカーは過去モデルのマニュアルがそれなりに充実していますが、ALESIS D4は当時の輸入代理店(モリダイラ)が日本語マニュアルを公開していません*1。そもそも検索して見つかる英語版マニュアルにもこの情報は載っていないようです。
 なお、検索すると英語版の"Reference Manual"、"Sound Chart"、"Service Manual"が見つかりますが、"Reference Manual”にはDrumsetや波形一覧やMIDIインプリメンテーションがありません。"Sound Chart"に波形一覧に相当するリストが掲載されており*2、何故かService ManualにMIDIインプリメンテーションが掲載されています。
 

前提

  • D4の最終バージョン1.04の個体を出荷時状態に初期化してバルクダンプした情報を基にしています。
    • 出荷時状態に戻すには"OUTPUT"と"VOICE"同時押しで電源投入
    • バージョン確認は"DRUM SET"モードで、"CURSOR RIGHT"と"CURSOR LEFT"の同時押し
      • 或いはIdentity Request"F0 7E 7F 06 01 F7"を送るか電源投入時に送信されるIdentity Replyをデコード*3

 

基本情報

  • Service ManualによればD4のACアダプタは仕様としてAC9V/750mAが要求される
    • 当時の日本代理店モリダイラの正規輸入品にはAC10V/1000mAのACアダプタが付属*4
  • D4はサンプリング周波数48kHz、量子化ビット数16
    • 同時期のRoland機が32kHzのサンプルレートで18bit DAC*5を使用しているモデルが多いことを考えるとかなりハイスペック*6
    • 使用マイコンは80C31という*733MHz駆動の8bitマイコンで、音源に相当する機能はDM3AGというASICに実装
      • 80C31はMIDI入出力、ボタン入力、LCD出力などの基本的なI/Oを司り、DM3AGが波形ROMの読み出しからDACへの出力*8まで司っている
      • DM3AGの能力によって48kHz出力を実現(最大同時発音数16)
      • D4は16bitのため複数音同時発音時にデジタル領域でクリッピング発生を避けるためか、D4のDrumset中の各楽器音のボリューム設定値は控えめ
    • BurrBrownの1系統出力のPCM54*9DACに使用、デマルチプレクサ(CD4052)&サンプルホールド回路経由でMAIN(L/R), AUX(L/R)の4チャンネル分のオーディオ信号を生成
    • (マルチプレクサが使用されているが)D4の出音のスペクトルを確認すると、きっちり24kHzまで鳴っている(それ以上の成分も観測できるが単なるaliasing noise)
    • 例えばKickだからと言って低音だけが鳴っているわけではなく、かなり広い帯域で鳴っておりこの辺りが愛好者の多い理由かも
    • ドラム音源だからと言って、TR-808に代表されるようなアナログドラムの音を期待するユーザーには全く向かない音源
      • 基本的にアコースティックなドラム・パーカッション(とごくわずかにエレドラ含む)音源
  • D4のDrumsetは0~20の合計21種類存在(いずれもユーザーが書き換え可能)
    • Drumset#0~20の番号とMIDIのProgram Changeに使用するProgram#はD4のProgram Change Tableで任意にマッピング可能
      • 出荷時状態ではDrumset#0~20がProgram#0から順に繰り返しマッピングされている
    • ドラムセットには61個のNoteに対してどの音を鳴らすか指定する
      • Noteに対して指定可能なのはパーカッション音(voice)とそのボリューム、チューニング等*10
      • Noteは0~60が存在し、MIDIのNote#に換算するにはRootNote設定値*11を加算
      • 出荷時のRootNoteはいずれのDrumsetでも36なのでMIDI Note#36~96の範囲で発音
  • D4の個々のパーカッション音(voice)は計500種類ありKick, Snare, Cymbal(Hi-Hat含む), Tom, Percussion, Effectの6種類のグループに分類されている
    • 各グループに含まれる音の数(種類)は下表の通り
Group #of voice
Kicks 99
Snares 99
Cymbals 55
Toms 92
Percussions 76
Effects 80

※Effectグループに含まれるvoiceの"Silence"は音は鳴りません*12*13。※ドラムセット中のノートに何も割り当てない場合のプレースホルダとして使用

 以下に、各DrumsetにマッピングされているVoiceを列挙します。
 

#00 Standard Stuff

 

#01 Articulation

 

#02 Classic Hex

 

#03 The Ballad Set

 

#04 Scratch/House

 

#05 Dry Acoustic

 

#06 Jingles / Pop

 

#07 Ambient Rock

 

#08 You Procss 'Em

 

#09 Assorted R&B

 

#10 Jazz/Fusion

 

#11 Country

 

#12 Cut,Copy,Paste

 

#13 Aggressive

 

#14 Techno-Logic

 

#15 Hard & Rockin'

 

#16 Industrial

 

#17 New World Perc

 

#18 Chromatic #1

 

#19 Tribal Stuff

 

#20 Chromatic #2

 



以上。

*1:ALESISはinMusic brandsに買収され、同様にinMusicに買収された日本のAKAIも過去機のマニュアルは見つからないモデルが少なくありません。

*2:何故かDrumset一覧やマップ情報はどこにもない。

*3:例えばMIDI CHを10に設定したD4ならIdentity Replyで"F0 7E 09 06 02 00 00 0E 06 00 00 00 01 00 04 00 F7"が送信されるとV1.04です

*4:Service Manualによれば内部的に±5Vと±12Vの2系統の電源ラインがあると書いてある。軽く回路図を見る限りでは+5Vの生成に7805、-5Vの生成に7905を使用している一方、±12Vの方は特にレギュレータの類は無くダイオード整流回路位しか通ってなさそうでどこで±12Vに昇圧されるのか謎(回路図には±12Vの表記は無く±ANGという表記で正負アナログ電源の意味でしかなさそうで、Service Manual本文中の±12V表記は概念的なもの?)。±12V系電源を主に使用しているのはNE5532やTL084等のオーディオ信号を扱うオペアンプ類とパワーオン回路で前者は±9Vでも動作するし、後者も実際に手元にあったAC9V/1A出力のACアダプタで正常動作を確認できている(@東日本50Hz)ので特に問題無さそう。もちろんモリダイラ版ACアダプタのAC10Vでも、NE5532やTL084のMaxVccの±15Vとか±18Vを超えない電圧なので問題は無い。

*5:恐らく波形ROMのサンプル自体は16bitで、和音や複数パートの同時発音によって16bitサンプルを複数加算すると16bitの範囲に収まらない事態が容易に発生するため、内部処理は16bitより多bitで行い、出力段には18bit DACを使用していると想像されます。極論すると同じ位相の同じ波形が同時に4つ鳴るだけで加算結果は簡単に2bit増えるわけです。実際の楽曲では同じ位相の同じ波形が同時に鳴ることはまず無いですが、複数の音の波形の山が同時に重なると同じ事が起こる可能性があるわけです。

*6:単純計算で32kHzに対して48KHzでは毎秒1.5倍ものデータ処理が必要。

*7:intel製品のような型番ですがintel製品ではない。

*8:デマルチプレクサの制御含む

*9:古いDACですがDatasheetでは"3μS SETTLING TIME (Voltage Out)"と謳われており、1sampleの出力に必要な時間は最低3マイクロ秒。D4のサンプリング周波数48kHzで4ch分の信号をD/A変換するには、1sample辺り1/(4*48k)秒すなわち約5.21μS必要。つまり3μSを下回らないのでPCM54で問題無くD/A変換可能で、PCM54の出力信号をデマルチプレクサ(数十nsで信号の出力先を切り替え可能)経由で各chの信号を取り出すことで4ch出力が実現できます。

*10:フィルタやEGなどのパラメータは存在せず、所謂Romplerのなかでもかなりシンプルな構成。

*11:Drumset毎に設定可能

*12:つまりEffectsグループは実際には79種類の音で構成されます。

*13:#16 IndustrialのNote55で使用