AKAI MPK mini MK3を分解したので内部構成等をメモしておきます。メーカーの訴求する「第2世代キーベッド」が具体的にどう違っているのか、明確な情報はありませんでしたが、分解してみると明らかに違うことが判りました。
<<警告>>
本投稿の内容を真似て何らかの事故や損害が生じても著者は一切の責任を負いません。実施される場合は自己責任にてお試しください。
分解
裏面に見えている+ネジを外すだけで分解可能です。隠しネジはありませんし、特殊な工具も不要で簡単に分解できます。
ただし、表側の外装に固定されている基板とキーボードユニットがフレキシブルケーブルで繋がっていますので、勢いよく開けると断線により壊してしまう可能性がありますので注意しましょう。
第2世代キーベッド
個人的にAKAI MPK mini Play(初代)を分解した経験がありますが、それとは異なるMK3で採用された「第2世代キーベッド」とやらの実体を見ることができました。
MPK mini Play(初代)を分解したときには画像を撮り損ねましたが、第1世代では複数のキーが一体成型されており白鍵がC~Bの1オクターブ*1の塊が2つと一番右側のCだけ単独のキーと、黒鍵がC#~A#の塊が2つで構成されていたように記憶しています。極限まで安く製造することを目的とした数千円のカシオトーンと同様の構造です。(たまに鍵盤が折れていたり、下がったまま戻らない状態の個体を中古で見かけることがありますが、鍵盤が元の位置に戻る力は一体形成の樹脂のたわみが戻ろうとする力だけなので、この状態になってしまうと一体形成の鍵盤パーツを入手できない限りは修理できません。)
一方、MPK mini MK3の第2世代キーベッドとやらは全く別な構成です。普通のシンセ鍵と同様に各鍵盤が独立していますが、多くの国産シンセ鍵盤が板バネを使用しているのに対し、MPK mini MK3は普通のバネを支点側の終端に設けた構造になっています。同様の構造の鍵盤は大昔にensoniq VFXを分解した時に見たことがある気がしますが、画像検索してみると近年のシンセサイザーではDave Smith InstrumentsのPoly Evolverが似たような構造みたいですね。
このように物理的構造は大きく変わっているのですが、電気接点の構造は基本的に変わって無さそうに見えます。各鍵盤につき2つの接点を有し、基板上の接点の上に鍵盤から抑え込まれる導電性ゴムが配置される構造で、2接点がONになる時間差でベロシティを検出するよく見かけるタイプのようです*2。
なお、キーボードユニットから延びるフレキシブルケーブルの信号線はROW0~7、COL0~7の64パターンの組み合わせ*3を出力可能です。
主要パーツ構成
ざっと目視で確認できるパーツと、推測される用途は以下の通り。
IC2 | STM32F072RB | ARM CortexM0 32bitマイコン(USBやADC等も内蔵, GPIOは51個) |
IC4, IC5, IC6 | HJ4051(CD74HC4051) | 8ch MUX/DEMUXIC4: PadIC5: ロータリエンコーダのA相(またはB相)IC6: ロータリエンコーダのB相(またはA相) |
IC7, IC8, IC9 | 74HC595D | 8bit shift registerシリアル入力パラレル出力(マイコンから8個のLEDの点灯制御)IC7: S/W on top panel left side?IC8: Pad?IC9: S/W on top panel right side? |
また、軽く目視した感じでは、
- Keyboard scan matrixは直接マイコンへ(GPIOを16pin消費)
- JoystickX/Yもたぶん直接マイコンへ(GPIO(analog input)を2pin消費)
- Joystickの下の6個のS/Wも直接マイコンへ?(GPIOを6pin消費)
- OLED隣の4個のS/Wも直接マイコンへ?(GPIOを6pin消費)
- OLEDはマイコンのI2CまたはSPIへ
といった構成で、各種入出力デバイスはHJ4051、74HC595Dを経由するか直接マイコンに接続するかされているようです(テスタ等でパターンを正確に追ったわけではありませんので間違いがある可能性があります)。
なお、MPK mini MK3のノブは従来の可変抵抗ではなく、ロータリーエンコーダに変わりましたが、Joystick X/Y軸は従来同様の二軸の可変抵抗の組み合わせのように見えます。この出力電圧は外部ADCを介さずにマイコン内蔵のADCに接続されているようです。マイコンにSTM32F072RBを採用することで部品点数削減とコスト削減を図っているのでしょう。
ところで、ロータリーエンコーダのA相/B相をマルチプレクサを介してマイコンに入力する構成はこれまでに見たことがない気がします。ユーザの操作の仕方によってA相/B相のパルスの周波数は大きく変わりますが、マルチプレクサ経由でも取りこぼさずに安定して受け取ることができるとは知りませんでした。確認してみるとHJ4051のデータシートによれば、Input rise and fall timesはmin 0nsながらもmax1000ns(@2V), max500ns(@4.5V), max400ns(@6V)となっています。MPK mini MK3の内部電源電圧は測っていませんが、最悪値の1usとして、8個のロータリーエンコーダ入力のA相(またはB相)を扱うと仮定するなら、一つのロータリーエンコーダにつき単純計算で8us以内に次のパルスが来なければいい、すなわち125KHz以上のパルスでなければ問題無いことになります。仮に1回転で24パルスを生じるロータリーエンコーダーなら、毎秒約5208回転させなければ問題無いことになります。人間が手で操作するMIDIコントローラのノブがそんな高速回転するわけありませんので、全く問題無いということになりそうです。大量にロータリーエンコーダを積んだMIDIコントローラを自作する際の参考になりそうです。
その他
- AKAI MPK miniシリーズの第1世代と第2世代ではキーボードユニットの構造が全く違いますが、主観では弾きやすさは大差ないと感じます(ミニ鍵なのでどちらも弾きやすくは無く、DAWの入力用鍵盤としてはどちらでも実用十分)。
- 但し、構造の違いから樹脂疲労によって壊れるリスクは格段に減っているはずです。
- 初めて買うとか壊れたため買い替えるのには適していると思いますが、演奏性が向上すると思って旧世代のMPK miniシリーズから買い替える必要性は無いと思います。
- 第2世代では部品点数が大幅に増えていますので、キーボードユニットを完全に分解して清掃するような作業は大幅に面倒になっています。
- 但し、一部のキーが反応しないような場合に行う接点のクリーニングだけなら第1世代と大差無い手間で可能です。
- キーボードユニットから基板と導電性ゴムを取り外し、接点と導電性ゴムの洗浄を行えば復活するはずです(今回分解した主目的は反応しないキーを修理することでしたが、基板上の接点部分をアルコールで拭き取り、導電性ゴムを台所用中性洗剤で洗浄して十分に乾燥させた後、組み戻しただけで回復しました)。
- 但し、一部のキーが反応しないような場合に行う接点のクリーニングだけなら第1世代と大差無い手間で可能です。
以上。