水害ハザードマップと令和元年台風19号の浸水状況を比較する(長野新幹線車両センター付近)

 以下の投稿では埼玉県川越市の水害ハザードマップと、令和元年台風19号の浸水状況の比較を行いました。 
wave.hatenablog.com
 引き続き、本投稿では長野県の北陸新幹線車両基地付近の状況を比較してみます。
 

浸水推定段彩図

f:id:kachine:20191025152703j:plain
出典:国土地理院ウェブサイト 令和元年(2019年)台風19号に関する情報千曲川3(PDF:13.6MB)
 

空中写真(垂直写真(速報))

f:id:kachine:20191025153818j:plain
出典:国土地理院ウェブサイト 令和元年(2019年)台風19号に関する情報千曲川地区(長野県長野市、須坂市、中野市、千曲市、小布施町、山ノ内町)(10/16撮影)写真番号51436
 

洪水ハザードマップ

f:id:kachine:20191025153300j:plain
長野市ホームページの洪水ハザードマップ 千曲川犀川・裾花川・浅川・鳥居川・蛭川【想定し得る最大規模の降雨】(1,000年に1回程度の降雨に対応する浸水想定)神田川・聖川・保科川・赤野田川・岡田川(おおむね100年に1回程度起こる大雨)古里・柳原・浅川・朝陽・若槻・長沼・豊野地区周辺(PDFファイル/3.41MB)より引用
 

比較

 埼玉県川越市の場合と同様に、浸水推定段彩図とハザードマップでは描写されている地図領域や方角の違いや解像度が異なるため、単純に比較を行うことができません。このエリアは空中写真(垂直写真)も撮影されていますが、やはり画像の向きや写っている領域が異なるため、これらを単純に比較することができません。そこで、今回も各画像中の地域がほぼ同じ大きさになるよう画像処理を行い、新幹線車両基地付近を切り抜き重ね合わせるように加工を行うと以下のようになります。
f:id:kachine:20191025155321g:plain
 

考察・感想

 浸水の深さを浸水推定段彩図では青系の色、ハザードマップでは赤系の色(紫が最も深い)で表示されています。そして、ハザードマップで濃い色で示されているエリアが浸水推定段彩図で青く塗られたエリアと概ね一致していることが比較画像から解ります。ただし、ハザードマップでは同じ紫色でも、浸水推定段彩図では濃い青から水色までさまざまで、一様に同じ浸水深となったわけではないことも解ります。また、比較的どうでもいいことですが、浸水推定段彩図は堤防の内側(川側)の氾濫は彩色していない*1ことも空撮画像と比較すると気づきます。

新幹線車両基地について

 北陸新幹線車両基地(長野新幹線車両センター)については、10編成120両が浸水するという大きな被害を出したことが報じられています。
北陸新幹線10編成が浸水、長野 補修に長期間必要か | 共同通信
 そもそもこの車両基地ハザードマップで紫色に塗られているエリアに位置し、想定最大規模降雨で10~20m未満の浸水が発生すると予想されていたわけですから、車両水没は必ずしも予想できない事態ではなかったと考えられます。以下の朝日新聞記事では、「より高いところを走る本線上に車両を退避させるなどの措置がとれたと、防災の専門家らは指摘」とも記載されています。
(社説)新幹線の水没 避けられた失敗に学ぶ:朝日新聞デジタル

本線も一部水没

 車両基地の新幹線車両が水没している様子は多くのメディアで報じられましたが、実は新幹線本線の高架橋も一部で水没していたことが国土地理院公開の動画や画像から確認できました。以下の掲載画像は、国土地理院ウェブサイト 令和元年(2019年)台風19号に関する情報 UAVによる動画 長野県長野市大字赤沼付近の被害箇所(令和元年10月14日撮影)を加工して作成したものです。
 新幹線車両基地方面を東側(千曲川側)から撮影した場合に相当するパノラマ画像を作成すると以下のようになります(クリックで拡大)。本線を挟んだ近隣の住宅地が大規模に浸水している様子が確認できます。
f:id:kachine:20191025162253j:plain

 パノラマ画像では全体感の把握はしやすいものの、新幹線車両基地方面が分かりにくいので、新幹線車両基地方面が写った個別のフレームを切り出して、新幹線の高架と水面の間にマーカーを書き加えてみます。画像中の右側より左側の方が明らかに氾濫した水面に近くなっています。
f:id:kachine:20191025163207j:plain

 そして赤線を引いた付近では、ついに高架が水面に接触または浸水しているように見えます。ですが、この辺りだけ水深が深いのではなく、高架橋が低くなっているようです。画像左奥に見える跨線橋(新幹線車両基地と新幹線本線を跨ぐ)を設けるため、このような設計にしているのかもしれません。なお、画像中央付近に見える複数の自動車の屋根が土色に変色しているのが確認できます。軽自動車らしき小型車だけではなく、ハイエースのようなワゴン車でも同様です。そして、画像中の水位は車体下部まで下がっていることから察するに、ピーク時の浸水はこの画像よりもさらに2m程度は高かったであろうと推測されます。
f:id:kachine:20191025163226j:plain

 国土地理院ウェブサイト 令和元年(2019年)台風19号に関する情報千曲川地区(長野県長野市、須坂市、中野市、千曲市、小布施町、山ノ内町)(10/16撮影)写真番号51436を加工して、この辺りを切り出してみても、高架橋が土色に変色している(=水没中か、水は引いたものの冠水していた)のが確認できます。
f:id:kachine:20191025164657j:plain

 といったことから察するに、車両基地付近の本線に新幹線車両を退避させていたとしても、一部の車両は冠水してしまいます。本線中で標高が高く、土砂崩れなどのリスクもなく、その地点まで車両を回送してきた職員が安全に退避でき、運転再開前の回送にもなるべく支障がない場所に留置することが今後の災害時運用には求められるのかもしれません*2。仮にそれが駅でも車両基地でも何でもない場所であるならば、車両を回送してきた職員が安全に退避したり、運転再開前にその車両まで到達する手段が線路上を徒歩で移動することになるのかもしれません。それに要する時間を考えると、運休が早まったり運転再開が遅くなることも致し方ないのでしょう。

 災害全般に言えることですが、こうすれば絶対大丈夫という対策は存在しないわけですから、被害を減らすために受容可能な範囲で策を採ることになるのでしょう。そして、受容可能な範囲は各個人や組織によって違うでしょうから軋轢も生じるのでしょうけれど…。
 



以上。

*1:人命や財産の危機に直結しない領域の測定は優先度下げたか、そもそも測定対象ではないのかで塗っていない?

*2:どこだそれ?