カタールと中東諸国の断交による輸出入への影響

 中東諸国がカタールと断交した旨の報道が2017/6/5に相次いで流れてきました。報道によっては断交したのは4カ国だったり、5カ国だったりして状況がよく判らないと思っていました。

 どうやらカタールと断交したと報じられているのはあいうえお順に以下の5カ国で、4カ国と報じらられている場合にはイエメンが含まれていないようです。

 

 なお、昨夜のYahoo!ニュースでは「サウジとカタール全交通断絶」というパンチラインが記載されていました。
2017/06/05 22:00頃のYahoo!ニュースのスクリーンショット
サウジとカタール 全交通断絶 | 2017/6/5(月) 17:19 - Yahoo!ニュース

 過去に「平昌オリンピック」と「平壌オリンピック」を間違えた実績*1があるYahoo! Japanなので、「交通」断絶は「国交」断絶のtypoなのかなと思ったりもしましたが、実際に交通も断絶されるようです。WSJの記事より引用すると、カタールの航空機や船舶は隣接国の領海・領空を通過できなくなるようです。

サウジ、UAE、エジプト、そしてバーレーンは、カタール籍の航空機や船舶が自国の領空や領海を通過することも禁じた。

カタールと断交、知っておきたい5つのこと - WSJ
 

日本への影響

 日本は中東から大量に原油LNGといった資源を輸入していることは周知の事実です。最新の石油統計速報(今年4月時点)によればカタールは4番目に原油輸入量が多い国となっています

  1. サウジアラビア(661万)
  2. アラブ首長国連邦(397万)
  3. クウェート(123万)
  4. カタール(118万)

※単位キロリットル
平成29年4月分|石油統計速報(速報のみ)|経済産業省
 
 地図を確認するとカタールペルシャ湾に飛び出たような位置にあります。陸続きで隣接するサウジアラビアや、ペルシャ湾を挟んで近接したUAEバーレーンの空域・水域を通過できないとなれば、日本を含めカタールからの原油輸入量がそれなりに多い国にも良からぬ影響がありそうに思えます。
 

ペルシャ湾の各国の領海

 原油LNGは航空機ではなくタンカーで海上を輸送するので、領海がどうなっているのかを調べてみました。日本語で調べても全くヒットしませんので、興味のある方は"Persian gulf territorial waters map"等のキーワードで調べてみることをお勧めします。Wikimedia Commonsより引用すると以下の通り(黒線が国境、グレー線が12海里の領海を表していると思われる)。
Iranian borders in Omans and Persian Gulf (Cro)

 上図より前述の4カ国に海路を遮断されてもペルシャ湾沖に出ることは可能で、ホルムズ海峡を通過してオマーン湾に抜けられれば海上輸送可能な事が解ります。そのホルムズ海峡は国際海峡でありつつもオマーン領のため、オマーンから領海通過禁止措置を下されない限りは重大な影響は無さそうなことが解ります。実際、ブルームバーグでもLNG供給への影響は無いと報じられています。
カタールは石油・ガスの輸出を継続可能-サウジなど中東4カ国断交で - Bloomberg

 仮にオマーンが中東5カ国の動きに同調したとしても、前述のWSJの報道によれば「カタール籍」の船舶や航空機が通過できないとのことなので、日本の輸送船には影響が無さそうです。ちなみに日本の輸送船と言っても日本船籍とは限らず、税制上の都合などでパナマなどの外国籍になっている船舶の方が実は多かったりします。国別の内訳が解る資料は見つかりませんでしたが、敢えてカタール籍にしていなければ影響はないのでしょう。
統計データ|船種別船腹量構成(2015年6月30日現在)(PDF)|JSA一般社団法人日本船主協会
 

カタールへの輸出

 中東と言えば資源輸入元としてのイメージが強いですが、輸出もしています。一般社団法人日本貿易会によれば、自動車、電気機器、機械、鉄鋼など2015年時点で1870億円の輸出総額になるそうです。
日本の主な輸出入相手国:カタール | JFTCキッズニュース

 カタールの自動車市場シェアについて調べてみると、(会員登録しないと詳細が読めないのですが)以下の記事が見当たりました。トヨタが37%でトップシェアのようです。
Focus2move| Qatari new vehicles market 2017 - Fatcs & Data

 カタール向けの自動車輸出がどのように行われているのかによっては影響が出る可能性はあるのかもしれません。例えば陸続きのサウジアラビアでまとめて陸揚げされた後にカタールまで陸送されていたのなら、その経路では輸出不能になるのでしょうけれど、通関手続きなどの面倒を考えればわざわざ隣国で陸揚げしていないと考えるのが妥当でしょう。直接カタールまで日本の(カタール船籍以外の)自動車輸送船で搬入しているのならば影響は無いのでしょう。

 なお、船便で輸送される鉄鋼や大型機械についても自動車と同様に考えることができそうですが、小型の電気機器については納期などの理由で(割高な)航空便が利用されている可能性も高いでしょう。航空機であればペルシャ湾を挟んで対岸のイラン領空を通過することができるので、船便以上に輸送ルートの確保が柔軟に行えそうです。
 

雑感

 何故このような対立が突然先鋭化したのか、各種報道を見てもあまり理解できていません。突然だと思っているのは遠く離れた国で生活しているからで、このような事態に至るまでの下地があるのだと思います。
 今年は不安定な世界情勢が多く報じられているように感じますが、大事に発展しないことを願っています。
 



以上。