KORG Gadget Collectionの楽器一覧
年末年始にかけてのKORGのソフトウェア製品のセール時にARP Odysseiを購入しました。それにとどまらず、なんやかんやでiWAVESTATIONとiM1に加えてGadget Collectionも気付いたら買ってました。
で、本投稿ではKORG Gadget Collectionに搭載された楽器について紹介します。
始めに
KORG Gadget Coollection(以下KGCと表記)は、iOS用のシーケンサとソフトウェアシンセサイザーの集合みたいなソフトウェアです。オーディオトラックは無いのでDAWとまではいきませんが、打ち込み主体で音楽制作するには必要十分な機能が揃っています。
KGCのソフトウェアシンセサイザーは一般的なDAWで使われるVSTプラグインのようなもの(もちろんiOSなのでVSTプラグインそのものではない)で、使いたい楽器を任意に選択して必要に応じて音色エディットし演奏させることができます。KGCではこの楽器(ソフトウェアシンセサイザー)のことを「ガジェット」と呼んでるようです。ガジェットがたくさん使えるのでガジェットコレクションという名称なのでしょうね。
Gadget
KGCは有償のアプリですが、購入時には14種類のガジェットが利用可能です*1。
以下に、KGCを購入するだけで追加課金不要で利用可能な14種類のガジェットを紹介します。
Chicago - Tube Bass Machine
パラメータを見れば察しが付くように、Roland TB-303を強く意識したと思われるベースシンセ。オリジナルのTB-303はトランジスタで真空管は使用されていないため、KORGのVALVE FORCE搭載製品群の知見と併せてソフトウェア化されたのではないでしょうか(iELECTRIBEでVALVE FORCEのソフトウェア化も既にやり遂げているわけですし)。
TB-303の終焉を考えるとシカゴ(アメリカ・イリノイ州)というより、夢の島(東京都江東区)の方がフィットしている気もしますが、ハウスミュージックでTB-303がフィーチャーされたことに由来してシカゴなのでしょう。
London - Hypersonic PCM Drum Module
Hypersonicこと極超音速と言われても何のことやら。極普通のPCMリズムマシンというか、音階無しのプレイバックサンプラーです。
何故ロンドン(イギリス)なのかは不明。
Marseille - Polyphonic PCM Synthesizer
Akai S5000みたいなデザインですが、録音機能は無く所謂サンプルプレイバックシンセ。パラメータも見ての通りの最低限。スクリーンショットだけを見るとGM配列の音色にも見えそうですが、そんなことはなく独自配列。見ての通りM1ピアノを模した音色もあるので、ピアノ目当てだけならiM1を買う必要は無いかもしれません。
何故マルセイユ(フランス)なのかは不明。
Berlin - Monophonic Synchronized Synthesizer
上記スクリーンショットでは1VCOにEGとLFOという構成に見えますが、もちろんVCF(LPF)とVCAも別ページにあります。ビルトインエフェクトとしてDELAYも付いてます。なお、スクリーンショット中では"ENVELOPE GENERATOR 1"と見えますが、EG2やEG3があるわけではありません。但しVCAには独立したADSR設定スライダがあります。
モノフォニック(単音)なので、シンセリードやベースなんかに適していそうです。
ベルリン(ドイツ)の由来はジャーマンテクノでしょうかね?
Phoenix - Polyphonic Analogue Synthesizer
これも1ページに収まらないUIで、別ページにLFOとビルトインエフェクトのDELAY設定があります。昔ながらのポリシンセと言った感じで、ブラス系やパッド系なんかに適していそうな感じです。
フェニックスという名の都市があることを知りませんでしたが、アメリカのアリゾナ州にあるようです。Prophetを意識したシンセっぽくも感じられたのですが、Sequential Circuitsはカリフォルニア州の会社なので違いそうです。ちなみに、Moog, Incという会社がアリゾナ州フェニックスにあるようですが、軍用機や民間機や人工衛星などの精密機器部品メーカーで、minimoog等で有名なムーグ博士のMoog Music Inc(ノースカロライナ州の会社)ではありません。ということで、由来は不明です。
Miami - Monophonic Wobble Synthesizer
Woobleシンセサイザーということで、古典的なシンセサイザーとはちょっと違いそうな感じです。というかWoobleシンセなんて始めて見ました。
Woobleとはグラグラすることだそうですが、音を聞いてみるとそんな感じのプリセットが多いです。フィルターのカットオフ周波数が動的にLFOでリズミカルに動いてるだけのような気もします。なおこのフィルター部にはレゾナンスではなくクラッシュというパラメータがありますが、デシメータのような効果に感じられます。
フィルタに入力される前に、オシレータ部の2つの波形をクロスモジュレーションさせているような構造のようですので、普通の音を作るよりはノイジーな金属質の音を創り出すときに有効に使えるかもしれません。個人的にはあまり使う機会無さそうですけど。
何故マイアミ(アメリカ・フロリダ州)なのかは不明。
Wolfsburg - Hybrid Polyphonic Synthesizer
ハイブリッドの意味するところは「アナログシンセの特徴的な波形をデジタル技術でリサンプリング」ということのようです。とはいえ、一般的なPCMシンセのように任意の波形を選択するパラメータは無いため、オシレータ部で選択可能な三角波、鋸波、矩形波、2種類のパルス幅の異なる矩形波の合計5つがサンプリングされた波形という意味なのだと思われます。
パラメータが割と多くスクリーンショット内に収まっていませんが、2OSC、FILTER(LPF24/12,BPF,HPF)、ADSR付きAMP、2LFO、1EG、2EFXといった構成となっています。シンセサイザーらしい出音を得るのに適していて使いやすそうです。
ヴォルフスブルク(ドイツ・ニーダーザクセン州)ということで、自動車メーカーフォルクスワーゲンの本社所在地だそうです。敢えてデトロイトテクノのデトロイトではなく、自動車繋がりでヴォルフスブルクを引っ張り出してきたのでしょうかね?
Brussels - Monophonic Anthem Synthesizer
Anthemシンセサイザーというシンセも始めて見ました。が、古典的な賛美歌や宗教音楽的な類の出音ではなく、トランス系のありがちなシンセサウンドです。テンポに同期したリズミカルなゲートを通したシンセ音とでも表現すればいいのでしょうか。この類の機能はreFXのVANGUARDやNovationのXioSynthなどのX-Gator機能で経験したことがありますが、それらと同様な効果をPUMP/REPEATパラメータを調整することで手軽に得ることができます。
ブリュッセル(ベルギー)という名称は以下と関係がありそうですし、Anthemシンセと言っているのも叙情的という意味なのかもしれませんね。
ドイツのフランクフルトで誕生したトランスは隣国ベルギーのニュービートなどから強く影響を受け、リズミカルなドラムパターンや叙情的なメロディを持っており、現在のトランスミュージックの基礎を作った。
Tokyo - Analog Percussion Synthesizer
東京の名を冠するパーカッションシンセ。京王技研工業株式会社こと現KORGのドンカマチックやKR55といった名称のプリセットもあります。TO-NineやTO-Eightといったプリセットもあり、Roland TR-909やTR-808も意識しているのでしょう。GUIデザインは全くオリジナルの面影はありませんけど。
キック、スネア、タムとパーカッション用に同時発音可能な4つの音源と1系統のエフェクトが用意されています。この構成は出音の好み以前の問題としてハイハットが鳴らせないため、他のパーカッション音源も併用することになります。
浜松ではなく東京なのはKORGだからでしょうね。
Dublin - Monophonic Semi-Modular Synthesizer
2VCOのモノシンセ。KORGロゴ右のボタンを押すとパッチベイ画面に切り替わります。2系統のモジュレーション(LFO)と1系統のEGをソースとして、10個のパラメータに対してパッチングが可能です。故にセミモジュラーを名乗っているのでしょう。出音は別として外観はminimoog風デザインのようでもあり、KORG MS-20の機能を削ったようなデザインのようでもあり。
何故ダブリン(アイルランド)なのかは不明。
Amsterdam - PCM SFX Boombox
Londonと同様にPCMリズムマシンというか音階無しのプレイバックサンプラーで、スクリーンショットのように同時に扱えるのは4サンプルまで。逆再生可能な点がLondonには無い特徴と言えるでしょうか。弄れるパラメータは見ての通り少なく、TIMEはDecay Timeを調整します。SFXという名称がついている割には飛び道具感は控えめです。
何故アムステルダム(オランダ・北ホラント州)なのかは不明。
Kiev - Advanced Spatial Digital Synthesizer
「ベクターシンセシスをフィーチャー」と記載されている通り、中央部にXYパッドが配置されています。スクリーンショットのように4つの波形(選択可能な波形にはLOREやUNIVERSEなどKORG M1由来と思われるものも見受けられる)を選択し、その混合比をXYパッドで決定できるが故にベクターシンセシスを名乗っているのであって、KORG WAVESTATIONのようにWAVE SEQUENCE機能は無いですし、YAMAHA TG-33のようにジョイスティック(XYパッド)で4つの波形の混合比だけではなくチューニングをずらすようなこともできません。故に極めて限定的なベクトルシンセと言えるでしょう。一方、各波形の混合比を周期的に変更可能だったりする点は往年のハードウェア版ベクトルシンセには無かったような気がします。
4つの波形が混合されたものに対して、ADSR付きのフィルター(LPF/HPF/BPF)とADSR付きのアンプを経由し、ビルトインエフェクトを通って出音が得られる構成となっています。パッド系の持続音で変化を聴かせるのに適したガジェットと言えるでしょう。
キエフ(ウクライナ)にはキエフというカメラブランドがあったものの、多くは西側諸国のコピー製品。ということで、ベクターシンセの限定的なコピー故にキエフと命名したのでしょうか?
Chiangmai - Variable Phase Modulation Synthesizer
VPM*2と言えばKORGのProphecyに始まりZ1へと発展した物理モデル音源MOSS*3で使えた音源方式の一つです。DSPの塊でクソ重たかったZ1とは違い、小さくて軽いiOS端末で動くようになるとは。と、捉えるのは大げさです。VPM単体ではMOSSが扱えた音源方式の一つでしかなく、FM音源に近いものなのでプロセッサに対する負荷はそれほど大きなものではありません。
という特性から察せられる通り、ベル系やエレビなどが得意なシンセです。
チェンマイ(タイ)なのは金色の寺院が多い印象から、転じて金属系の音を印象づけるネーミングなのでしょうか?
Helsinki - Polyphonic Ambient Synthesizer
「パッドサウンドが得意」とありますが、メロディラインの方が使いやすそうです。スクリーンショットのGENERATOR部を見ると普通のシンセとは違うことが一見して判りますが、基本波形を選択した後、LOW/HIGH/HIGHERの各スライダーでNオクターブ上下の音(と、NOISEスライダーでホワイトノイズ)を重ねるようなオシレータ部の構成になっています。結果、ユニゾンされたような厚みを得ることができるため、存在感のある音を作ることができます。一方、経時的変化を与えるモジュレータには乏しいため、パッド系音色として積極的に使う理由は無さそうです。
何故ヘルシンキ(フィンランド)なのかは不明。
Kingston - Polyphonic Chip Synthesizer
これ、シンセか?というルックスですが、所謂チップチューンに適したシンセです。三角波、パルス幅の違う3種類の矩形波、S/Hの5種類から波形を選択し、ENVELOPEがVCAのEGに相当しています。TRANSPOSEは単なる音の高さ(オクターブ)指定です。ここまでは察しがつきますが、RUN!とJUMP!というパラメータは謎すぎます。実際に触ってみた感じでは、左側のRUN部はピッチモジュレーションを制御するLFOのパラメータ(TYPEが波形、SPEEDが周波数、Run!がON/Off)で、右側のJunp部はキーOn時のピッチ変化を制御するパラメータ(HEIGHTが変化量、Jump!がOn/Off)のようです。
何故キングストン(ジャマイカ)なのかは不明。
まとめ
KGCは通常価格4800円とiOSアプリにしては高額です(音楽制作ソフトウェアとして考えれば特別高いものではありませんが)。それでも上記14種類のガジェットが含まれることを考えれば、単純計算で1ガジェット辺り350円もしないわけで、iOSアプリとしても特別高いわけではありません(セール時に半額で購入すれば、全く高くないです)。正確には音源に相当する各ガジェットだけではなくシーケンサ機能も付いているわけですから、音楽制作を行う人にとっては破格のソリューションなのではないでしょうか。
かくいう私も、高いと思ってリリース後しばらく購入していなかったわけですが、実際に購入してみて全く後悔していません。iOS端末を既に持っていて、シンセサイザーの音が好きで、打ち込みで曲を作るような人にとってはかなり使えるツールとなるでしょう。なお、iOS端末のDock/Lightning端子をUSBに変換するApple純正のカメラコネクションキットを経由してUSB-MIDIキーボードを繋げば、各ガジェットを鍵盤で演奏することも可能です*4。
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一方、人工的なシンセサイザーの音は嫌いで、アコースティックな楽器音で曲を作りたいという人にはKGC単独での導入はあまり薦められません。生音に関してはパーカッションや小数のピアノ音などごく一部を除き、殆ど有りません。KORG Moduleを併せて購入することでリアルなPCM音が拡充されますが、その内容でも不満があればKORG Moduleのアプリ内課金で追加音色を購入するという沼に嵌る可能性が有ります。あるいはKORG iM1を併せて購入することで、幅広いPCM音を手に入れるという手段もありますが、M1は1980年代のPCMなのでリアルさを要求される向きには適さないかもしれません。
以上。