ここ数日に渡りFacebook上でBehringerの怒涛の新製品発表ラッシュでしたが、これが最後のようです。
KORG MS20開発者のHiroaki Nishijima氏の設計によるHirotribeが発表されました。その名からElectribeやMonotribe的な機材と察せられますが、Monotribeを進化させたアナロググルーブマシンでドラムマシンとシーケンサを備えた2DCOシンセのようです。
Behringer公式Facebookだけではなく、Hiroaki Nishijima氏のTwitterでも紹介されています。
ベリンガーのFacebookhttps://t.co/5u0b9DOoEv
— Hiroaki Nishijima (@nishijima_hiro) March 4, 2022
に私のベリンガー作品第一弾が公開されました。
私が考案したmonotribeの進化型です。
同時開発中のモンスター・アナログ・ポリフォニック・シンセサイザーは未だ先になりますが、こちらを先に製品化します。 pic.twitter.com/Mtxo8EtnRM
Hirotribe
BehringerのFacebookの投稿によれば、Hiroaki Nishijima氏は2019年からBehringerに在籍(joined us)しているようです。BehringerによるHiroaki氏のコメントを意訳してみると以下の通り(Behringer投稿の英文から日本語へ意訳していますので、ご本人オリジナルの日本語コメントとは微妙に異なるかもしれません。)。
Hirotribeは私が常々作りたかったアナログシンセの一つです。"Hiro"は私の名前"Hiroaki"から採りました。
私はKORG Monotribeを設計・開発しましたが、より進化したバージョンを作りたかったのです。幸運にもユーリ・ベリンガー氏が私の提案を受け入れてくれました。
パネルデザインと仕様詳細と初期の回路図を考案しました。開発メンバーが困難に直面する都度、様々な仕様変更がありました。しかし、このようにして完成したHirotribeを見ると困難も懐かしい思い出です。開発メンバーに感謝するとともにいい仕事をしてくれてとても嬉しいです。
製品は完成しました。私の心のこもったHirotribeを楽しんでいただければ光栄です。
なお、Hiroaki Nishijima氏のリーダーシップによるシンセサイザーは他にも計画中とされています。
一連の新製品同様にHirotribeも設計完了しており、半導体が入荷次第出荷されるようです。推奨価格はProVS、Saturn、UB-1と同じく99USDとのことです。既に製造終了しているオリジナルのKORG Monotribeは約18000円前後でしたがそれより安価、かつ標準でMIDI端子付いてますのでより実用的な機材になることが期待できそうです。
より詳細な情報も掲載されていますので、適当に意訳して記載します。
シーケンサとドラムマシンを備えた2DCOポータブルアナロググルーブシンセサイザー
- ドラムマシンとシーケンサを内蔵したアナロググルーブシンセサイザー
- 本物のDCO、VCF、VCAに基づく完全にアナログの信号経路
- Saw/Triangle/Square波形を備えた2機の独立したオシレータ
- ノイズジェネレータにより波形生成を劇的に拡張可能
- 3つの波形を備えたLFOで音程とフィルターカットオフの両方を変調可能
- 1つのツマミでアタック・ディケイ・サスティンの3つの連続したパラメータを調整できるエンベロープジェネレータ*1
- Bass drum, Snare, Closed and open Hi-hatを備えたアナログドラムマシン
- メモリスロットを備えた16ステップモーションシーケンサ
- 演奏性に優れた27タッチ鍵盤(non-scale notes 機能付き)*2
- 他のシンセサイザーやドラムマシンと同期するためのSync入出力端子
- スマートフォンやモバイルバッテリやPCから給電可能なマイクロUSB端子
- 包括的なMIDI実装(全パラメータのNRPN/CC制御とバルクロード/セーブを含む)
オリジナルのKORG Monotribeは比較的早く生産終了になってしまい、個人的にはそのうち買おうかなと思っているうちに店頭から姿を消してしまいました。今でもかつての新品価格と大差ない値段で中古流通しているのを見かけますので、事実上の後継製品が発売されるのは大歓迎です(しかし、なぜKORGが出さなかったのだろう?)。しかもお安い。
一連の同じフォームファクタの新製品JP-4000、ProVS、Saturn、UB-1そしてHirotribeの物理的なサイズ感が良く判りませんが、KORG VOLCAシリーズとそう変わらないのであれば似たような操作性になるのでしょうか?個人的にはVOLCAは少し小さい(ツマミ間隔が狭い)と感じる一方、本体はコンパクトにしてほしいという矛盾する要求があるのですが、恐らくKORGはその矛盾する要求を良く解っていて、ノブキャップを付けない細軸のツマミをVOLCAに採用しているのだと思います。一方、Behringerの一連の新製品では細軸のツマミとノブキャップ付きのツマミが混在してます。Behringerがドイツ企業であることを踏まえると欧米人の体格を標準としてVOLCAよりフットプリントが大きくなっていたりするのでしょうかね?
西島裕昭氏のインタビュー(2022/3/16追記)
開発者の西島氏へのインタビュー動画が公開されています。動画でありながら出音が全く公開されていないのが残念ですが、とても楽しそうに語られているため、シンセファンには視聴をお勧めします。
www.youtube.com
上記インタビュー動画で明かされた情報のうち、個人的に注目した点を箇条書きにしておくと以下の通り(私の聞き間違いや解釈違いが含まれるかもしれませんので、元動画の視聴をお勧めします)。
- "hirotribe"ではなく"hiro tribe"で間にスペースが入るのが正確で、読みは「ヒロトライブ」
- 筐体はKORG Monotribeより小さく、KORG VOLCAシリーズに近いフットプリント
- 筐体背面/側面には何も無くI/O端子は全てパネル面
- 消費電流250mA程度(他のSoul/Spiritより多い?)
- 32bit MCUを搭載*3
- USBが付いてるので様々なバージョンアップを考案中
- 本体鍵盤はベロシティもアフタータッチも無くNote On/Offのみ
- 鍵盤部のタッチセンサーのリニアスライダー機能でKORG Monotribeのリボンと同様に無段階に切り替えることも可能
- DIN5Pin MIDI端子はINのみだが、USB-MIDIはIN/OUT両方に対応
- 外部SYNC端子は1つだがIN/OUT切り替え可能
- OUTPUT端子はヘッドフォン兼用ミニジャック
- 端子を付けるスペースが無いのでこうなった
- 改造は(空きスペース的な意味で)難しい
- 基板上に何らかのメッセージを残していたりはしない(最終製品の基板設計者は西島氏ではない)
- KORG VOLCAシリーズのためにMonotribeは生産中止になり、西島氏はMonotribe2をやりたいと主張したがMS-20 miniの開発にアサインされて出来なかった
- Behringer K2は西島氏の参画前の開発で氏は関与していない
- そもそも西島氏はBehringer社員ではない
- コラボレーションとして参加
- 西島氏はクローンには興味ない
- やりたくない案件は拒否できる
- そもそも西島氏はBehringer社員ではない
- KORG Monotribeから進化した点
- シンセのチップにはOberheim Matrix1000で採用されていた3397をCoolAudioが再生産中のV3397を採用*4
- KORG POLY61やPOLY800のDCOとは違う実装で、V3397に与える外部クロックでDCO周波数を制御する方式
- DCO1/2で個別に波形を選択可能でSquare以外でSyncさせることも可能(KORG MS-20mのSyncと同様)
- SyncONにするとDCO2が自動で2Octave上がる
- SyncONでOSCにLFOを適用するとDCO2のみに作用する
- DCO2のPitch knobは+/- 2Octaveの範囲で可変(KORG MS20は+/- 1Octave)
- 可変範囲が広いがDetuneのスイートスポットを探しやすいように中央付近の分解能が細かくなっている
- Noise波形はデジタル生成(KORG Monotribeもデジタル)
- Duophonicを選択した場合、内蔵鍵盤 or MIDI経由で演奏できる(内蔵SequencerはMono)
- MIDI CH#10はリズム固定、シンセパートのMIDI CHは設定可能
- シンセのパラメータはメモリ(文脈的にはモーションシーケンス?)出来ず、MIDI経由でも弄れない*5
以上。
wave.hatenablog.com
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*1:意訳に自信がありません。原文:Single knob envelope generator with 3 continuous parameters Attack, Decay and Sustain
*2:同じフォームファクタのJP-4000、ProVS、Saturn、UB-1にはnon-scale notes functionの事は書かれていませんので、Hirotribe固有機能のようです。恐らくMonotribeやMonotronシリーズのリボン鍵盤で無段階のピッチ指定ができるのと同等の機能を指している。
*3:語られた情報から察するにCypressのPSoC4シリーズのどれかを採用しているのでしょうかね?
*4:つまり同時発表のBehringer UB-1と同じチップと思われる
*5:注:実現にはAD/DAが必要になるが、MIDI CC#で弄れるようにすると7bit分解能しかないので荒く、西島氏の意図する音色変化にならないので敢えて対応させていないという趣旨だと私は解釈しました。BehringerのFacebookの投稿には全パラメータのNRPN/CC制御ができるように書いてありますが、他のSoul/Spiritシリーズだけなんでしょうかね…?