ZOOM RT-323の中身と電池交換
先日投稿したZOOM RT-234に続き、RT-323も入手しました。
wave.hatenablog.com
Zoom RhythmTrakシリーズ中で、初号機のRT-234及び上位モデルのRT-323にはプリセットベクターシンセとも呼べそうな、簡易ベクターシンセ的な機能を持っていることが判ったので、上位モデルのRT-323も入手してしまいました。
入手した個体は内部のメモリバックアップバッテリの交換が必要な状態(後述)だったので、分解したついでに清掃したので内部画像を掲載しておきます。
!! 警告 !!
本投稿を参照して分解等の作業を行い、いかなる損害や損失が発生した場合にも私は責任を負いません。情報の正確性についても保証いたしかねます。
何かなさる場合は、全て自己責任となりますのでご注意ください。
メモリバックアップバッテリ交換前の挙動
私の個体では、以下のような異常な挙動が確認できました。
- 正常にシーケンサが機能しない
- 再生ボタンを押しても、リズムパターンが再生されない
- メモリ使用量を確認すると99%まで使い切っている表示になる
- 初期化した直後は正常にシーケンサが機能する
- 一度電源を切ると、再度異常な挙動に戻ってしまう
初期化すれば正常な挙動になるものの、メモリ周りがおかしいようなので、メモリバックアップバッテリが消耗しているのであろうと推測できます。
YAMAHAの機材ではBattery Low的な警告メッセージをよく見かけますが、Zoom製品には(モデルにもよると思いますが)そのようなメモリ保護用バッテリ電圧低下監視機能は無いのかもしれません。
底板取り外し後
底板(鉄板?)を取り外すと上記画像のような状態となります。
RT-234は基板にはんだ付けされたスプリングのような金属パーツで底板と接触する構造(アース対策というかノイズ対策と思われる)になっていましたが、RT-323では針金のようなパーツで底板と接触する構造になっています。
この針金のようなパーツは基板にねじ止めされているだけですので、分解後組みなおす際にどこについていたか判らなくならないように記録しておくことをお勧めします。
なお、使用されているネジの種類は3種類で金属色のネジが1種類と、黒色のネジが2種類あります。黒色のネジの内、長いタイプのネジが使用されているのは6か所で、前述の針金のようなパーツを固定するネジ1本、MIDI IN/OUTコネクタを固定するネジ2本、乾電池ホルダを固定するネジ3本の計6本が該当します。
※基板にも筐体にもネジ固定用と思われる穴があるのに、ネジ止めされていない箇所があります(これが仕様なのか、前オーナーの手によるものなのかは不明)。どこがネジ止めされているのかと、使われているネジの種類が解らなくならないように記録しながら作業をすることをお勧めします。
メモリバックアップバッテリ
基盤と乾電池ホルダの間にボタン電池が見えています。乾電池ホルダを取り外すと、基板上の刻印が確認できます。
シルク印刷より、CR2032であることが判りますが、端子が電池本体に溶接されており、端子が基板にはんだ付けされているタイプのため、そのままでは交換できません。
なお、RT-234の場合はCR2032から延びた端子はスルーホールで基盤とはんだ付けされていましたが、RT-323では表面実装タイプとなっていますので交換用部品の選定時には間違えないよう注意が必要です。
最低限、後述の乾電池ホルダとフェーダー基板を取り外せば、CR2032の取り外し及び付け替え作業はできそうですが、半田ごてで作業しずらいので基板を筐体から取り外した方が良いと思います(私は基板を取り外した状態で作業しました)。
CR2032の取り外し時には基板とCR2032の間に(念のため絶縁体の)つまようじのようなものを片手で軽く差し込みながら、はんだ付けされた端子部を半田ごてで加熱すると取り外ししやすいと思います。誤解の無い様に注記しておくと、端子部ごとCR2032を取り外します。CR2032と溶接された端子を半田ごてで分離することはできません。無理に加熱するとボタン電池が爆発する可能性もありますので、絶対にしてはいけません!
元からついていたCR2032を取り外した後は、別途用意したCR2032ホルダ(ソケット)をはんだ付けします。これで次回以降の電池交換時にははんだ付けは不要となります。
CR2032ホルダの選定
例えば秋月電子でCR2032ホルダを探すと50円程度から存在します。
秋月電子通商 - 電子部品・半導体 【通販・販売】
やたらと種類があり、価格も異なりますが、適切なホルダを選ばないと基板上に物理的に取り付けできません。
まず、端子の形状や配置を確認してください。前述の通り、RT-323は表面実装タイプで、CR2032の直径の両端に端子が位置するホルダを選定する必要があります。恐らく、[CH004-2032LF](通販コード P-11255)が最も安価な適合品になると思います(実際に試したわけではありません)。
ところで、ほとんどのデスクトップPCのマザーボードには電池ホルダにボタン電池がセットされています。なのに、何故この類の電子楽器系の機材(リズムマシンにせよ、音源モジュールや鍵盤型シンセサイザーの多く)はメモリバックアップバッテリを直接はんだ付けしているのでしょう?メーカーがアフターサービスで稼ぎたいとか、嫌がらせのような理由も邪推できますが、PCでもノートPCだと電池ホルダが使われていないことも多くあります。はんだ付けされていたり、以下のようにボタン電池からコネクタが生えているようなタイプが使われていたりすることもあります。
IBM Lenovo ThinkPad用CMOS電池 バックアップバッテリー 92P0986 02K7078
- メディア: エレクトロニクス
といったことを加味して、脱落防止機構があるCR2032ホルダを使いたいと思います。秋月電子の取り扱い製品の中では[BHSD-2032-SM(COVER)](通販コード P-12908)がこの条件に適合しますので、電池ホルダとしては少しお高いですがこれを使用しました(実際にRT-323に取り付けでき、正常に動作しています)。
以降の内容はメモリバックアップバッテリ交換とは関係ありません。分解ついでに内部構造を確認した記録です。
乾電池ホルダ取り外し後
RT-234は基板が2枚に分割されており、ドラムパッド基板と、各種半導体や入出力端子が搭載されたメイン基板といった構成になっていました。
RT-323では基板は3枚に分割されており、ドラムパッド兼音源搭載メイン基板(以降、メイン基板と表記)と、電源・DAC・入出力端子が搭載されたアナログ系基板(以降、アナログ系基板と表記)、フェーダー基板で構成されています。
また、RT-234では2枚の基板を繋ぐフラットケーブルは直接はんだ付けされており取り外すことができませんでしたが、RT-323ではメイン基板とアナログ系基板を繋ぐフィルムケーブルはコネクタ部分のロックを解除すれば取り外し可能となっています(但し、アナログ系基板に繋がるフェーダー基板は、ケーブルがはんだ付けされているため取り外し不可)。
アナログ系基板
RT-234と比較して、MIDI OUTとパラアウトが追加されているのが仕様から判る大きな違いです。
実際に基盤を見てみると、元々のステレオ2ch出力に加えて2系統パラアウトに対応するためDACが2つに増えていることが確認できますし、オペアンプも増えています。また、スマートメディアに対応するためか、電源レギュレータも3.3Vと5Vの2つが搭載されています(RT-234では詳細不明の5端子のレギュレータが搭載されていました)。
- IC13
- NJM4558(?)
LINE-IN端子付近に位置し、ミキサ用オペアンプと思われる(RT-234にも同様の位置に存在) - IC22
- NJM2100
パラアウト端子付近に位置し、ラインアンプ用オペアンプと思われる - IC18
- JRC 7082D(?)
NJM7032Dならオペアンプで、メイン出力付近に位置するためラインアンプと思われる - IC34/IC35
- BB PCM1744U
Burr-Brown製の24bit/96kHzまで対応したDACでRT-323では24bit/48kHz動作
RT-234はNECのμPD6379Aが使われ16bit(サンプリング周波数不明)だったので、上位モデルらしさを感じられるポイント - IC14
- SHARP PC410
MIDI IN用のフォトカプラ - IC23
- NEC μPC29M33T
電源レギュレータ(3.3V)
少なくともスマートメディアの動作に3.3V電源が必要になったと思われる - IC21
- NEC μPC29M05T
電源レギュレータ(5V)
ヒートシンクが無いので放熱用と思われるパターンが広く設けられているが、単なる経年変化か発熱量が多いのか不明だがフラックス(?)が変色している
RT-234ではマスターボリュームは背面に設けられた小さな可変抵抗の軸そのものでしたが、RT-323ではパネル前面に大きなホイールとして配置され、隣にデータ入力ホイールが配置されるようになりました(個人的には操作をよく間違えるので紛らわしいUIはやめてほしい)。
パーツとしては普通に可変抵抗とロータリーエンコーダが使用されています(ピン配置や特性は不明)。なお、フェーダー基板に搭載されたフェーダーはリニアエンコーダではなく可変抵抗が使われ、コストに配慮したのだと思われます。
なお、私の入手した個体では、可変抵抗とロータリエンコーダの軸付近にベタつきがあり、基板上にも多くのゴミの付着が確認できます。(分解前の製品として動作する状態で)ボリュームダイヤルやフェーダーを動かすと樹脂筐体と、ダイヤルやフェーダーが接触し、動きがあまりスムーズではないと感じられるため、前オーナーが潤滑剤のようなものをスプレーしたのではないかと想像されます。可変抵抗の軸が曲がっている可能性もありますが、ばらした状態で動かしてみると特に違和感は感じません。このため、可動部の筐体設計の遊び・クリアランスが(塗膜を考慮してないとか)少な過ぎるように思います(当時のZOOM製品から察するに、ギターエフェクターにもよくある普通のツマミ以外の可変入力系パーツを採用した経験があまり無さそうですし)。
メイン基板
RT-234ではドラムパッド基板はほぼスイッチ入力だけのための片面基板でしたが、RT-323ではメインボードとも呼べる基板になっており両面にパーツが配置されています。
表面
RT-234には7セグメントLEDだけでしたが、RT-323には液晶ディスプレイが搭載されています。全面がドットマトリクスになっているわけではなく、文字や数字を表示する領域の2行分だけがドットマトリクスで、その他の領域はRT-323の機能に応じてセグメント分割されたカスタム液晶です。もし壊してしまうと純正パーツ以外での修理は不可能です。
この液晶は基板と導電ゴム(?)で接続・固定されており、ネジ止めなどはされていないようです。基板から外してしまうと、元のように固定できるのか解りません*1。この液晶周りには手を入れないことをお勧めします。
- IC8
- 74HC86A
Quad 2−Input Exclusive OR Gate High−Performance Silicon−Gate
単なる思い付きですが、液晶のセグメント駆動に関連するものでしょうか?
- IC3/IC4
- 74HC373A
Octal 3-State Non-Inverting Transparent Latch
IC1のすぐ隣に位置し、IC5,IC6(SRAM)の裏側付近にある(SRAM1個につきLATCHも1個で、RT-234の74HC573A相当と考えられる) - IC1
- NEC D70F3033AGC
Single Chip Microcontroller with Flash Memory
RT-323の搭載ICを見渡すと、RT-234のZOOM独自チップ234-0002相当の役割と推測され、メインプロセッサと考えられる - IC27
- TOSHIBA VHC08(これも74シリーズらしく74VHC08と読むらしい)
QUAD 2-INPUT AND GATE
スマートメディアスロットの裏側付近に位置するため、それ関連か(雑)?
裏面
左側の黒いパーツが新規搭載のスマートメディアスロットです。下部の2つの圧電スピーカーらしきパーツはRT-234から引き続き搭載され、RT-234と同じオペアンプに入力されています。恐らく、ドラムパッドのベロシティ検出用センサーとして機能しているはずです。
- IC25
- NJU6468F
8文字×2行LCDドライバ
RT-323はカスタムのセグメント液晶を搭載しているが、小節・拍や曲名/音色名等を表示する領域がこのサイズに該当する(7文字1行と8文字1行)ので、そのドライバ - IC9
- 74HC32A
- IC15
- 74HC00
- IC32
- 74HC08
IC9はTOSHIBA製だがIC15,32は今は無き日立製(RT-323は日立が半導体事業売却前で初代ルネサス設立前!というか、NECも今はルネサスだった)
IC25付近に位置し、RT-234には無かったので、液晶のセグメント部の制御に使ってる(雑)? - IC2
- ZOOM ZSG-2
ZOOM製音源チップ*2で、RT-234と同じ - IC17
- ZOOM 234-1001
音源波形等を格納したマスクROMと推測されるが、RT-234と同一
量子化ビット数が増えている(恐らくサンプリング周波数も向上している)のに同一波形ROMを使っているのは??? - IC10
- AMIC A29040L-70
512K * 8 bit Flash Memory
RT-323でもメモリバックアップバッテリが必要なことから、ユーザデータはこのフラッシュメモリでは保持していないと考えられる
RT-234ではフラッシュメモリは使用せず、RT-234と同じマスクROMを使用ということから察するに、RT-234とRT-323の差分データ(マスクROM中の音源波形ではなくシステムソフト部分)を保持していると想像される? - IC5/IC6
- NEC D431000AGW-70LL
1Mbit SRAM
RT-234の256Kbitから4倍×2個で8倍に容量増加
SRAMがRT-234比で8倍にも容量が増えているのは、シーケンサ部についてRT-234の最大記憶音数13000からRT-323の録音可能ノート/イベント数40000へ増加したことや、RT-234には無かったユーザドラムキット(13PAD×3BANK毎に9bitのinstrumentNo, 7bitのPitch, 4bitのPAN, 4bitのLEVEL, 4bitのOUTPUT MAIN, 4bitのOUTPUT SUB1, 4bitのOUTPUT SUB2)を8文字(7or8bit×8)のドラムキット名で64個作成できるようになったので、そのための容量が単純に必要になったのでしょう。
波形ROM(と推測されるチップ)がRT-234とRT-323で同じものが使用されているのは解せません。RT-234がダウンサンプリングして使っているか、RT-323がアップサンプリングして使っていることになります。パーツ共通化によるコスト削減を狙ったとしても、この時代の製品が無駄にメモリを浪費するとは考えにくく、RT-234が内部でダウンサンプリングしているとは考えにくいでしょう。とすると、RT-323がソフトウェア的にアップサンプリングしていることになります。確かにRT-323はサンプリング周波数48kHz、D/A変換24bit8倍オーバーサンプリングと仕様に書かれてはいますが、搭載波形が24bit/48kHzであるとはどこにも明示されていません。すなわちカタログスペックを強化しただけで、音源波形そのものはRT-234と同じなのかもしれません…。
なお、最大同時発音数はRT-234の32音からRT-323では30音にしれっと減っています。6.25%減です。この原因を考えてみると、RT-234の量子化ビット数が16*3でサンプリング周波数は公開されていませんが仮に44.1kHzとすると、RT-323では量子化ビット数50%増しかつサンプリング周波数約8.8%増しの掛け算で、単純計算で処理データボリュームは約1.6倍増加していることに起因するのかもしれません。最大同時発音数の6.25%減と数字が全然合いませんが、メインプロセッサと思われるチップがRT-234のZOOMカスタム品からRT-323ではNECの市販品に変更されていることもあって、単純な比較はできません(或いは、ボトルネックとなったのがメインプロセッサ側ではなく、音源チップ側のZOOM ZSG-2の方なのかもしれません)。
(参考)キーパッド
私の入手した個体は外装には多少の傷はありつつも、時代を考えれば十分キレイな状態です。が、パッドを取り外してみると超汚い。
隙間からゴミやホコリが侵入するのでしょうけれど、以前分解清掃したRT-234はこんなにひどくありませんでした。RT-234のキーパッドは黒やグレーだけだったから目立たないというわけでも無さそうです。
RT-323の黒いボタンでもゴミまみれなのが良く解ります。部屋のホコリという感じでも無さそうで、屋外イベントで長時間あるいは反復的に使用された個体なのでしょうかね。
RT-234のキーパッドを洗浄した際は、材質が解らないので念のため水とブラシだけで水洗したのですが、このRT-323の汚れは酷く、なかなかきれいになりません。仕方ないので食器用中性洗剤を使ってみたところ、界面活性剤の力でブラシで軽く擦るとだいぶ簡単にゴミが落とせるようになりました。洗剤の成分が残らないように入念に濯いだ後、完全に乾燥させる必要があります(それでも長期的には影響が出てくるかもしれませんが)。
よく考えてみると、RT-234では筐体とキーパッドの間に透明の樹脂板が存在しました。これは基板上のチップLEDの光をパネル面に導光するためのパーツでしたが、実はゴミの侵入を阻害する副次的な効果もあったのかもしれません。RT-323では筐体のすぐ下にキーパッドが存在し、キーパッド自体が光る(だから黒やグレーではなく白っぽい色が使われている)構造に変わっています。このため、基板上のチップLEDの光が透過するようにキー裏側中央部に穴が開いています(このためRT-234とはキーパッドの接点形状も全く違います)。透明樹脂パーツを排して部品点数削減(キーパッド自体は2分割から4分割に増えてるけど*4 )を狙いつつ、キーパッドが光るという見た目のインパクトを狙ったのかもしれません。
以上。