カリフォルニア州のオロビルダム(Oroville Dam)が険しい状況(追記有)

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 アメリカのカリフォルニア州にあるオロビルダムが決壊の恐れがあるとか、周辺住民に避難命令が出されたといった趣旨の報道が日本国内でもちらほら見かけられます。
 過剰に危機を煽るでもなく、これまでの事実を淡々と報じているように思えたのはナショナルジオグラフィックの以下の記事。
全米一高いダムに穴、18万人超が避難、写真5点 | ナショナルジオグラフィック日本版サイト

 ナショナルジオグラフィックらしい写真も含まれているのですが、さすがに今回のような緊急事態にフォトグラファーを投入することはできていないようで、現地政府提供の画像が使用されています。
 具体的な画像の出所を探してみたところ、カリフォルニア州水資源局(California Department of Water Resources; DWR)のPhoto Libraryのようです。
Pixel - California Department of Water Resources
 本投稿に掲載する画像も、DWRのPhoto LibraryでPublic Domain表記のある画像を利用しています。
 

平時のオロビルダム

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Source: Pixel - California Department of Water Resources 2011/03/30撮影
 気象条件が良ければ写真のように非常に美しい光景を見ることもできるようです。
 全米で最も高い場所にあるオロビルダムということでその落差も相当あるようで、滑り台のような構造物の上を水が流れる作りのようです。この滑り台のような構造物がSpillway(放水路)と記述されています。
 多くの日本人がダムと聞いてイメージするであろう黒部ダムのような形状とはかなり異なるような印象を受けます。
 

最近の放水路の状況

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Source: 2017/02/07~09に撮影された以下の画像を加工
Pixel - California Department of Water Resources
Pixel - California Department of Water Resources
Pixel - California Department of Water Resources

 上記のGIFでは大量に水が流れて放水路が損傷したかのようにも見えますが、2/7の時点で損傷してます。それでも2/8,2/9に激しく放水を行っていた(行わざるをえなかった)ことを意味しています。
 

公式発表

 DWRの公式の発表は以下に掲載されています。
California Department of Water Resources
 全てを読んだわけではありませんが、各発表のタイトルだけを古い順に紹介すると以下のような感じ。

Lake Oroville Releases Slowed to Avoid Erosion
浸食を防ぐためにオロビル湖の放水量を緩めた。
Lake Oroville Releases Increase
オロビル湖の放水量を増やす。
Oroville Dam Emergency Spillway Expected to Be Used as Soon as Early Saturday
オロビルダムの緊急放水路を土曜日早くに使用する見込み
Water Expected to Flow into Lake Oroville Emergency Spillway Soon
オロビル湖の緊急放水路に水が流れる見込み
Oroville Dam’s Auxiliary Spillway Begins Flowing
オロビルダムの補助放水路が流れ始める
Water Continues Down Oroville Auxiliary Spillway
オロビル補助放水路を水が下り続けている
Spillway Press Briefing at Noon in Oroville
正午にオロビルで放水路についての記者会見を行う
CONCERN AT OROVILLE SPILLWAY TRIGGERS EVACUATION ORDERS
オロビル放水路が引き起こした避難命令について
Oroville Spillway Incident Update
オロビル放水路問題の更新情報

 "Lake Oroville"(オロビル湖)と"Oroville Dam"(オロビルダム)の使い分けは厳密にはダム湖(貯水池)とダム設備を識別するためなのでしょうけれど、大きな意味では同じものと考えて問題無いと思います。また、"Emergency Spillway"(緊急放水路)と"Auxiliary Spillway"(補助放水路)は別物なのか同じものを指しているのかは不明確ですが、恐らく同じ放水路(メインの放水路とは別)を指していそうに感じました。

 発表を見ると何で緊急放水路をさっさと使用しなかったのだろうと思いましたが、ぽちっとボタン押せば水が流せるような代物ではないようです。公式発表中の以下の文言を読む限りでは、実際に水が流れる斜面はメインの放水路のようにコンクリートで施工されているわけでもなく、単なる山肌に近いようで、水路となるであろう斜面に生えている木を切り倒す作業が必要であったり、大量の水が流れることで泥水になって下流の生態系に影響が出るのが嫌だったりと、何かと使用が躊躇われるような代物のようです。

The emergency spillway is a vegetated hillside near the dam, and should it be used, water would wash away large amounts of soil. In preparation for the possible use of the emergency spillway, trees and brush are being removed from the hillside to minimize any flow of debris into the river.
Evacuation of fish from a downstream hatchery is underway to avoid harm to young fish and eggs from turbid water.

 もともとそのような運用を前提として設けられた緊急放水路なのかは判りませんが、オロビルダムが出来て以来の48年間で一度も使われたことが無いとも併記されています。1997年1月には緊急放水路に漏れ出す寸前*1までに至ったことがあるようです。

The emergency spillway has not been used in Oroville Dam’s 48-year history, but Lake Oroville came within a foot of spilling into it in January 1997.

http://www.water.ca.gov/news/newsreleases/2017/020917emergencyspillway.pdf
 

支援状況

 現地では大変な困難に直面していることが想像されますが、当事者であるDWR以外に、連邦エネルギー規制委員会、アメリカ陸軍工兵部隊、Butte County Sheriff’s Office(民間の警察みたいな会社?)、カリフォルニア州緊急事態担当、カリフォルニア州ダム安全局、カリフォルニア州消防局、カリフォルニア州野生生物局、連邦野生生物局といった関連当局と密接な協力の下で対応に当たっているようです。

DWR is coordinating closely with state and federal wildlife and dam safety officials as it responds to the spillway erosion and manages reservoir operations. Those involved in contingency planning and response include the Federal Energy Regulatory Commission, the U.S. Army Corps of Engineers, Butte County Sheriff’s Office, the Governor’s Office of Emergency Services, the state’s Division of Safety of Dams, CAL FIRE and state and federal wildlife agencies.

 

 ダムが位置エネルギーの塊である以上、貯水量が減らないと抜本的に対策するのは難しいのでしょう。
 最新のリリースでは補助放水路の浸食を埋めるため、ヘリやトラックで岩や砂利を投入していると地道な対応が続けられていることも記載されていますが、放水された水の運動エネルギー相応の浸食が起きるのも物理的には避けられない訳で、事態が好転するまで持ちこたえられればよいのですが。

Utilizing trucks and helicopters, crews moved large rocks and gravel to fill erosion on the emergency spillway. DWR staff continues to inspect and evaluate the emergency and primary spillways for further erosion.

http://www.water.ca.gov/news/newsreleases/2017/021317_pm_factsheet.pdf
 

(2016/02/16追記ここから)

追記

 2/14 PM7:00のDWRの発表によれば避難命令(mandatory Evacuation Order)は警報(warning)レベルに下がっているようです。なお、警報とは差し迫った脅威は無くなったが、危機的状況は残存していることを意味しており、住人は避難命令の可能性が有ることに備えておくべきである、といった趣旨の事も記されており、直ちに楽観視することはできないようです。

This afternoon the mandatory Evacuation Order was reduced to a warning. “An Evacuation Warning means the immediate threat has ended but the potential for an emergency remains and therefore residents must remain prepared for the possibility of an Evacuation Order,” said Butte County Sheriff Kory L. Honea.

http://www.water.ca.gov/news/newsreleases/2017/021417factsheet.pdf


 最新(2/15 AM8:00)のDWRの発表でも一部の避難センターも開設されたままですし、閉鎖されたままの道路もあるとされています。現在もDWRは貯水量を低下させるため、土木作業を支援するため、電力設備を守るため、流水量の調整を継続して行っているそうです。このため、水位は低下し続けており、悪天候が予想されているものの、その流量を吸収する程度のキャパシティはあると予想されているそうです。

DWR continues to regulate outflow, to reduce water levels in the reservoir, support construction activities, and protect the Hyatt Power Plant. The level of the reservoir continues to decrease, and at current rates is projected to possess the capacity to absorb anticipated inflows due to forecasted inclement weather

http://www.water.ca.gov/news/newsreleases/2017/021517_am_factsheet.pdf
 

ヘリや重機による資材投入

 岩や砂利を投入して浸食を防いだり修復しているようです。現米政権はどう思うのか知りませんがアメリカが本拠地のCATの重機はもちろん、日本のKOMATSUスウェーデンVOLVOの重機の姿も見えます*2
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2/12~15に撮影された画像を統合 
 

空撮画像

 追加公開された空撮画像では現地の状況が一望できます(何れも2/15に撮影された画像)。
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 もう少し放水路に寄った画像に注釈を加えると以下の通り(注釈は私が付けたもので、正確性は保証しかねます)。
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 放水路を通った水が流れ込むフェザー川(Feather River)に大量の土砂が流れ込んでいる状況も伺えます。
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(2016/02/16追記ここまで)
 



以上。

*1:came within a footの意味が適切かあまり自信ありません。

*2:ちなみにKOMATSUはアメリカの3箇所に製造拠点を、VOLVO TRUCKSは流通センターと工場を合わせて3箇所の拠点があるようです。