KORGから2019/11/23に発売されたシンセサイザーキットNu:Tekt NTS-1 digital KITを買いました。
発売当初から気になっていましたが約1万円程度という価格設定で、シンセサイザーとしては破格ながらも(適切な比較対象ではありませんが、)RaspberryPiと比べると高い。というわけで、購入には至りませんでした。ところが、2020年末頃に価格改定があったのか決算セール的なものなのか在庫処分なのか解りませんが、一部の楽器店で値下げされていたので購入しました(現時点ではAmazon.co.jpでも同様に値下がりしているようです)。
KORG(コルグ) Nu:Tekt NTS-1 digital kit はんだ付けなしで組み立て可能 DIY シンセキット USBバスパワー ソフトウェアライセンス込み
- 発売日: 2019/11/23
- メディア: エレクトロニクス
NTS-1は組み立てキットであることも特徴ですが、C言語でオシレーターやエフェクトプログラムを自作できることも大きな特徴です。
パッケージ
至ってシンプルな箱に入ってます。説明書やYoutubeに組み立て方法は解説されていますが、この図の通りですので組み立て作業自体はとても簡単です*1。
箱を開けようとすると、"Assembled by YOU!"の文字が飛び込んできます*2。
箱の裏側は組みあがった状態の図が描かれています。
自分で組み立てるわけですから最終組み立て地は日本になるのですが、キット自体としては"MADE IN VIETNAM"でベトナム製だそうです。
個人的には初めて見た警告表記がありました。”Cancer and Reproductive Harm”という文言とともにP65Warnings.ca.govのURLが表示されています。癌と再生産の害って何じゃそりゃと思ったら、"Reproductive"は再生産ではなく生殖機能を指しているそうで、癌と生殖機能に害を及ぼすリスクが警告されているようです。マジで?
URL末尾のca.govからカナダの規制かと一瞬勘違いしましたが、米国カリフォルニア州の規制により表示されているようです。どんな規制かJETROが日本語の解説PDFを用意してくれています。
よくある質問 プロポジション65 - ジェトロ(PDF)
というわけで、カリフォルニア州の規制当局のリストに載ってる物質を含んでいることからこの警告表記があると思われますが、リスト中のどんな物質をどれだけ使っているのかは取説やKORGのWebサイトから見つけることはできませんでした。別にNTS-1は食べ物でも食品容器でもなく、カリフォルニア州の規制が(米国の他の州や他国と比較して)異常に厳しいだけだと思うので、特に気にしないことにします。
基板
私が購入した個体のメイン基板(KLM55114)はRevision Cのものでした。
ざっと見て目についたのは以下のようなチップです。
機能 | メーカー | 型番 | 備考 |
---|---|---|---|
MCU | STMicroelectronics | STM32F446(STM32F446ZET6) | ARM Cortex-M4 (DSP命令対応、FPU搭載) 180MHz |
DRAM | ISSI | IS42S16400J-6TL | 64Mbit SDRAM |
DAC | Asahi Kasei Microdevices | AKM4384ET | 192kHz 24-Bit 2ch ΔΣ DAC |
ADC | Asahi Kasei Microdevices | AKM5358AET | 96kHz 24-Bit ∆Σ ADC |
PhotoCoupler | Toshiba | TLP2368 | MIDI IN分離用 |
H.P.Amp | TI | TPA6138 | Headphone Driver |
その他、JRCのOPAmpが複数使われていますが、サインペンのようなマーキングが邪魔で読み取れませんでした。
AKM製のDAC/ADCが採用されているので、(大規模な工場火災により)事実上生産が止まっているらしいので在庫が尽きると安定供給が難しくなるかもしれませんね。なお、DAC自体は24bit/192kHzまで対応していますが、24bit/48kHzまたは16bit/48kHzで動作していると考えられます。NTS-1のオシレータブロックはサンプリング周波数48kHzでQ31フォーマットで出力しますので*3。
また、画像中央右下に端子は未実装ながら以下の刻印があるスルーホールが固まっていますので、ハードウェアを改造する場合には便利そうです。というかMIDIはMIDI INだけミニジャック形状の端子が実装されていますが、ここにはMIDI OUTも存在します*4!
- SYNC IN
- SYNC OUT
- AUDIO IN L
- AUDIO IN R
- AUDIO OUT R
- AUDIO OUT L
- MIDI IN TIP
- MIDI IN RING
- MIDI OUT TIP
- MIDI OUT RING
- +5V
- +3.3V
- GND
この左側には5つ未刻印のスルーホールが固まっていますが、もしかしてUARTだったりするのでしょうか?*5
7セグメントディスプレイとロータリーエンコーダーと2本の可変抵抗とタクトスイッチやリボン鍵盤が並んだコントローラ基板の裏側にも、MCUが存在します。
機能 | メーカー | 型番 | 備考 |
---|---|---|---|
MCU | STMicroelectronics | STM32F030 (STM32F030R8T6) | ARM Cortex-M0 48MHz |
比較的どうでもいいですが、リボン鍵盤(恐らく可変抵抗)を固定する両面テープも3Mの型番が確認できます。
機能 | メーカー | 型番 | 備考 |
---|---|---|---|
AdhesiveTape | 3M | 467MP | Adhesive Transfer Tape |
組み立て
季節柄静電気には注意しましょう。という程度で特筆すべき事項はほぼ無く簡単。強いて言うなら基板を切り離す際の力加減が多少不安になった位でしょうか*6。
購入後届くまでの間に取説PDFを一度読んでいましたが、実際の組み立て時には取説読まずに小一時間程度で問題無く組み立てできました。
その他
薄々気づいてたことと、使ってみて初めて判ったことの両方ありますが、NTS-1はいろいろ制約が多いです。
- パッチ保存できない!(音色保存できません。ユーザーパッチだけではなく、プリセットもありません。)
- カスタムオシレータで最大6個のパラメータを持てるが、MIDI経由で変更できない(Control Change番号がアサインされていないので、NTS-1本体の可変抵抗でしか操作できない)
- 既に発音中だとカスタムオシレータのOSC_NOTEON(),OSC_NOTEOFF()がフックされない?
- 普通のモノシンセ(後着優先)としてはOSC_CYCLE()中でピッチを特定する必要があり、OSC_NOTEON(),OSC_NOTEOFF()の存在意義がほぼ無さそう
- カスタムオシレータでポリフォニック化させないために意図的に制限されてそうな…
これらのことを加味すると、好みの音色が創れたらサンプリングしておくのが実用的だと思います。音色再現できるのと、ポリフォニック化できるので。但し、NTS-1の各種パラメータをリアルタイムで動かしたい用途には向かず、それはサンプラー側の類似機能で代替することになりますが。
開発環境構築などについては以下に記載しました。
wave.hatenablog.com
自作オシレータについては以下に記載しました。
wave.hatenablog.com
以上。
*1:ネジ止めと両面テープとコネクタを嵌めるだけですので、はんだ付けのような作業はありません。
*2:何でAssembledと過去形なんでしょうかね?
*3:内部処理は32bitで最終的にデジタルオーディオをDACに転送する際に24bit(或いは16bit)に切り捨てているはず。
*5:NTS-1はコンソールもログも無いのでカスタムオシレータのデバッグが超つらいのです。これがシリアルコンソールとして機能するなら積極的に使いたい。
*6:結構強めに力を入れないと割れません。細いパーツ、特に端子穴が複数開いているパーツは変に力を加えて壊さないよう注意しましょう。
*7:要はトランスを挟んで電気的に絶縁する。