MC-505派生モデルの違いを整理する

 Roland Groovebox MC-505には派生モデル*1が複数存在します。Groovebox D2, Groovesynth JX-305, Groovebox MC-307がそれに該当します。
 これらのモデルはタッチパッド、鍵盤、フェーダーが付いていたりと、コントローラや外見はかなり異なりますが、MIDIインプリメンテーションを見ると同じ音源システムであることが解ります。外観を見て解る以外の違いはどこにあるのか調べてみました。
 

はじめに

 発売当時から特に訴求されていなかったと思いますが、実はMC-505系にはJV-x0x0シリーズ相当の音源システム(但しエフェクトブロック及び搭載波形は異なる)が採用されていることがMIDIインプリメンテーションから読み解けます*2
 音源モジュールのJVではPatchモードとPerformanceモードがありますが、Performanceを構成する各パートがMC-505系では内蔵シーケンサで演奏する各パートとして使用されているような構成です。D2以外のMC-505系は本体パネル操作でPatchパラメータをほぼフルエディット可能ですが、D2は7セグメントLEDしかディスプレイが無いためPatchエディット機能が実装されていません。ですが、D2も外部MIDIバイスからSystemExclusiveMessageを送り付けることで、他のMC-505系と同様にほぼJVシリーズ相当のパラメータ群をエディット可能です。
 JVシリーズのPatchはPatch Commonと4つのPatch Toneから構成されますが、MC-505系も全く同じ構成となっています。但し、エフェクト回りなど一部のパラメータが無効化されていたり、モジュレーションソースとなるコントローラの差異を反映したパラメータ差異*3が存在しますが、パラメータのアドレス構成まで同一でそのデータフォーマットには完全な互換性があります。但し、JV-x0x0とMC-505系ではモデルIDの値と桁数が異なる*4のでそのままJVのPatch dumpをMC-505系に流し込んだり、逆にMC-505系のPatchをJVに流し込むことはできません。そもそも搭載波形セットが異なるので波形番号も似たような波形のものに書き換えなければ滅茶苦茶な音になってしまいます*5
 

製造年

Model 製造年
MC-505 1998-2002
JX-305 1998-2002
MC-307 2000-2002
D2 2001-2002

 MC-505⇒JX-305⇒MC-307⇒D2の順に発売になっています。製造終了年は全モデル共通で2002年のようですので、MC-505系共通の波形マスクROM在庫が尽きた(掃けた)のではないかとか邪推したくもなりますが、後継のMC-909が2002年発売なので計画的に新モデルに移行しただけかもしれません。
 

Waveform

 MC-505はA001-254、B001-251の合計505(!)種類の波形を内蔵しています。これは全ての派生モデルが搭載し、WaveGroupType、WaveGroupID、WaveNumberに完全な互換性があります。
 D2が搭載するのはMC-505と同じ波形だけですが、JX-305とMC-307にはGroup Cとして波形が追加されています。JX-305には131種類、MC-307には236種類が追加されていますが、追加数が多いMC-307にJX-305の追加波形が内包されるわけではなく、Group C波形はJX-305とMC-307それぞれ異なるもので互換性はありません*6
 それぞれの追加波形がどこから持ってきた波形かは定かではありませんが、他で見たことがあるような名称の波形が多く、JV-x0x0内蔵波形やSR-JV80シリーズのExpansion boardからセレクトされたものが殆どだと思います*7
 JX-305, MC-307の取扱説明書より追加波形を抜粋して引用すると下表のとおりです。JX-305はGroovesynthを名乗る61鍵モデルですから主にキーボード音色向けの波形セットが追加された印象で、MC-307はあくまでもGrooveboxとしてシンセ音やワンショットのパーカッションやSEのバリエーションが追加されたような印象です。

 

Patch

 MC-505はGroup A~DのPreset patchを128×4=512個搭載しています。これは全ての派生モデルが搭載し、BankSelectMSB, BankSelectLSB, ProgramNoに完全な互換性があります。
 D2はMC-505と同じ波形しかありませんがPatchは追加されており、Group Eとして88個のPatchが追加されています。
 MC-307はGroup E~Gとして288個のPatchが追加されています。
 JX-305はGroupの呼び方が他モデルと異なります。鍵盤タイプのシンセでよく見かける1~8までの数字2桁(11~88)で番号を振る方式でパッチ番号が振られているため、各グループには8*8=64種類のPatchが割り当てられます。つまりMC-505のGroup A~DはJX-305的にはA~Hと表現され見かけ上の表記こそ異なりますが、前述の通りBankSelectMSB, BankSelectLSB, ProgramNoに完全な互換性があります。これに加えて、Group I~Jとして128個のPatchが追加されています。
 D2, MC-307, JX-305の追加Patchはそれぞれ異なるものでGroup E(JX-305はGroup I)以降のBankSelectMSB, BankSelectLSB, ProgramNoに互換性はありません。
 D2, MC-307, JX-305の取扱説明書より追加Patchを抜粋して引用すると下表のとおりです。D2は内蔵波形を活用して主にシンセ音を、MC-307とJX-305は主に追加波形を使ったパッチ群が追加されていそうな感じです。

 

DAC

 MC-505派生モデルなので全部同じかと思いきや、バラバラです。経営上、複数のサプライヤーを併用することでリスク分散みたいな狙いはあるかもしれませんが、同じ音源システムなわけですから微妙な音質差異みたいなことを気にして異なるDACを選定する意味は無さそうに思えます。

MC-505 JX-305 MC-307 D2
NEC uPD63200GS AKM AK4324-VF-E2 Burr-Brown PCM1716E Burr-Brown PCM1716E

 

まとめ

  • MC-505と同じ音を使用したい場合
    • D2、JX-305、MC-307のどれでも代用可能
  • D2の追加Patchを使用したい場合
    • D2が必要(D2からDumpしたPatchデータが有ればMC-505, JX-305, MC-307でも代用可能)
  • JX-305の追加Waveform/Patchを使用したい場合
    • JX-305が必要(気合で探せばJV-x0x0やSR-JV80シリーズに元ネタが存在するかもしれません)
  • MC-307の追加Waveform/Patchを使用したい場合
    • MC-307が必要(気合で探せばJV-x0x0やSR-JV80シリーズに元ネタが存在するかもしれません)

 



以上。

*1:本投稿で言う派生モデルとは上位/下位モデルや前/後継モデルの意味ではなく、同一音源システムを搭載した機材を指します。

*2:参考までに、初代Groovebox MC-303はSC-55mkII相当の音源システム(波形は異なる)が採用されているようで、後継のMC-909はXVシリーズ相当の音源システム(波形は異なる)が採用されています。

*3:事実上ほぼ同じ

*4:JV-x0x0系はModelID=0x6Aで共通、MC-505系はModelID=0x000Bで共通。

*5:逆に言うと、モデルIDと波形番号を置換してチェックサムを再計算すればJV-x0x0とMC-505系のPatchを相互に喰わせることができます。

*6:いずれもWaveGroupID=3となっていますのでMC-307とJX-305でGroup C波形を使用したPatch dumpを相互に喰わせた場合、意図した音にはなりません。

*7:JX-305やMC-307固有波形が存在する可能性を否定するものではありません。