Novation A-Station to V-Station PROGRAM converterを作った

 2022年7月初頭にNovationのソフトウェアシンセサイザー版BassStation (B-Station)とV-Stationが無償化されたという情報を目にしました。
 国内外の複数のブログ等で同じ内容が紹介されているのですが、いずれもソースが貼られておらずNovationの公式発表らしきものが見当たらないのが不思議です。
 

ダウンロード&インストール

 実際に試してみると、公式サイトからインストーラのダウンロードが可能で、インストール後初回起動時にアクティベーションを試みるとアンロックキーがダウンロードされる状態になっています。
Novation Software | Novation Downloads
 アカウント作成や名前やメールアドレスの入力など一切不要で使用可能な状態となっていますので、事実上無償化されたとみてよさそうです。
 開発(サポート)終了のため無償化というようなニュアンスで紹介されている記事もありましたが、手元の64bit版Windows10ではFL Studioで特に問題無く動作しています。なお、(Mac版は知りませんが)インストーラには32bit版だけではなく64bit版のVST plug-inも含まれています。BassStationはVSTV-StationはVST3もあり、特に作りの古さや安定性の問題は今のところ無さそうです*1

Novation BassStation(VST)
Novation V-Station(VST3)

 

個人的なNovation機との付き合い

 私は初代BassStation (Keyboard)とDrumstation V2とXioSynthユーザーです。手の届きやすい価格帯の海外シンセメーカーは現在ならBehringerを筆頭に何社かありますが、数十年前はNovationだけだった感があります*2
 特に初代BassStationはRoland TB-303を意識してリバイバルされた各社のアナログシンセの中でも先陣を切って登場したこともあり、個人的にはとても印象深い機材です*3。ところで、今回無償化されたソフトウェア版BassStationの出音は初代とは結構印象が違うように感じます。良く言えば綺麗すぎる、悪く言えば平凡なバーチャルアナログシンセの音といった感じがします*4
 Drumstationは大量のツマミを1Uラックに詰め込んだ808/909クローン音源で、後のKORG Electribe Rのような機材が出現するまではリアルタイムにドラム音色を可変させたり作り込める唯一無二の機材でした。
 そしてXioSynthは安物MIDIコントローラのような見た目をしていますが、実はシンセサイザーそのものです。というか、USB対応MIDIコントローラ、オーディオI/F、MIDI I/F、Virtual analog synthesizerを一つの機材にまとめた当時としてはこちらも唯一無二の製品でした*5。しかもXioSynthのシンセエンジンはおまけ程度のものではなく、KS4/5/RやX-Stationと同等のスゴイシンセなのです。

 といった感じで、私はそれなりに長年のNovationファンですが、これら以外のNovationシンセは店頭で触ったことが有ったり情報として知っているだけで所有して使い込んでいたことはありませんので、認識違いもあるかもしれませんので悪しからず。
 

V-Stationとは

 今回無償化されたV-Stationは概ねK-Stationのソフトウェア版です(外部音声入力が無くVocoderが使用できないことを除く)。そして、K-Stationは概ねA-Stationに鍵盤を付けたものです。
 K-StationとV-StationにはPROGRAM(いわゆるパッチ)の互換性があります。そして、K-StationはA-StationのPROGRAMを読めます。にもかかわらず、V-StationはA-StationのPROGRAMを読めません。は?
 公式には以下のページで説明されていますが、それぞれのPROGRAMの互換性は以下のようになっています。
A-Station, K-Station, V-Station, X-Station, Xio and KS Series patch compatibility – Novation

Model Readable other model's PROGRAM
V-Station K-Station
K-Station V-station, A-Station
A-Station V-Station, K-Station
KS4/5/R V-station, A-Station, X-Station, K-Station, XioSynth
X-Station V-Station, A-Station, KS4/5/R, K-Station, XioSynth
XioSynth V-Station, A-Station, X-Station, KS4/5/R, K-Station

 つまり、XioSynth, X-Station, KS4/5/Rはこれらのモデル全てのPROGRAMをロード可能で、シンセエンジンとしてはV/K/A-Stationの上位互換モデルということができます。
 閑話休題。V/K/A-Stationは同じシンセエンジンとしか思えないのに、何故かV-StationだけA-StationのPROGRAMを読めないのです。逆はできるのに、意味不明です。

 データフォーマットを調べてみたところ、簡単にA-StationのPROGRAMをV-Stationで読ませることが出来そうなので、コンバータを作りました。A-Stationを使っている人はそれほど多くないと思いますが、Novation公式が配布しているPROGRAMにA-Station由来のものがありますので、コンバータを使えばV-Stationで利用できます。
 

K-Station用PROGRAM(Patch)

 Novation公式からK-Station Factory Patch以外に、Sounds By Dan McGuire、Sounds By Cyberwormの二つが公開されています。
K-Station | Novation Downloads

  • 厳密に調べた訳ではありませんが、V-StationのPRESET PROGARMはA-Stationと同じもののようです(Vocoderや外部入力を使用するPROGRAMを除く)。K-StationのFactory PatchもA-Stationと同じであれば、V-Stationに読ませる意味はありません。
  • Sounds By Dan McGuire、Sounds By CyberwormはK-Station用として公開されているにも関わらず、何故かA-Station用のSystem Exclusive Messageで出来ています。
    • 前述の通りV-StationはA-StationのPROGRAMを読めませんのでエラーになり読み込めません。

 

Novation A-Station to V-Station PROGRAM converter

github.com
 既存自作ツールを流用してやっつけで作ったのであまりお行儀の良いコードではありません。また、正常系以外はほぼテストしてません。一切無保証ですので、利用は自己責任にてお使いください。

使い方

 以下のように使用します。変換後ファイルが既に存在する場合、強制的に上書きしますのでご注意ください。

A2Vstation [変換元ファイル.syx] [変換後ファイル.syx]

 変換後の*.syxファイルをV-Stationにimportすることで、そのファイル中に含まれるPROGRAMが利用可能になります。なお、importはV-Stationの[Global]セクションの[import]ボタンから行えますが、何故かこのファイルオープンダイアログは*.midしか表示されないようにフィルタされています。ファイル名に*.syxと入力すれば*.syxファイルが表示され、読み込むことができます*6

 前述のSounds By Dan McGuireの方はEdit bufferからdumpされた1音色(PROGRAM)ごとのsyxファイルとして提供されており、Sounds By Cyberwormの方はBank 3を丸ごとdumpした100音色まとめて1つのsyxファイルとして提供されていますが、いずれのフォーマットにも対応しています。
 前者はV-Stationでimportする際に選択中のPROGRAMにimportされます。V-Stationで編集中の未保存のPROGRAMデータは破棄されますのでご注意ください。
 後者はV-StationのBank3(300~399)にimportされます(V-Stationの初期状態ではこの領域は未使用です)。なお、DumpBank#3 Program#57(357)以降は音色が作られていないようです。
 

その他

  • A-Station, K-StationはPROGRAM(Patch)の名前の概念が無く(データとして存在しません)、鳴らしてみるまでどんな音なのか全く解りません。
    • V-StationではPROGRAMに名前を設定することが可能ですが、V-Stationでexportしたデータには名前情報は含まれません。
    • 故にV-Station以外でのPROGRAMの流用を行う場合は、どんな音なのかを示す情報はSounds By Dan McGuireのようにファイル名で表現するのがデータ管理上良さそうです。
  • UIや日本語マニュアルのせいで解りにくいですがA/K/V-StationのEFFECTはマルチエフェクトで、全部同時使用が可能です。
    • GUIのON/OFFボタンは全てのEFFECTを一括してON/OFFするもので、個別に無効化したければLEVELを0にするのが正解です(日本語マニュアルは間違っています)。
  • A-Stationに対してK/V-Stationで拡張されたPROGRAM DATAはパネルで現在選択中のEFFECTを指す情報とキーボードのオクターブ位置を指す情報です。
    • V-Stationはソフトウェアなのでキーボードのオクターブ位置を指す情報は不要ですし、パネルで現在選択中のEFFECTはマウスでクリックするだけなのでどうでもいい情報です。
    • A-StationのPROGRAMをこのツールで変換するとDELAYが選択中のEFFECTになります(DELAYを有効化するという意味ではなく、GUI上のパネルで選択中のEFFECTがDELAYになるだけで、出音には何ら影響しません)。

 



以上。

*1:V-StationはPROGRAM(いわゆるパッチ)を一覧形式で表示する機能が無いようで、PROGRAM選択がやや面倒ではあります。

*2:そうは言っても、今のBehringerよりはかなり高いですが、国産機に無い特徴を備え、使ってみたいと思わせる機材をリリースしていた印象です。

*3:手元の個体は経年変化により、出音にノイズが激しく載る酷い状態になってしまっていますので近年は使用していません。

*4:主観ではノートPCの貧弱な内蔵スピーカーで聞いていると、本当につまらない音しかしないのですが、オーディオI/F経由でスピーカーに繋いで鳴らしてみたところ悪くないなと思い直しましたが、初代BassStationの実機とは良くも悪くも違う印象。

*5:当時はRoland PCR-A1がUSB対応MIDIコントローラ+オーディオI/F、KORG microXがUSB対応MIDIコントローラ+PCMシンセといった感じで、オーディオ+MIDIシンセサイザーを一体にした機器は(恐らく)無かったのです。

*6:これはWindows版の挙動であり、Mac版は知りません。