ZenFone Zoomが発売された

 光学ズームレンズ搭載のSIMロックフリースマートフォンASUSより発売された。かつてのガラケー時代にはSONYSHARP等から光学ズーム搭載機が若干リリースされていたが、国内市場に投入されたスマートフォンは知る限り無かったと思う。
 どんな感じのカメラ機能のスマートフォンなのか、カメラとしてのハードウェアスペックを調べてみた。

カメラスペック

 ASUSの製品サイトによると、以下の特徴が説明されている*1
ZenFone Zoom (ZX551ML) | Phone | ASUS 日本

  • 1300万画素アウトカメラ
  • HOYA製レンズユニット搭載
  • 光学3倍ズームで焦点距離28-84mm相当
  • 4段相当の光学手振れ補正を搭載
  • デジタルズーム併用時最大ズーム倍率は12倍

 多くのニュースサイトでも記事が出ているが、例えばこちらの記事がカメラについて比較的詳細に掲載されている。それによると、
ASUS、「ZenFone Zoom」発表会レポート 〜ジョニー・シー会長、ZenFone Zoom筐体製造工程からのこだわりをアピール - PC Watch

  • イメージセンサはPanasonic
  • 感度はISO50~3200
  • ズームは無段階ではなく32段階のステップズーム
  • シャッタースピードは1/16000~32秒
  • 最短撮影距離は5cm(Wide)~30cm(Tele)

 と言った諸元で、ミノルタDimageXから始まった屈曲光学系コンパクトデジタルカメラの現代版と言えそうな感じ。

 製品サイトに掲載されているフォトギャラリーを見ると、かなり塗り絵調な感じもするものの、ほとんどの作例がパッと見は綺麗に見える。まさに良くも悪くもコンパクトデジタルカメラのような画像のような感じ。暗いお寺の内部の写真では、照明にパープルフリンジが見えるようなことも無く、小さなズームレンズなのに良く出来ている(良く補正されている?)と言ってよさそう。一方、屋外の日没直後のような風景写真では信号機や街灯の灯りが滲んだ感じで、安物ズームレンズのような残念な描写にも見える。また、オーロラの風景写真は流石にノイズを感じるものの、その他は比較的目立たず上手なノイズリダクション処理がされているように感じられる。但し、カメラメーカーとは異なり原寸大のサンプル画像が提示されているわけではなく、リサイズの結果としてノイズが目立たないだけかもしれない点には注意が必要だろう。

 多くの人が便利に使えるお手軽カメラとしては、なかなか良さそう。
 であるが、動画性能について全く触れられていないのが謎。4Kはもちろん、ハイスピード撮影とも何も書かれていないので、FullHDで30fpsとかそんな感じなのだろうか?

イメージセンサ

 Panasonicのモバイルデバイス用外販イメージセンサはMN34130又はMN34150が現行品としてリストされており、いずれも13MPでありZenFone Zoomの画素数と一致します。
モバイル機器用イメージセンサ SmartFSI® | イメージセンサ | 製品 | 半導体 | Panasonic
 MN34130とMN34150の違いはデータシートが公開されていないので、詳細は不明ながらもMN34130はFullHDで60fpsまで、MN34150はFullHDで120fpsまでとフレームレートが倍増しているのが主要な差異のようです。ZenFone Zoomの動画スペックが明らかになるとどちらのセンサが搭載されているのか絞り込めるかもしれませんね。いずれにしても1/3.06インチサイズなので、サンプル画像が塗り絵っぽく見えるのはある程度許容せざるを得ないのかもしれません。
 また、いずれもSmartFSIを謳うCMOSイメージセンサとなっています。FSIはFront Side Illuminationの略で、裏面照射(BSI; Back Side Illumination)と逆に一周回った感がありますが、表面照射型となります(SONYで言うところのExmorとExmor RのExmorの方)。SmartFSIはPanasonicの独自技術で、曰く「BSIを凌駕する高感度・高性能イメージセンサ」だそうです。
モバイル機器用イメージセンサ SmartFSI® | イメージセンサ | 製品 | 半導体 | Panasonic
 光ファイバがコアとクラッドの境界で全反射させロスなく光を伝送するように、反射鏡の役割をする光隔壁で各画素の周囲を囲み、フォトダイオード(PD; Photo Diode)まで入射光を導くから高感度だよ。ということみたいです。(で、この光隔壁のおかげで斜め入射光もPDに確実に導くから画像の隅々まで高解像度だって書いてあるけど、それはオンチップマイクロレンズの役割と違うのか私には理解できず。)

レンズユニット

 HOYA製を大々的に前面に打ち出しており、製品サイトには「光学レンズ業界のリーダーであるHOYA社と協業し、HOYA製の10層構造のレンズユニットを搭載。」と記載されています。
HOYA事業紹介ページにもレンズモジュールは掲載されています。
HOYA株式会社 | HOYAの事業 | 情報・通信分野 | 映像関連製品
 ここに「スライディング・レンズ・システム」なる図が掲載されているのですが、どこかで見た記憶が。かつてのPENTAX Optio Sで初搭載されたんじゃなかったっけと思ったら、ビンゴ。
News:“スライディングレンズシステム”の生い立ち――「オプティオS」開発秘話
 上記は2003年の記事ですが、それによると当時のPENTAXが開発したように書かれています。2008年にPENTAXHOYAに吸収合併され、2011年にRICOHHOYAPENTAXイメージング・システム事業を買収した経緯がありますが、当時のプレスリリースによると、
http://v4.eir-parts.net/v4Contents/View.aspx?cat=tdnet&sid=900859

なお、HOYA が平成 20 年3月 31 日付で吸収合併いたしましたペンタックス株式会社より引き継いだイメージング・システム事業以外のデジタルカメラモジュール、DVD 用ピックアップレンズ、内視鏡、人工骨、音声合成ソフトウェアの各事業は、HOYA が引き続き展開してまいります。

 と記載されており、スライディング・レンズ・システムは「ペンタックス株式会社より引き継いだイメージング・システム事業以外のデジタルカメラモジュール」に該当し、RICOHに引き渡さずHOYAが所有することになったようです。スライディング・レンズ・システムは屈曲光学系ではありませんが、Pentax Optio Wシリーズのレンズユニットが屈曲光学系であったことから、それをベースに開発されたのかもしれないですね。
 蛇足ですがOptio Wシリーズの後継に当たるRicoh WGシリーズですが、妙にOlympus TG一桁シリーズと酷似しています。完全に妄想ですが、レンズユニットをOlympusに切り替えたとかそんな事情もあるのかもしれませんね。

まとめ

 製品サイトに記載されている「一眼レフ並みのカメラ」や「まるでデスクトップパソコンのような高速な処理能力」といった文言は言い過ぎ感がありますが、「画素数だけならそうですね」とか「ATOM積んだシンクライアントみたいなデスクトップPCもありますね」という嘘はついてないギリギリの表現を攻めてるのでしょう。そんな表現をしなくても、一眼レフみたいな大きなカメラは邪魔。面倒なのも嫌。簡単で便利なのがいい。というマスターゲットを狙った製品としてはなかなか優れていそうな感じがします。
 本投稿ではデジタルカメラのノリでスペックを読んできましたが、製品ジャンルとしてはスマートフォンですからね。FullHD解像度とは言え5.5インチのディスプレイで表示するには十分すぎるカメラ機能でしょう。SIMロックフリースマートフォンとしてみても、従来のZenFoneシリーズ同様にこれと言った欠点も無さそうですし、気になるとすればカメラ部の出っ張り位でしょうか。近いうちにスマートフォンを買い替えるという予定がある方には、有力な候補の一つとなるのではないでしょうか。




以上。

*1:何故かスペック表や製品詳細PDFには載っておらず、製品ページにしか記載されていない項目もある。