平成28年熊本地震の国土交通省公開動画

 平成28年熊本地震被災されておられる方々にお見舞い申し上げます。

 さて、先の地震では複数の公的機関が積極的に映像を公開しています。本投稿では、国交省の事例を紹介します(下部組織に当たる国土地理院については別途紹介予定)。

 対象は、国土交通省ホームページの以下のページになります。
平成28年熊本地震におけるTEC-FORCE活動状況 - 国土交通省
 

技術

Web周り

 以下の通り、DOCTYPEはXHTML 1.0だと言っているのだけれど、HTML5で追加されたvideoタグが使われている。

<!DOCTYPE html PUBLIC "-//W3C//DTD XHTML 1.0 Transitional//EN" "http://www.w3.org/TR/xhtml1/DTD/xhtml1-transitional.dtd">

 バックエンドがどうなっているかは解りませんが、単純にJPEG画像等と同一階層にMP4ファイルが配置されています。
 

映像周り

 後述する各事例毎に、基本スペックと目についた項目を抜粋します。なお、全てH.264エンコードされています。

事例 ファイル名 サイズ 長さ 平均ビットレート フレームレート 解像度 音声チャネル数 音声量子化ビット数 音声サンプリング周波数 MajorBrand CompatibleBrands MediaLanguageCode Encoder HandlerVendorID Software
1 001128455.mp4 42 MB 0:01:07 5.23 Mbps 29.97 1920x1080 2 16 48KHz MP4 v2 [ISO 14496-14] mp41 isom und - - -
2 001128118.mp4 2.2 MB 29.78 s 601 kbps 29.97 320x240 2 16 48KHz MPEG-4 (.MP4) for SonyPSP MSNV isom mp42 eng - - CYBERLINK m4mux
3 001128679.mp4 40 MB 0:01:01 5.36 Mbps 29.97 854x480 2 16 48KHz MP4 v2 [ISO 14496-14] mp41 isom und - - -
4 001129225.mp4 2.9 MB 26.08 s 918 kbps 25 426x240 2 16 44.1KHz MP4 Base Media v1 [IS0 14496-12:2003] isom iso2 avc1 mp41 und Lavf56.36.100 Apple -
5 001129407.mp4 49 MB 0:00:37 10.9 Mbps 29.97 1920x1080 2 16 48KHz MP4 v2 [ISO 14496-14] mp41 isom und - -

 これらを眺めると、以下のようなことが見えてきます。

  • 解像度、フレームレートがバラバラで統一されていない。(記録映像撮影・公開についてのガイドラインが無い?)
  • 事例2がメタデータ上、メディア言語が英語だとされているが、実際には日本語どころかナレーションがあるわけでもなく他と同様未定義(und)であるのが適切。何故PSP向けにエンコードしているのかも謎。
  • 国交省(北陸地整)はCyberLink PowerDirectorユーザーで、関東地整はApple製品ユーザー
  • 掲載可能なファイルサイズの上限が50MB?

 

個別事例

 公開されている各映像を掘り下げてみます。なお、各映像は共通して専門業者ではなく、現場の人(素人)が撮影したのではないかと思われます。

事例1

以下の説明と共に掲載されている映像(001128455.mp4)

中国地整の分解組立型バックホウ出動式の動画(4月18日撮影)をUPしました。

A.トレーラーにバックホウを搭載するシーン、B.壮行会のようなシーン、C.車両が出発するシーンを単純につないだ映像。
なお、AとCは早回しされている。ゆっくりと動く映像を長々と見させて飽きさせないための工夫か、ファイルサイズ縮小のため思われる。
FullHD(1080p)で公開されているが、ソース映像は720pと推測できる程度に解像感が無い。

事例2

以下の説明と共に掲載されている映像(001128118.mp4)

北陸地整から出発する無人化施工機械(危険な場所でも無人で施工できる機械)の動画(4月18日撮影)をUPしました。

A.格納庫から無人化施工機械が出るシーン、B.トレーラーに無人化施工機械を搭載するシーン、C.車両が出発するシーンを単純につないだ映像。
こちらは事例1と異なり早回しはされていないが、短時間にカット編集されている。
アスペクト比4:3のQVGA(320x240)で公開されているが、実際の映像領域は16:9の320x180であり上下に黒帯がある状態。

事例3

以下の説明と共に掲載されている映像(001128679.mp4)

関東地整による国道443号において夜間に被災状況調査を行うTEC-FORCEの動画(4月18日撮影)をUPしました。

事例1,2と異なり、通しで被災状況調査のシーンのみ。歩行映像から始まるがスタビライザーの類を使っていそうな感じの映像。
アスペクト比約16:9の854x480で公開されている。恐らくデータ量削減のために解像度を落として公開したと思われる。

事例4

以下の説明と共に掲載されている映像(001129225.mp4)

関東地整による阿蘇大橋付近において被災状況調査を行うTEC-FORCE隊員の動画(4月22日撮影)をUPしました。

事例3同様、通しで被災状況調査のシーンのみ。無意味なズームやパンが繰り返され、見続けたら映像酔いする人もいそうな映像。
アスペクト比約16:9の426x240で公開されている。こちらも恐らくデータ量削減のために解像度を落として公開したと思われる。

事例5

以下の説明と共に掲載されている映像(001129407.mp4)

中国地整による分解組立型バックホウ稼働状況の動画(4月24日撮影)をUPしました。

A.土砂を上るバックホウのシーン、B.分解組立型バックホウを操作するシーン(再生速度可変)を単純につないだ映像。
バックホウのオペレータ―が説明のような何かを喋っているのだが、単純に早回しされており全く聞き取れない。
FullHD(1080p)で公開されており、それらしい解像感を伴っている。
 

感想・考察

Web周り
映像周り
  • 画質を気にするような用途ではなく、単に現場の記録や、上長への報告用としては十分な品質なのかもしれない。
  • 現場の人が気軽に記録できるのならば、業者を呼ぶよりこまめに記録が取れ、タイムリーに貴重な資料が残せるという意味で大きな意義があるのではないか。
  • とは言え、誰に向けて発信したい映像なのかよく解らない。使われている言葉も一般人にはなじみが薄い(検索するまで、バックホウがいわゆるパワーショベルだと解らなかった)。内部向けなら公開しないだろうし、報道向けにはクオリティが悲惨だし、国民向けなら説明が不親切だし。
  • ファイルサイズ縮小のために工夫してる感はあるのだが、逆に誇大化させる無駄が見受けられる(事例1は720p、事例2は320x180でエンコードすれば画質を損なわずサイズ縮小可能)。
  • 事例2,4は何故極端な低解像度で公開する必要があるのかわからない。映像ソースが古いガラケーで低解像度だったりするのだろうか。
  • 事例5のような手持ちカメラによる映像の単なる早回しはカメラブレが目立ち、映像酔いにつながる。撮影時に三脚を使えないのなら、加工工程でスタビライズした方がよい(この例ではMicrosoft Hyperlapse辺りが効果的に使えるはず)。
  • 人が喋っているシーンを単に早回ししては聞き取れない。ピッチシフトしないよう、オーディオはタイムストレッチするか、そもそも聞かせる意図がないならオーディオストリームを削除すればファイルサイズも減らせる。
  • 現場の人(素人)が撮影している前提で、事例4以外は必要十分な撮影手腕と思える。だが、事例4は危ない。手軽に撮影・公開できる反面、映像は人を病院送りにもできる凶器にもなり得る。島根の中学で生徒36名が映像酔いで体調不良を訴え病院行になった事例を甘く見てはいけない。

(参考)映像酔い - 映像情報メディア学会

  • と、書いてみたものの、何も前提知識のない人にこれらを要求するのは酷な気がする。
  • 改善するには、記録編・編集編とお役所らしくマニュアル化して、記録マニュアルは全職員に読んでもらうとか、研修するとか?(或いは、業者呼んだ方がコスト対効果大きそうな気もするけど、即時性が失われるし。)


以上。