Windows10でH265(HEVC)動画を再生する

 4K動画が記録できる最近のスマートフォンや、ビデオカメラの多くではH.265(HEVC)がその映像コーデックとして使われています*1
 H.265の動画をWindows10に標準でインストールされているWindows Media Playerで再生しようとすると、以下のダイアログが表示されてデフォルト状態では再生できません。
f:id:kachine:20180912122434p:plain

 (サードパーティの再生ソフトをインストールしたくない場合、)MicrosoftStoreからMicrosoftが公開しているソフトウェアを導入することで再生可能になります。

Microsoft StoreでHEVCを検索

 Microsoft Storeアプリの検索BOXに、HEVCと入力して検索してみると以下のように複数のアプリケーションが表示されます。
f:id:kachine:20180912122550p:plain

 この検索結果中に表示されているMicrosoft純正のコーデックは、「HEVCビデオ拡張機能」だけで本投稿記載時点で120円となっています。
f:id:kachine:20180912122515p:plain

 が、実は検索結果に表示されないながらも「デバイス製造元からのHEVCビデオ拡張機能」というコーデックもあり、こちらは無料です。
f:id:kachine:20180912122651p:plain

 この2つのHEVCビデオ拡張機能について、有料か否か以外に何が違うのか判らないため調べてみました。
 

HEVCビデオ拡張機能(有料版)

HEVC ビデオ拡張機能 を購入 - Microsoft Store ja-JP
 有料版のコーデックのMicrosoft Store上での説明は以下の通りとなっています。

HEVC ビデオ拡張機能を利用すると、Windows 10 デバイス上では、どのようなアプリでも、HEVC 形式を使用したビデオを再生することができます。HEVC ビデオ拡張機能は、新しいデバイスのハードウェア機能 (4K や Ultra HD のコンテンツをサポートするための Intel 第 7 世代 Core プロセッサおよび最新の GPU など) を利用するように設計されています。HEVC ハードウェアがサポートされていないデバイスでは、ローカル再生機能を利用できるようにソフトウェア サポートが提供されます。ただし、操作性がビデオの解像度や使用しているコンピューターのパフォーマンスによって異なる場合があります。

HEVC 再生のサポートに加えて、この拡張機能では、ハードウェア エンコーダーを備えていないデバイスでの HEVC コンテンツのエンコードもサポートしています。

 なお、英語版Microsoft Storeでは"HEVC Video Extensions"という名称になっており、以下の説明が掲載されています。
Buy HEVC Video Extensions - Microsoft Store

HEVC Video Extensions enable Windows 10 devices to play video using the HEVC format in any app. They're designed to take advantage of hardware capabilities on modern devices, including Intel 7th Generation Core processors and newer GPUs in order to support 4K and Ultra HD content. For devices without HEVC hardware support, software support is provided to enable local playback capabilities though the experience may vary depending on the resolution of the video and performance of your computer.

In addition to supporting HEVC playback, these Extensions also include support for encoding HEVC content on devices that do not contain a hardware encoder.

 当然ながら、英語版と日本語版とで説明内容に差異はありません。

 なお、説明文中に登場する第7世代Core iプロセッサについて一旦整理しておきます。

第7世代Core iシリーズ

 この世代はコードネームではKaby Lakeと呼ばれ、搭載するQSV(Quick Sync Video*2 )のバージョンは6となっています。
 QSV version6では8bitだけではなく10bit(所謂HDRで使われる)のHEVCのエンコード・デコードに対応しました。このため、HEVCビデオ拡張機能は第7世代以降を名指しで指定しているのだと思われます。

 なお、それ以前のQSV version5では8bitのHEVCのエンコード・デコードと、10bitのHEVCはデコードのみに対応となっています。さらに1つ前のQSV version4ではHEVCサポート自体が無いかデコードのみとなっており、QSVバージョンとCPUの世代で対応内容に細かな差異があることが判ります。ややこしいですが、Wikipediaに掲載されている表を見ると比較的解りやすいです。
Intel Quick Sync Video - Wikipedia
 

バイス製造元からのHEVCビデオ拡張機能(無料版)

デバイス製造元からの HEVC ビデオ拡張機能 を入手 - Microsoft Store ja-JP
 無料版のコーデックのMicrosoft Store上での説明は以下の通りとなっています、一部文言が異なるものの、有料版のHEVCビデオ拡張機能と同様と思われる説明が掲載されています。

バイスの製造元は HEVC ビデオ拡張機能を利用することで、Windows 10 デバイス上で、どのようなアプリでも HEVC 形式を使用したビデオを再生できるようになります。この拡張機能は、最新のデバイスのハードウェア機能 (4K や Ultra HD のコンテンツをサポートするための Intel 第 7 世代 Core プロセッサおよび最新の GPU など) を利用するように設計されています。HEVC ハードウェアがサポートされていないデバイスでは、ローカル再生機能を利用できるようにソフトウェア サポートが提供されます。ただし、操作性がビデオの解像度や使用しているコンピューターのパフォーマンスによって異なる場合があります。
HEVC 再生のサポートに加えて、この拡張機能では、ハードウェア エンコーダーを備えていないデバイスでの HEVC コンテンツのエンコードもサポートしています。

 なお、英語版Microsoft Storeでは"HEVC Video Extensions from Device Manufacturer"という名称になっており、以下の説明が掲載されています。そして、日本語の説明とは明らかに異なる内容が含まれています。
Get HEVC Video Extensions from Device Manufacturer - Microsoft Store

The HEVC Video Extension enables compatible Windows 10 devices to play video using the HEVC format in any app, including 4K and Ultra HD content. Compatible devices support HEVC in hardware, including Intel 7th Generation Core processors and other modern GPUs. If you are not using a compatible device, this extension will have no effect on your Windows 10 video experience.

"If you are not using a compatible device, this extension will have no effect on your Windows 10 video experience."とあり、そのまま日本語訳すると「互換性のあるデバイスを使用していなければ、この拡張はWindows10のビデオ体験には効果はありません。」といった感じです。すなわち、HEVCをサポートする第7世代Core iプロセッサや最近のGPUを積んでないマシンでは、この拡張機能を入れても効果は無いと書かれています。日本語版の説明にある「HEVC ハードウェアがサポートされていないデバイスでは、ローカル再生機能を利用できるようにソフトウェア サポートが提供されます。」と、全く逆の意味の説明です。
 

結局何が違うのか

 英語版の説明を信じるなら、

- ハードウェアエンコード/デコード ソフトウェアエンコード/デコード
有料版 対応 対応
無料版 対応 非対応

 ということになりそうですが、日本語版の説明を信じるなら、

- ハードウェアエンコード/デコード ソフトウェアエンコード/デコード
有料版 対応 対応
無料版 対応 対応

 となり、違いが無さそうに見えます。

 いずれにせよ、第7世代以降のCore iシリーズのCPUか、HEVCエンコード・デコードに対応したGPUを搭載したマシンを利用しているのであれば、有料版を購入する意味は無さそうです。

 それ以前のCPUや、ディスクリートGPUを搭載していなかったり、HEVCエンコーダ・デコーダ機能の無いGPUを搭載している場合は、英語版の説明を信じるなら有料版を購入する必要がありそうですし、日本語版の説明を信じるなら無料版でも同じように思えます。
 

実機で試してみる

 第3世代にあたるIvy BridgeCore i5搭載PCと、第5世代にあたるBraswellのCore i5搭載PCで無料版にあたる「デバイス製造元からのHEVCビデオ拡張機能」を導入し、Windows Media PlayerでHEVC動画の再生を試みたところ、どちらのPCでも再生できるようになりました。
 ただし、4K60pのようなデータボリュームの大きい映像は盛大にコマ落ちする*3ため、何が映っているかは確認できるものの実用的な鑑賞には耐えません。
 ということで、日本語版の説明内容が正しいように思えます。有料版は購入していないので断定はできませんが、両者の機能的な差異は無いのかもしれません。
 



以上。

*1:ミラーレス等のデジタルカメラの動画撮影機能では4K解像度でも従来のH.264(AVC)が使用されている事もあります。

*2:QSVはインテルのハードウェアエンコード・デコードを実現するテクノロジ。

*3:HEVCデコーダを搭載しているはずのBraswell機でもIvy Bridgeよりはマシなもののコマ落ちする。

「絶対的なセキュリティーを提供できるコンピューター・システムはありません。」by intel

 各世代のintel製CPUのQSV対応状況を調べたくて、公式情報を探していたところ、以下のページで掲題の文言を見つけました。
インテル® クイック・シンク・ビデオ

免責事項
インテル® テクノロジーの機能と利点はシステム構成によって異なり、対応するハードウェアやソフトウェア、またはサービスの有効化が必要となる場合があります。実際の性能はシステム構成によって異なります。絶対的なセキュリティーを提供できるコンピューター・システムはありません。詳細については、各システムメーカーまたは販売店にお問い合わせいただくか、https://www.intel.co.jp/ を参照してください。

 Intel QSV(Quick Sync Video)はハードウェアエンコーダ・デコーダの技術であり、基本的にはセキュリティ絡みのテクノロジではありません*1
 にもかかわらず、唐突にセキュリティについての免責事項が掲載されており、何じゃこりゃ?感があったので、調べてみました。
 

掲載されているページ

 テンプレートとしてインテルの全ページにこの文言が入っているのかと思いましたが、そうでは無いようで例えばintelの製品仕様が掲載されているintel ARK(以下例. Core i7-8086Kの製品仕様ページ)には同様の文言は見当たりません。
製品の仕様情報 - Intel® Core™ i7-8086K Processor (12M Cache, up to 5.00 GHz)
 

Googleで調べてみる

 Googleで"絶対的なセキュリティーを提供できるコンピューター・システムはありません。"を検索してみると、本投稿記載時点でこの文言を含むページは約2200件存在するようです。
f:id:kachine:20180912082828p:plain

 この文言を含むintel.co.jpドメインのページは約2010件と、全体の90%以上を占めるようです。
f:id:kachine:20180912082901p:plain

 逆にintel.co.jpドメインを除外してみると約42件と激減し、ほぼインテル製品関連のベンダ各社のページのようです。
f:id:kachine:20180912082919p:plain

 なお、キーワード"intel"自体を除外してみると約28件ヒットしましたが、一見する限り機械的に生成されたゴミサイトしかないようです。
f:id:kachine:20180912082935p:plain

 このようにインテル関連以外のサイトでは掲題の文言は見つからないことから察するに、この文言はインテル自身が自発的に言い出したように思えます。
 

インテルのセキュリティ機能を訴求するページ

 前述のように全てのインテルのWebページにこの文言が記載されているわけではありませんが、上記のGoogle検索を使って見つけた「ハードウェア支援型のセキュリティー」というページには同じ免責事項が掲載されています。
ハードウェア支援型のセキュリティー

 このページは以下のようなセキュリティ機能を訴求する文言が並んでいるのですが、ページ末尾の免責事項があるため何を訴求してるのかよく解らなくなってきます。

インテルは、ハードウェア支援型のセキュリティーによって、防御を強化し、進化し続ける現代の脅威からの保護に取り組むエコシステムの後押しをしています。

インテルは、シリコンに直接セキュリティー機能を組み込んだハードウェア支援型のセキュリティーによって、コンピューター・スタックのあらゆるレイヤー (ハードウェア、ファームウェア、オペレーティング・システム、アプリケーション、ネットワーク、クラウド) の保護を支援しています。

インテル® Security Essentials が提供する内蔵のコア・セキュリティー機能の基盤によって、エコシステムは、トラステッド・コンピューティングを実現する高度なハードウェア支援型のセキュリティーを迅速に導入できます。

インテル® Threat Detection Technology (インテル® TDT) は、独立系ソリューション・ベンダーのセキュリティー・ソリューションに組み込んで既存の機能を増強し、高度なサイバー脅威や脆弱性の検出を向上できるハードウェア支援型テクノロジーのセットです。

免責事項
インテル® テクノロジーの機能と利点はシステム構成によって異なり、対応するハードウェアやソフトウェア、またはサービスの有効化が必要となる場合があります。実際の性能はシステム構成によって異なります。絶対的なセキュリティーを提供できるコンピューター・システムはありません。詳細については、各システムメーカーまたは販売店にお問い合わせいただくか、https://www.intel.co.jp/ を参照してください。

 

英語版の記載

 英語(北米)版のintelのサイトでも以下のように、同様の文言を見つけることができます。

Product and Performance Information
Intel® technologies' features and benefits depend on system configuration and may require enabled hardware, software or service activation. Performance varies depending on system configuration. No computer system can be absolutely secure. Check with your system manufacturer or retailer or learn more at https://www.intel.com.

 "No computer system can be absolutely secure."が日本語では「絶対的なセキュリティーを提供できるコンピューター・システムはありません。」に訳されていることが解ります。
 
 ですが、日本語版サイトのように「免責事項」(disclaimer)ではなく、"Product and Performance Information"(製品および性能情報)として記載されています。
 これって、重大なセキュリティ上の欠陥が見つかった場合、日本のユーザにはこの文言を根拠に免責扱いとして泣き寝入りさせるつもりなのでしょうか?
 
 念のため各国版のページを参照してみると、ドイツ版"Produkt- und Leistungsinformationen"、フランス版"Infos sur le produit et ses performances"、イタリア版"Informazioni su prodotti e prestazioni"、中国版(簡体字)「产品和性能信息」、台湾版(繁体字)「產品與效能資訊」、韓国版「제품 및 성능 정보」といった具合で表記されており、いずれもGoogle翻訳にかけてみると"Product and Performance Information"的な意味であり「免責事項」ではありません。
 インテルは日本ユーザだけ差別化しているのでしょうか?
 

雑感

 邪推すると、昨年発見されたSpectreやMeltdownといったCPU自体の脆弱性を踏まえ、訴訟或いはリコール対策として掲題の文言を掲載し始めたのかもしれません。
 
 確かに大きな視点では「絶対」安全なセキュリティなんてものは無いでしょう。
 極論すればオフラインなシステムであっても、ミサイルでも撃ち込まれて物理的に破壊されればデータは失われますし。

 ですが、半導体最大手企業が「免責事項」としてしれっと記載していいような文言ではないと思います。
 「強固なセキュリティ実現のための技術開発に注力しているけれど、残念ながら絶対安全なシステムは無いんですよ。」といった趣旨のメッセージなら、理解できなくはありません*2が、それを「免責事項」とするのは違うだろうと。しかも日本だけ。
 
 Webページ上の文言がどこまで法律的に効力があるのか判りませんが、個人的には心象悪いことだけは確かです。もし日本語ローカライズにあたっての単なる誤訳なのであれば、さっさと修正するべきでしょう。
 
 ちなみにAMDのサイトを探してみましたが、同一文言はもちろん見つかりませんでしたし、似たような記述もチラ見する限りでは無さそうです。
 



以上。

*1:もちろん多くの脆弱性と同様に、想定外の入出力や実装上の不備を突いた攻撃が可能だったりする脆弱性が将来的に検知されることがあるかもしれません。

*2:すなわち、日本語版以外のページの表記なら理解できます。

外部電源不要のPCI Express用USB3.0インタフェースを導入した

 ここ数年のPCではほぼ間違いなくUSB3.0に対応しており、既にUSB3.0が普及してからかなり時間が経った感があります。
 第3世代Core iシリーズにあたるIvy Bridge世代用のチップセットIntel 7シリーズから、USB3.0のホストコントローラ機能を内蔵していることがUSB3.0の普及を後押ししたと言えるでしょう。

 一方、第2世代Core iシリーズにあたるSandy Bridge世代以前のマシンではチップセット内蔵ホストコントローラはUSB2.0までの対応のため、別途USB3.0ホストコントローラを搭載しない限りはUSB3.0は使えません。
 ExpressCardスロットのあるノートPCや、PCI Expressの空スロットがあるデスクトップPCならUSB3.0ホストコントローラを増設することが可能です。

 今となっては特に目新しいパーツではないため、バッファローやIO DATA等のメジャーメーカーから、謎の中華メーカーまで多様な業者が製造しています。
 が、前述の通り現行PCではUSB3.0に標準対応しているため、後付けのホストコントローラの需要が伸びることは無いと判断されたのか、謎メーカーの製品が微妙に減っているような気がしますし、価格帯も数年前より数百円程度上昇しているような気がします。
 ということで、今のうちにSandy BridgeなデスクトップPCにUSB3.0インタフェースを増設してしまおうと思いました。

続きを読む