「国民保護に係る警報のサイレン音」を分析・再現する
↑去年上野公園で見かけた看板。本文と直接的な関係はありません。
内閣官房による国民保護ポータルサイトに拠れば、「国民保護に係る警報のサイレン音」が以下のように説明されています。
警報が市町村から住民に伝達される際には、武力攻撃が迫り、又は現に武力攻撃が発生したと認められる地域に当該市町村が含まれる場合には、原則としてサイレンを使用して注意喚起が図られることとなっています。政府は、平成17年7月、国民保護に係る警報のサイレン音を決定しました。
国民保護のための情報伝達の手段 - 内閣官房 国民保護ポータルサイト
最近、急速に北朝鮮絡みの危機感が高まった報道が増えていますが、ミサイルが発射され日本国内に着弾すると想定されるならば、該当する地域ではJアラートでこの警報が鳴ることになると思われます。緊急地震速報のように携帯電話からサイレンが鳴るのかは上記ポータルサイトからは読み取れませんが、少なくとも防災行政無線からは鳴るようです。なお、携帯電話には「緊急速報メール*1」が総務省消防庁より配信されるそうです。
国民保護に関する情報の緊急速報メール配信を開始しました
但し緊急地震速報と同様に、SIMロックフリー端末については、この緊急速報メールの対応状況が不明確なようです。主にMVNO回線でキャリア端末ではない端末を使っているユーザは注意が必要です。
ミサイル発射時にスマホへ届く「Jアラート」、大手キャリアとMVNOの違いは? - ケータイ Watch
前述の国民保護ポータルサイトには「国民保護に係る警報のサイレン音」が掲載されていますので、昨今の情勢を鑑み事前に確認しておいた方が良いでしょう。
で、私も確認したのですが、簡単に作れそうな音です。ので、作ってみました。ただし、警報音の性質からして、国民保護ポータルサイトには以下の注意書きがあります。
※このサイレン音を複製し、又は録音するなどして、みだりに吹鳴することを禁じます。
故に、同様の試みを行う際はイヤホンをするなどして、周囲に誤認されるなど迷惑をかけないよう十分に注意して行う必要があります。
分析
国民保護ポータルサイトに掲載されている原音源を聞いた感じ、明らかに矩形波です。シンセサイザー好きならすぐわかると思いますが、Square Waveのピッチがゆっくり上昇した後、ゆっくり下降しているだけの音に聞こえます。で、単音ではなく2音同時に鳴っているようです。後は、具体的な周波数さえ特定すれば再現できそうです。
周波数分析
SoXでスペクトログラムを作成してみます。ポータルサイトで公開されている音源はサンプリング周波数44.1kHzなので、まずはナイキスト周波数は20kHzとして画像化してみます。
一番下の黄色っぽいラインでプロットされているのが基音で、周波数が高い倍音ほど信号強度が弱まっていますので、耳で聞こえた通り矩形波らしい特徴をしています。基音の周波数を特定したいので、ナイキスト周波数をとりあえず4kHzまで落としてみます。
2本の対になっているラインの上のラインの周波数を下から順にみると、ざっくりと0.3, 0.9, 1.5kHzとなっています。基音0.3Hzの奇数倍倍音で構成されていますので、やはり矩形波であることは間違いありません。
細かい周波数がまだ判らないのでナイキスト周波数を1kHzまで落としてみます。
数十とか数百のようなキリのいい周波数では無さそうですが概ね下の音が260⇒370⇒260Hz辺りで変化し、上の音が300⇒420⇒300Hz辺りで変化しているように見えます。また、各々約7秒で周波数の上昇・下降をするようです。
で、260Hz, 370Hz, 300Hz, 420Hz付近の音で、A4(ラ)=440Hzとして平均律の音を探すと以下の音が近そうです。
- 260Hz付近
- 261.6256Hz C4(ド)
- 370Hz付近
- 369.9944Hz F#4(ファ#)
- 300Hz付近
- 293.6648Hz D4(レ)
- 420Hz付近
- 415.3047Hz G#4(ソ#)
C4⇒F#4もD4⇒G#4も半音6個分のピッチ変化に該当します。なお、同時に鳴っているのはサイレン音の頭ではC4とD4、約7秒後にはF#4とG#4で、約14秒後にはC4とD4に戻ります。
常に半音2個分の不協和音で不快な音のため、嫌でも耳障りな音として聞こえるため警報音として適しているのでしょう。また、人間の聴覚は小さな音量変化は知覚しにくいですが、周波数の変化には敏感な性質がありますから、ピッチを変化させているのも警報音として適しているのでしょう(緊急地震速報の音が高速にピッチ変化しているのも同様の理由でしょう)。
なお、ピッチ変化は直線的(リニア)ではなく、カーブしていることが判ります。定番のカーブの形は三角関数的であったり指数関数的だったりしますが、これはで表される平方根のカーブを反転した形に似ていそうです。
再現
前述の通り、警報音の性質からして「みだりに吹鳴」することは認められていませんので、試行する際はイヤホン等を着用してからお試しください。
PCならSoXを使って以下のコマンドで再現したWAVファイルを製造できます。
REM ピッチ上昇部分(前半7秒)を合成 sox -n -r 44.1k -b 16 --comment "" Sim_Jalart1.wav --norm synth 7 squ 415.3047+293.6648 synth 7 squ mix 369.9944+261.6256 reverse REM ピッチ下降部分(前半7秒)を合成 sox -n -r 44.1k -b 16 --comment "" Sim_Jalart2.wav --norm synth 7 squ 293.6648+415.3047 synth 7 squ mix 261.6256+369.9944 reverse REM 前半後半を結合 sox --combine sequence Sim_Jalart1.wav Sim_Jalart2.wav Sim_Jalart.wav
上記のコマンドで生成した警報音の再現音(にテスト音声を合成)した音声は以下の通り。
再生する際はイヤホン等を着用の上、他者に警報と誤認させないよう十分に注意してください。
デューティー比50%のピュアな矩形波を生成できるシンセサイザーでも、C4とD4を同時にNOTE ONした後、約7秒かけてピッチベンドを駆使することで同様に再現できます。
比較
前述の通りSoXで製造したWAVファイルを周波数分析してみます。
元音源に良く似たスペクトログラムが得られました。また、実際に聞いてみても絶対音感の無い私の聴覚では差異は確認できませんでした。
より精緻に比較するため、(元音源は先頭末尾の無音部分などを含め14秒以上ありますので、)14秒にカットして横軸のスケールを合わせた上で重ね合わせてみます。
やはり、ほとんど同じです。微妙に差異が見受けられますが、ピッチ変化のカーブが微妙に異なるかもしれないこと、元音源は非可逆圧縮のMP3ファイルであること、アナログ録音されたと思しきノイズが混入していること、などに起因するものと考えられます。
以上。
*1:緊急速報メール: NTT ドコモ提供の緊急速報「エリアメール」、 KDDI/沖縄セルラー電話(au)、ソフトバンクモバイル、ワイモバイルが提供する緊急速報メールのこと。指定された地域内の対応携帯電話に、回線混雑の影響をほとんど受けることなく一斉送信できる。