YAMAHA YM2414 (OPZ)のWaveform

 YAMAHA DX7に代表される6オペレータFM音源のYM2128 (OPS)や、DX21系の4オペレータFM音源のYM2164 (OPP)ではオペレータの出力波形はサイン波のみでした。後の4オペレータFM音源YM2414 (OPZ)では8種類の波形を選択することができるように機能拡張されました。
 

 代表的なYM2414搭載機としてTX81Zが挙げられますが、それらの波形については以下のように説明されています。

YAMAHA FM TONE GENERATOR TX81Z 取扱説明書 P91より引用


DX7やDX21、FB-01など従来のFM音源方式では、オペレータは正弦波しか出力できませんでしたが、TX81Zのオペレータは正弦波以外に7種類の波形をもっています。これによって従来のオペレータ4つでは得ることのできなかった音色を得ることができます。

W2
単独では木管系の音色です。正弦波(W1)に比べて高域がやや強調されます。
W3
フィードバックを使わずにストリングス系の音色を得る場合にキャリアにすると有効です。
W4
ギターやハープ、クラビなど撥弦楽器系の音色を得るときモジュレータにすると有効です。
W5
W4と同じくギター系、及びハーモニカなどリード系の音色に有効です。
W6
ハーモニカやアコーディオンなどリード系の楽器の音色を得るとき有効です。
W7
W8よりさらに高域が強調された音色です。
W8
かなり高域が強調されており、リード系や撥弦系にも有効です。

 この説明とともにそれぞれの波形の絵が図示されているのですが、いまいちよく解らない絵だなと昔から思っていました。YM2414搭載のKORG Z3を入手したので、実際の波形がどんなものなのかサンプリングして調べてみたのでまとめておきます。なお、Z3*1は位相が反転してるような気がします*2。いずれも、オペレータ波形の差異以外は同一条件でEGによる加工は無し、単一オペレータ(キャリアのみ)で440Hz単音で発音させた場合の波形を正規化したものです。
 

W1(Waveform0)

 特に説明不要ですがサイン波です。聴感上もサイン波ですが、スペクトルに微妙に倍音成分が確認できるのはサイン波の分解能が高くないためかもしれません。

波形(包絡線) f:id:kachine:20210911181545p:plain
波形(1周期) f:id:kachine:20210911181033p:plain
周波数分布 f:id:kachine:20210911181638p:plain

 

W2(Waveform1)

 サイン波の面影が残る三角波といった感じの見た目で完全な三角波ではありませんが、サイン波よりは三角波に近い波形で、聴感上もそのように聞こえます。90度の位相変化を180度の位相変化として読み出したサイン波に1足すか引くかして2で割った波形っぽく見えます。三角波と同様にスペクトルにも440Hzの奇数倍成分が現れていることが確認できます。

波形(包絡線) f:id:kachine:20210911182203p:plain
波形(1周期) f:id:kachine:20210911182222p:plain
周波数分布 f:id:kachine:20210911182242p:plain

 

W3(Waveform2)

 (W1,W2で包絡線波形を載せている意味はありませんでしたが、)振幅変調をかけているわけでも、EGでDecayを設定したわけでもないのにW3は妙な動きをしています。初見では戸惑いましたが、1周期分の波形を見て察しました(掲載している1周期分の波形は包絡線の変動が落ち着いてからです)。何が起きているかお判りでしょうか?
 これ、サイン波の1/2周期だけが出力され、残りの1/2周期は0の繰り返し波形です。それがD/Aコンバータで出力された後に、カップリングコンデンサを通過することでこうなったと考えられます。つまり、正負に偏りのある波形のため、カップリングコンデンサによりDCオフセットされたことでこんな波形になってるわけです。包絡線の頭と末尾が暴れているのは、コンデンサの充・放電によるものです。*3モジュレータ波形として使用する場合は、このようなDCオフセット効果は表れないはずなので、この波形に騙されないよう注意が必要です。
 聴覚上は素朴な電子オルガンのような音に聴こえます。スペクトルとしては440Hzの偶数倍音の成分が確認できます。

波形(包絡線) f:id:kachine:20210911182358p:plain
波形(1周期) f:id:kachine:20210911182429p:plain
周波数分布 f:id:kachine:20210911182447p:plain

 

W4(Waveform3)

 W4もW3同様に包絡線が暴れていますが、同様の理由です。W3との違いはサイン波の1/2周期ではなく、W2と同様の三角波もどきの1/2周期となっている点です。スペクトルは440Hzの2倍と奇数倍成分が確認できます。

波形(包絡線) f:id:kachine:20210911185010p:plain
波形(1周期) f:id:kachine:20210911185025p:plain
周波数分布 f:id:kachine:20210911185044p:plain

 

W5(Waveform4)

 W5は周波数2倍(つまり周期は半分)のサイン波と、残り半分の周期は0の繰り返し波形です。サイン波の片側だけではないので包絡線は乱れていません。W4に似たスペクトル分布ですが、高次倍音があまり減衰していないのが特徴でしょう。

波形(包絡線) f:id:kachine:20210911185555p:plain
波形(1周期) f:id:kachine:20210911185614p:plain
周波数分布 f:id:kachine:20210911185639p:plain

 

W6(Waveform5)

 W6はW5の三角波もどき版です。

波形(包絡線) f:id:kachine:20210911190229p:plain
波形(1周期) f:id:kachine:20210911190242p:plain
周波数分布 f:id:kachine:20210911190300p:plain

 

W7(Waveform6)

 W7はW3の半サイクルのサイン波の周波数が2倍になり2回繰り返され、残りの半周期は0という繰り返し波形です。

波形(包絡線) f:id:kachine:20210911190321p:plain
波形(1周期) f:id:kachine:20210911190335p:plain
周波数分布 f:id:kachine:20210911190351p:plain

 

W8(Waveform7)

 W8はW7の三角波もどき版です。

波形(包絡線) f:id:kachine:20210911190407p:plain
波形(1周期) f:id:kachine:20210911190423p:plain
周波数分布 f:id:kachine:20210911190439p:plain

 

雑感

 いずれの波形もサイン波の読み出し方法を変えているだけっぽい雰囲気ですが、半サイクル無音にして残りの半サイクルで多少のトリックを噛ますだけでこんなにも多様な倍音が生み出せるというのは知りませんでした。自作オシレータを実装する際にこの知見を活用しようと思います。
 というか、これらの波形そのものを簡単にプログラムで生成できそうな気がしますので、別途やってみようかと思います。
 また、(FM音源とは無関係に、)サンプリングした波形の末尾にビローンと伸びる気持ち悪い超低周波の正体に気付けたのも収穫でした。この部分は切り捨ててもD/A変換を経てアナログ音声になれば、否応なく再び似たような波形が現れますので、特に保持するべき理由は無く適当な0クロスポイントでバッサリ切り捨てして問題なさそうです。特にドラムやパーカッションのようにワンショットで末尾まで鳴らすサンプルの場合、同時に再生される他の楽器音のダイナミックレンジを狭めてしまうことにもなりますから、むしろ積極的に排除すべきかもしれません。正或いは負の領域に偏ったデジタルなオシレータ波形を使用する場合は、予めDCオフセットを除去しておくとダイナミックレンジを無駄にしなくて済むことになるとも言えるでしょう。
 



以上。

*1:或いは、サンプリング時に使用したオーディオインタフェースのA/Dコンバータまでの経路で

*2:TX81Zも実家にあるのでコロナ禍が終われば比較してみたいところです。

*3:これはKORG Z3でサンプリングした波形ですが、他機種ではカップリングコンデンサの容量の差異によって包絡線が落ち着くまでの時間(時定数)が異なるかもしれません。