Fujifilmの有機薄膜を用いたPanasonicのCMOSイメージセンサ技術が発表された

 昨日Impress WatchPanasonicによる有機薄膜CMOSイメージセンサ開発を伝える以下の記事が掲載されていた。
dc.watch.impress.co.jp


 2つの技術的新要素が1つの記事にブチ込まれているようで、整理して理解する必要がありそう。上記記事のソースとなるPanasonicニュースリリースはそれぞれ個別のニュースリリースとなっているので、そちらをベースに紹介したい。なお、私は中の人でも同業者でもなく学生時代に光電工学系だった程度の知識でしかなく、読み違えている可能性がある点はご容赦ください。

1.有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサによる広ダイナミックレンジ化技術

有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサによる広ダイナミックレンジ化技術を開発 | プレスリリース | Panasonic Newsroom Japan

光電変換と電荷蓄積デバイスを分離
  • 従来のCMOSイメージセンサはPD(Photo Diode; フォトダイオード)が光電変換と電化蓄積の機能を司っていたが、今回の新技術では光電変換部に有機薄膜を用い、電荷蓄積は「電荷蓄積ノード」と称される回路に分離した。
  • 普通の半導体材料はシリコンであるが、シリコン製のフォトダイオードより光吸収係数が大きい有機薄膜を採用することで、数分の1の厚みに薄型化。
  • 薄型化により従来は30~40度の光線入射角に制限されていたが60度まで広がった(周辺部の画質向上が期待できそうってことだと思われる)。
  • 従来は(隣接するPD間の光漏れなどを抑止するための)遮光幕を作るため、受光部面積が削られていたが、有機薄膜は全面に形成可能で、従来比1.2倍の高感度を実現(説明の図は裏面照射型CMOSとの比較となっており、従来比の従来が裏面照射型を指しているのかもしれない!裏面照射型CMOS自体が通常CMOSの邪魔な配線を回避し、受光部面積を広げるSONYが初めて実現した技術だが、それを上回ってきたなら凄い)。
電荷蓄積デバイスを切り離したことで、単一画素内に特性の異なるセルを構築し、1回の露光でハイダイナミックレンジを実現。
  • (受光部と光電変換によって生じた電荷を貯めるバケツが切り離されたことで、バケツのデザインが自由になったからできることだと理解した。)
  • 単一画素に対して高感度かつ小容量セルと低感度かつ大容量セルを設け幅広い明暗差が表現できるようにした。
  • この構造により(露出変えて複数回撮影した画像から合成するマルチショットHDRと違い、)1回の露光でハイダイナミックレンジを実現。
  • 従来比100倍となる123dBのダイナミックレンジを実現
有機薄膜は富士フィルム

※()内は私の個人的言及であり、ソースには書いてない。以下同様。なお、文字だけ見るよりソースに掲載されている図を見た方がはるかに解りやすいので、ソースを参照されることをお勧めする。

2.従来比約10倍の明るさまで忠実に画像を撮像できる有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサ向け高機能グローバルシャッタ技術

従来比約10倍の明るさまで忠実に画像を撮像できる有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサ向け高機能グローバルシャッタ技術を開発 | プレスリリース | Panasonic Newsroom Japan

光電変換と電荷蓄積デバイスを分離
  • (前述の通りのため省略)
受光部を切り離したため、メモリセル配置による受光部面積減少が無い。
  • グローバルシャッタを実現するためのメモリセルを配置するため、PDを用いた従来方式は受光部面積が削られてしまう。
  • (こちらの図は裏面照射型CMOSではなく普通の(表面照射型)CMOSとの比較であることを加味すべき。)
  • 受光部が切り離されているため、シリコン基板深部にメモリセルを配置しても受光部面積が削られることは無い。
露光毎の感度可変な「感度可変多重露光

有機薄膜に印加する電圧や印加時間を変化させることで感度を可変にできる、従来シリコンセンサでは実現できない特長を活かした「感度可変多重露光技術」を新たに開発

  • (従来のセンサでも感度変えられるじゃん。A/D変換前にアンプで増幅するんじゃなくて、印加電圧・印加時間で感度が変わるのが新しいよってだけじゃないのかしら?カメラ内で多重露光しようとすると、N回の露光全ての感度が同じとかそういう制約があるのかしら???何を言っているのか理解できてないです。)

まとめと感想

 イメージセンサ周りは最近はSONYばかりが頑張ってる印象が強かったけど、久々にPanasonicから期待できそうな新技術が発表されて面白くなってきました。記憶にある限りではPanasonicのイメージセンサ関連技術で興味を持ったのはνMaicovicon以来のことかもしれない。νMaicoviconも10年以上前に発表されて、当初はPシリーズのガラケーに搭載されたものの、その後話を聞くことも無く人知れず消えたのかと思ったらフォーサーズ用センサhttp://www.semicon.panasonic.co.jp/ds4/MN34230PL_J.pdfにしれっと搭載されてたりして。SONYのExmorも最初はHandycam、Cybershot、Xperiaときて最後にα/NEXと展開されたから、今回の有機薄膜を用いたCMOSセンサがいきなり一眼カメラに搭載されることは無いのかもしれないけど、実用化が楽しみですね。
 Panasonic Lumixシリーズとして登場するのか、有機薄膜自体の製造元のFujifilmSONYではなくPanasonicに生産委託したイメージセンサを積んだXシリーズをリリースすることになるのかなど、そこら辺も興味湧きますね。
 なお、有機薄膜ではなく全く違った原理で1回の露光でハイダイナミックレンジを実現する技術はSONYも研究しており、米国で特許を出願している模様(IMAGE PROCESSING APPARATUS, IMAGE PROCESSING METHOD, AND PROGRAM)。画素ごとに露光時間を変ることで、白飛び黒潰れを防ぐといった感じの技術。
 また、グローバルシャッタ実現のためにメモリセルを配置すると受光部の邪魔になる件について、SONYExmor RSとして積層型センサを実現しており、メモリセルを受光部の横ではなく下に作りこめるので受光部面積には影響しない。もしかすると、今回のPanasonicのグローバルシャッタ技術はここら辺のSONYの特許回避を狙った技術なのかもしれない。などなど、いろいろ妄想出来そうな気がします。
 4KテレビがHDR対応するって流れになっている昨今では、撮像系でのHDR対応が不可避という流れも影響していると思われます。テレビすなわち動画をターゲットとする以上、静止画でよくあるパターンの複数回に分けて撮影した複数露出画像の合成方式では、計算量というか情報処理系のパワーが要求されるだけでなく、そもそも物理的に動く被写体が収録できない欠点があるため、このような技術が要求されるのでしょう。




以上。