シンセサイザーのDAC/ADCまとめ
主に90年代のデジタルシンセサイザー・音源モジュール・サンプラー系の機材に使用されていたDAC(とADC)の情報をまとめます。
実際に実機の中身を確認したり基板画像から識別したものや、各社のサービスマニュアルをソースとしていますが、誤りがないことを保障するものではありませんのでご注意ください。
Roland機材(BOSS/Edirol含む)
Model | DAC | Notes |
---|---|---|
D-10 | PCM54 (Burr-Brown) | - |
D-110 | PCM54HP (Burr-Brown) | - |
D-50 | PCM54 (Burr-Brown) | - |
D-70 | PCM56P (Burr-Brown) | - |
U110 | PCM54HP (Burr-Brown) | - |
U220 | PCM56P (Burr-Brown) | - |
MT-32 | PCM54HP-S (Burr-Brown) | - |
S10 | EHK-MD6209 (Matsushita) | IC4 NJU201(S/H用OPAMP)でInputLevelを保持しつつDACで生成した信号とIC8 IR-9311(Comparator)で逐次比較してADCを構成uPD7001C(ADC)も積んでいるがPitchBend/Modulation用 |
S50 | EHK-MD6209 (Matsushita) | IC13 M5238P(S/H用OPAMP)でInputLevelを保持しつつDACで生成した信号とIC4 IR-9311(Comparator)で逐次比較してADCを構成 |
W30 | MD6209 (Matsushita) | IC10 M5238P(S/H用OPAMP)でInputLevelを保持しつつDACで生成した信号とIC9 IR-9311(Comparator)で逐次比較してADCを構成 |
SP-700 | PCM61 (Burr-Brown) | SPシリーズだが後のSP-x0x系と異なりSample PlayerでSampling機能は無いのでADCも無い |
SP-202 | BU9480F (Rohm) | ADCはAK5330-VM (AKM) |
SP-808 | AK4520AVF-E2 (AKM) | ADCもワンチップに統合 |
SP-808EX | AK4520AVF-E2 (AKM) | ADCもワンチップに統合 |
GR-50 | PCM54HP (Burr-Brown | 音源はD-10相当のLAシンセサイザー |
GR-1 | uPD6376GS (NEC) | 音源はTC6116AF*1を使用したPCM(デジタルフィルタはレゾナンス付き) |
GR-09 | uPD6376GS (NEC) | 音源はTC6116AF(同上)を使用したPCM(デジタルフィルタはブライトネスのみ) |
GR-30 | TDA1313T (Philips) | 音源はTC6116AF(同上)を使用したPCM(デジタルフィルタはブライトネスのみ) |
R-8 | PCM54 (Burr-Brown) | - |
DR-5 | uPD6376GS-E2 (NEC) | - |
JD-800 | PCM61 (Burr-Brown) | - |
JD-990 | PCM61P (Burr-Brown) | - |
JV-30 | uPD6376GS-E2 (NEC) | - |
JV-35JV-50 | uPD63200GS-E2 (NEC) | - |
JV-80 | PCM69P (Burr-Brown) | - |
JV-880 | PCM69AP (Burr-Brown)(MainOut)uPD6376GS-E2 (NEC)(SubOut) | MainOutとSubOutでDACが異なる |
JV-90 | PCM69AU-1 (Burr-Brown) | - |
XP-10 | uPD6379GR-E2 (NEC) | - |
XP-30 | AK4324-VF-E2 (AKM) | - |
XP-50 | uPD63200GS-E2 (NEC) | - |
JV-1080 | uPD63200GS-E2 (NEC) | - |
XP-60 | PCM69AU-1/T2 (Burr-Brown) | - |
XP-80 | PCM69AU-1/T2 (Burr-Brown) | - |
JV-2080 | PCM69AU-1/T2 (NEC) | - |
JV-1010 | AK4324-VF-E2 (AKM) | - |
XV-5080 | AK4324-VF-E2 (AKM) | - |
JX-305 | AK4324-VF-E2 (AKM) | MC-505と同じ音源システムだがDACが違う |
D-2 | PCM1716E (Burr-Brown) | MC-505と同じ音源システムだがDACが違う |
MC-303 | uPD63200GS-E2 (NEC) | - |
MC-505 | uPD63200GS (NEC) | 同じ音源システムに波形追加した派生モデルJX-305,D-2のいずれともDACが違う |
MC-307 | PCM1716E (Burr-Brown) | - |
MC-808 | AK4626VQP (AKM) | 2ch ADC(Sampling機能用)と6ch DACがワンチップに統合 |
MC-909 | AK4527B (AKM) | 2ch ADC(Sampling機能用)と6ch DACがワンチップに統合UDA1351TS (Philips)も搭載されているが、S/PDIF入力からアナログ音声への変換用(つまりMC-909でデジタルソースのSampling時には一旦アナログ変換される) |
JP-8000 | uPD63200GS-E2 (NEC) | - |
JP-8080 | PCM3001E/T2 (Burr-Brown) | 鍵盤モデルのJP-8000と異なりVocoder機能が追加されADCもワンチップに統合 |
SC-55 | uPD6376GS-E2 (NEC) | - |
SC-55mkII | uPD63200GS-E2 (NEC) | - |
SC-88 | PCM69AU-1/T2 (Burr-Brown) | - |
SC-88VL | uPD63200GS-E2 (NEC) | - |
SC-88Pro | PCM69AU-1/T2 (Burr-Brown) | - |
SC-8820 | PCM1716E (Burr-Brown) | - |
SC-8850 | AK4324-VF-E2 (AKM) | - |
SD-35 | uPD6376GS-E2 (NEC) | - |
SD-80 | PCM1716E (Burr-Brown) | - |
SK-50 | uPD6376GS-E2 (NEC) | - |
SK-500 | PCM1716 (Burr-Brown) | - |
SK-88Pro | uPD63200GS-E2 (NEC) | SC-88Proの鍵盤モデルだがDACが異なる |
XV-2020 | AK4324-VF-E2 (AKM) | - |
XV-3080 | AK4324-VF-E2 (AKM) | - |
XV-5050 | AK4324-VF-E2 (AKM) | - |
XV-5080 | AK4324-VF-E2 (AKM) | - |
JUNO-D | AK4324 (AKM) | - |
FANTOM FA76 | AK4393-VF-E2 (AKM) | - |
FANTOM X6 | AK4527BVQ (AKM) | ADCもワンチップに統合 |
V-Synth | AK4524VF-E2 (AKM) (Main Out)AK4393-VF-E2 (AKM) (Direct Out) | ADCはAK4524VF-E2に統合 |
V-Synth GT | AK4393 (AKM) (Main Out)AK4528 (AKM) (Direct Out) | ADCはAK4528に統合 |
普通に半導体メーカーのDACを採用している一方で、Sシリーズ時代の初期のサンプラーのADCには専用のチップを採用せずにDACで基準信号を発生させながらコンパレータで逐次比較してADCを構成するということをやってます。今なら普通にADC用チップを使うか、SPシリーズのようにDACと統合されたチップを使うでしょうけど、当時はこんな工夫をしていたようです。当時の技術ではこれが音質向上或いはコスト低減に寄与したのでしょう*2。
MC-505の鍵盤モデルJX-305とタッチパネルモデルD-2は3兄弟同じ音源システムなのに、意味不明なことに全部違うDAC使ってます。コスト削減より各社のDACのベンチマークでもしたかったのでしょうか*3?
KORG機材
Model | DAC | Notes |
---|---|---|
DS-8 | YM3012 (YAMAHA) | 音源はYM2151(OPM) |
Z3 | PCM54HP (Burr-Brown) | 音源はYM2414(OPZ) |
M1 | PCM54HP (Burr-Brown) | - |
WAVESTATION | PCM54HP-005 (Burr-Brown) | - |
WAVESTATION A/D | PCM54HP-005 (Burr-Brown) | ADCはAK5339(AKM) |
01/W01/W FD | PCM55HP (Burr-Brown) | - |
05R/W | PCM69AU-T1 (Burr-Brown, 選別品) | - |
NS5R | PCM1717E (Burr-Brown) | - |
Prophecy | TDA1305T/N1-T (Phillips) | 20bit/48kHz駆動 |
TRINITYTRINITY plusTRINITY pro | TDA1305T/N2-T (Phillips) | - |
TR-RACK | TDA1305T/N2-T (Phillips) | - |
Z1 | TDA1305T/N2-T (Phillips) | - |
TRITONTRITON proTRITON proX | PCM1716E (Burr-Brown) | ADCはPCM1800 (Burr-Brown) |
MS2000MS2000R | AK4522-VF-E2 (AKM) | Vocoder用のADCもワンチップに統合 |
microKORG | AK4522-VF-E2 (AKM) | Vocoder用のADCもワンチップに統合 |
microPiano | AK4388AET-E2 (AKM) | - |
TRITON以降の時代に何かのインタビューでKORGの開発者がTRINITYは音が良いが高コストみたいなことを語っていたような記憶がありますが、その主因はPhillips製のDACだったりするのでしょうか?検索してみると他社製DACより割高みたいですし、日本だとPhillipsの知名度は高くない感じがあります。それでもデジタルオーディオの伝送規格のS/PDIFの"S/P"の"S"はSONY、"P"はPhillipsで両社で開発したものですし、オーディオCDもこの両社が共同開発したものです。そんな会社の製品なら多少高価になっても良い音をという思想があるのかもしれません。
YAMAHA機材
Model | DAC | Notes |
---|---|---|
FB01 | YM3012 (YAMAHA) | 音源はYM2164(OPP) |
YS100YS200 | YM3017 (YAMAHA) | 音源はYM2414(OPZ) |
WT11 | YM3017 (YAMAHA) | 音源はYM2414(OPZ) |
TX81Z | YM3012 (YAMAHA) | 音源はYM2414(OPZ) |
DX21 | YM3012 (YAMAHA) | 音源はYM2164(OPP) |
DX27DX100 | YM3014 (YAMAHA) | 音源はYM2164(OPP) |
TG33 | YM3032 (YAMAHA) | 音源はGEW5 |
TG77 | PCM56P-Y (Burr-Brown) | - |
SY77 | PCM56P (Burr-Brown) | - |
TG100 | PCM69P-C (Burr-Brown) | - |
QY20 | PCM69AP (Burr-Brown) | - |
MU80 | uPD63200GS-E1 (NEC) | ADCはLC7886M-TRM (Sanyo) |
MU100 | uPD63200GS-E1 (NEC) | ADCはTLC320AD58CDWT-EL (Texas Instruments) |
MU128 | uPD63200GS-E1 (NEC) | ADCはPCM1800 (Burr-Brown) |
CS1x | uPD63200GS-E1 (NEC) | - |
CS2x | uPD63200GS-E1 (NEC) | - |
CS6x | uPD63200GS (NEC) | ADCはPCM1800E/2K (Burr-Brown) |
AN1x | uPD63200GS-E1 (NEC) | - |
FS1R | LC78834M (Sanyo) | - |
RS7000 | AK4393-VF-E2 (AKM) | ADCはPCM1800E/2K (Burr-Brown) |
RM1x | uPD63200GS-E1 (NEC) | - |
EOS B2000 | uPD63200GS-E1 (NEC) | ADCはTLC320AD58CDWT-EL (Texas Instruments) |
EX5 | PCM1702U (Burr-Brown) (Main Out)uPD63200GS-E1 (NEC) (Indv. Out) | ADCはTLC320AD58CDWT-EL (Texas Instruments) |
DTXPRESS | uPD63200GS-E1 (NEC) | - |
DTXPRESS II | uPD63200GS-E1 (NEC) | - |
DTXPRESS III | uPD63200GS-E1 (NEC) | - |
DTXPRESS IV | AK4385ET (AKM) | - |
現在発生している(AKMの工場火災によるオーディオ用)半導体不足でYAMAHAだけ電子ピアノの売り上げが落ちているみたいな記事を見かけましたが、AKM以外のDACを使用した製品もあるわけで、他社製DACを使用すればいいじゃん。としか思えず、ちょっとあの記事はどうなんだろうと思いました。他社製DACに切り替えたマイナーチェンジモデルを発売してしまうと復旧後のAKM製品の行き場が無くなってしまうから、YAMAHAのやさしさ*4でAKMの工場機能の回復を待ってるだけなんじゃないかなーと、無責任な部外者は想像します。つまり、現在の販売数量をとにかく増やせってだけなら、製品を作るために他社からDAC買えばいいし、他のDAC製造元も供給がひっ迫してるなら、自社で半導体を作れるYAMAHA自身が作ればいいし、実際に過去に作っていたのだから作れる能力もあるはずです。ただ、そんなことをしてもコモディティ化の進んだDAC製造に投資する合理性は無いからAKMの復旧を待つ判断をしたのであろうかと。
CASIO機材
Model | DAC | Notes |
---|---|---|
CZ-5000 | BA9221 (Rohm) | 12bitDACだが、後段の4051を使ったExpander回路で4bit拡張され全体としては16bit相当DACが構成されている |
VZ-1 | PCM54 (Burr-Brown) | DACの後にVCAのM5207L05 (Mitsubishi)が配置されCV生成用のR2R DAC回路が構成されている |
まともな出力波形を得られるDACがコモディティ化した今現在の視点で見るとかなりトリッキーな回路構成ですが、当時の技術で現実的な予算でダイナミックレンジ拡大を図った結果なのだと想像されます。
AKAI機材
Model | DAC | Notes |
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S1100 | PCM56P (Burr-Brown) | ADCはAK5326(データシートが無いので詳細不明)か?または、Roland S50系と同様にComparatorのIR9311も載っているので逐次比較型AD変換回路を構成しているかも?(回路図が無いので詳細不明) |
MPC2000 | PCM69AP-4(Burr-Brown) | ADCはAK5340-VS(AKM) |
MPC4000 | PCM1730E (Burr-Brown) | ADCはAK5383VS (AKM) |
MPC1000 | AD1839AS (Analog Devices) | 2ch ADCと6ch DACがワンチップに統合 |
MPC2500 | PCM1793DBR (Burr-Brown)(Main Out)AD1837AS (Analog Devices)(Assignable output) | AD1837ASは2ch ADCと8ch DACがワンチップに統合 |
補足
- NECの半導体事業は分社化後、Renesas Electronicsに統合されました
- Burr-BrownはTexas Instrumentsに買収されました
- Phillipsの半導体事業は分社化しNXP Semiconductorsに変わりました
- SanyoはPanasonicに買収されましたが、半導体事業はON Semiconductorに買収されました
- MatsushitaはPanasonicブランドに変わった後、半導体事業はNuvoton Technology Corporationに事業譲渡されました
- 旧NECのμPDシリーズの表記はuPDに統一しています
- 音が出ない系の修理観点ではDAC単独で自然故障することは殆ど無く、後段のフィルタやラインアンプに使われるコンデンサやカップリングコンデンサの劣化を先に疑った方がよいでしょう
- デジタル出力改造の観点からはDACのデータシートさえ入手できればI2S(らしき)信号フォーマットと動作モードを決定するピンが判ります*5
以上。
*1:音源チップのTC6116AFはSCB-7(SC-7相当のPC-98シリーズ用拡張基板)やSC-55mkIIでも採用されている※組み合わせの波形ROMは異なる
*2:S50使ってたけど物理的にめちゃくちゃ重たいのは部品点数とか気にしてなかった?
*3:現在発生している(AKMの工場火災によるオーディオ用)半導体不足のような事態を想定して、各社の特性を把握しておくような目的があったんでしょうかね?
*4:というかAKMとの契約条件?
*5:そのピンの状態等を確認すれば一般的なフォーマットに音声データをデコードできることになります。かつてSC-88 Proのデジタル出力改造が流行ったのと同じようなことが理論上可能ですが、そのためのS/PDIFコーデックICが入手困難だったりしますので、どうにかしてマイコンでデコードしたうえで出力するような工夫が必要になると思います。構想はあっても実際に試したわけではないので、具体的実例は残念ながらご紹介できません。