YAMAHA FM SOUND GENERATOR FB-01を修理した
20年以上前に中古で購入して使用した後、15年以上はしまい込んだまま保管していたFB-01を引っ張り出してみたところ、出音がほぼ聴こえない状態となっていました。
修理したところ正常に使用できるようになったので、実施した作業記録を残しておきます。
<<警告>>
本投稿の内容を真似て何らかの事故が生じても著者は一切の責任を負いません。実施される場合は自己責任にてお試しください。
状態
- 通電する
- 液晶表示も正常
- MIDI入出力も正常
- 放熱スリットのある電源付近と思しき箇所が異常に熱い(手で触り続けるのが困難な熱さ)
- 出力レベルが異常に小さい(ほぼバックグラウンドノイズに埋もれて聴こえない)
↑プリアンプ無しのオーディオインタフェースで録音した波形。通常のリニアスケールでは何も見えない(もちろん再生しても楽器音は聴こえない)。
↑同じ波形をデシベル表示(ログスケールで表示)してみると、完全に何も出力されていない訳ではなくバックグラウンドノイズより僅かに大きな波形出力されていることが判る。
↑同じ波形を正規化後リニアスケールで表示。AttackのピークではS/N比3:1程度はあるかもしれないが、Decay後にはS/N比1:1であり、ノイズリダクションでどうにかなるレベルをはるかに超えておりとても実用にならない状態。
これらのことから察するに、デジタル系は正常に動作しており、DAC以降のアナログ系に問題がありそうです。また、電源部にも何らかの問題がありそうです。
調査
- 電源回路の出力電圧を測定
- デジタル回路用電源(+5V) ⇒ 実測値約+5.28V
- アナログ回路用電源(+5V) ⇒ 実測値約+5.22V
- アナログ回路用電源(-5V) ⇒ 実測値約+0.85V
デジタル/アナログ共に+5V電源は5%前後の誤差がありつつも許容範囲としても、アナログ用-5V電源が+0.85Vというのは明確に異常です。
まずは、電源回路を修復して、それでも問題が継続するかを確認することにします。
内部写真
↑表面実装部品が無く、ICもDIPパッケージのみで修理しやすい構成。
↑メイン基板で一番大きなDIP40pinパッケージのICがCPUでNEC製 D70008AC-6 (Z80互換6MHz駆動)。FB-01はMSX用FM音源SFG-05互換音色を持っていますが、MSXに使われているCPUのZ80Aと同様のZ80自体を内蔵した構成。使用パーツはTexas InstrumentsのTL072CPを除けば、JRC, HITACHI, SHARP, NDK, Maxellとほぼ全て国内メーカー品で構成。
↑4OP FM音源にはYM2164(OPP)を使用。そのDACとしてYM3012が使用されているが、これらのいずれかが壊れていたら代替品が無いため修理不能*1。
↑取り外した電源基板。外装に設けられた放熱用スリットの直下に位置するため、侵入したホコリやチリで汚い。
対応方針
アナログ用負電源を生成しているのは79M05ですが、長期稼働で壊れたとか落雷やショートによる過電流で壊れたとかなら解るのですが、ただ長期保管しただけで壊れるようなものではないはず…。長期保管しただけで劣化するパーツとしては電解コンデンサがまず思いつきますが、79M05の一次側、二次側双方で使用されています。これらの劣化が進行しており15年以上の時を経て再び通電した際の突入電流に耐えられず79M05の破壊に至ったのでは?と、仮定し79M05と一次側、二次側の電解コンデンサを交換することにします。
出力段のオペアンプなどアナログ回路には+5V,-5Vの両電源が使用されていますのでアナログ用+5V電源を生成している78M05とその一次側、二次側の電解コンデンサも併せて交換しておくことにします。
デジタル用+5V電源には7805が使用されていますが、デジタル回路の挙動に不審な点は無いので、一次側、二次側の電解コンデンサだけ交換しておくことにします。
交換用パーツの準備
電源用電解コンデンサは普通にパーツ屋で揃います。
Parts | Spec | Purpose |
---|---|---|
C1 | 4700uF/16V | used for 7805 in |
C2 | 470uF/16V | used for 78M05 in |
C3 | 470uF/16V | used for 79M05 in |
C7 | 100uF/16V | used for 7805 out |
C8 | 100uF/16V | used for 78M05 out |
C9 | 100uF/16V | used for 79M05 out |
一方、電源レギュレータの79M05と78M05は少なくとも秋月や千石では取り扱いがありません。78M05はマルツにありそうですが、TO-220形状の79M05は概ねディスコンっぽい雰囲気で、これは困った…。
と、思ったのですが、"M"の付かない7905や7805なら秋月でも調達可能です。これらの電源レギュレータのネーミング中の"M"はMedium current*2を意味するようですので、"M"無しの品種に変えても供給可能な電流不足にはならず(発熱等を考慮する必要はありそうですが、)上位互換のように使えるはずです。
というわけで、79M05の代替としてNJM7905FAを、78M05の代替としてNJM7805FAを使うことにしました。いずれも1.5Aまで供給可能で、それぞれオリジナルの79M05や78M05とピン互換ですのでそのまま差し替えできます*3。
Original parts | Replaced parts |
---|---|
JRC 79M05 | JRC NJM7905FA |
JRC 78M05 | JRC NJM7805FA |
↑秋月電子で全てのパーツを調達。
修理
表面実装のパーツが無い時代の機器なので、はんだ付け的な意味では容易に修理できます。筐体から基板を取り外す作業さえ無事に終えれば、特筆すべき難点はありません。強いて書くなら、コンデンサに溜まっているかもしれない電荷による感電を防ぐために、コンデンサの両端にセメント抵抗でもつけて予め放電させておいた方が安全に作業できるでしょう。
↑NJM7805FAの厚みが若干薄く放熱板との間に微妙な隙間ができてしまったので、放熱フィンが無い側にも熱伝導シートの切れ端でも噛ませた方が良かったかもしれない。
テスト結果
- 電源回路の出力電圧を測定
- デジタル回路用電源(+5V) ⇒ 実測値約+5.08V
- アナログ回路用電源(+5V) ⇒ 実測値約+5.06V
- アナログ回路用電源(-5V) ⇒ 実測値約-5.0V
正常な出力電圧が確認できました。正負のアナログ電圧の絶対値が微妙に異なるのが嫌な感じもしますが、特に調整できる回路構成では無いので気にしないことにします。
この状態でFB-01の機能を確認したところ、以下の通りでした。
- 異常な発熱が無い(ほんのりと暖かい程度)
- 正常な出音が得られる
↑プリアンプ無しのオーディオインタフェースで録音した波形。通常のリニアスケールで普通に波形が確認できる(当然、再生音も綺麗に聞こえる)。
以上より、原因の一つとして当初は疑ったアナログ系に不具合は無く単に電源回路の問題だったことになります。
なお、12時間以上連続で使用しましたが、発熱を含め特に問題は起きていませんので、無事に修理できたと判断できます。
雑記
- FB-01は本体で音色エディットできずプリセットFM音源モジュールに近いですが、外部からSystemExclusiveMessage経由でエディットすることが可能です。
- 大昔に中古で購入した当時はマニュアルが無く、インターネット経由でダウンロードできる時代でもなかったのでプリセット音源として使用していましたが、しょぼい音しか出ないと思ってました。
- 改めて、今FB-01の音を聴いてみると「存在感のある音」に聴こえます。お前、こんなしっかりした音だったか?みたいな。
- 軽くコーラスを掛けるとTOP GUNのDANGER ZONEのイントロのベース音にかなり近い音がする!
- TG/MUシリーズ以降の音源モジュールを使いこなせる人でも迂闊に手を出さない方が良いです。
- 他のDX/TXシリーズとの音色の互換性もありません*4
以上。