Roland GR-50の音源部はD-10相当のLAシンセ

 知らなかったので単なる備忘録です。
 Rolandの1988年頃のギターシンセサイザーGR-50という機材を見かけまして、この音源部は何に相当するのだろう(或いは固有の実装なのか)?と思い調べた結果をメモしておきます。
 結論を先に書いておくと、タイトル通り同社の1987年のLAシンセサイザーのD-10相当のようです。
 

D-10の派生モデル達

 まず、ベースモデルとなるD-10は61鍵キーボードのLinear Arithmetic(LA)シンセサイザーです。
 そして、D-110はD-10のラックマウントバージョン*1に相当します。
 ついでに、D-5というD-10からデジタルリバーブを除去した廉価版や、D-20というシーケンサを搭載しFDDを内蔵したモデルも存在しました。

 LAシンセサイザーはD-50*2が最も有名ですが、D-10シリーズはその下位に位置するラインアップでした。と言っても、全ての面でD-10シリーズが劣るわけでもなく、1トーン(いわゆる音色)当たりの使用可能パーシャル数(いわゆるWaveformとかElement的なもの)は倍増していたり、搭載PCM波形数が増加していたりと、単なる下位モデルというわけでもありませんでした。
 

D-10以降のRoland機材

 1990年にSuper LAシンセサイザーとしてD-70*3が発売されましたが、これは従来のDシリーズの単純な後継・上位機種というよりはUシリーズ(U-110/U-20/U-220)も飲み込んだ上での進化版といった印象が強いです。D-70は(有名な錘の剥落で壊れていなけれは)良好な76鍵マスターキーボードとして使われることも多かったように記憶していますが、音源部としてはフィルタが強化されたPCMシンセサイザーとしての性格が強いと思います。
 そもそもLA方式はメモリが高価だった時代に、アタックにPCM片を使ってリアルさを出しつつ、サスティン以降はシンセ波形で繋ぐという思想でしたが、Uシリーズは現代のPCMシンセサイザーと同様にアタックだろうがサスティンだろうがPCMで実現していました。時代が進んで波形に使用可能なメモリ量が増えるにつれ、LA方式のようなメモリ節約の工夫を盛り込む必然性が薄まったため、DとUが統合したようなD-70が登場するに至ったと考えられます*4
 D-70発売の翌年には、あの有名なJD-800が発売され、以降JVシリーズ、XVシリーズとRolandのPCMシンセサイザーは進化を続けてきました。

 ここまでは、この類の機材が好きな人にはよく知られている事かもしれませんが、実はGR-20もD-10シリーズの仲間に含まれるようです。
 

GR-50 vs D-10 series

 普通のシンセサイザーならRolandだけではなくKORGYAMAHAも製造していますが、ギターシンセサイザーが現在まで続く事業として成功しているのはRolandだけと言っていいでしょう。
 Roland GRシリーズも当初は(一般のシンセサイザー同様に)アナログ回路のオシレータから音を生成していましたが、時を経るにつれ(一般のシンセサイザー同様に)デジタル方式で音を生成するように変わります。デジタル方式と一言で表すのは簡単ですが、実際には多種多様な方式があるのは一般のシンセサイザーと同じです。このGR-50はLA方式を採用していました。

 前述の通りLA方式のシンセサイザー/音源モジュールにも大別して何種類かあるわけですが、取説を読んだらD-10相当であることが解りました。

  • 取説Page84辺りの「PG-10によるエディット」
    • Programmer PG-10はD-10シリーズ用のプログラマー(音色エディット用のスライダーやボタンが並んだハードウェアコントローラ)で、コントローラの操作に応じてD-10シリーズに対応したシステムエクスクルーシブメッセージを吐き出します。これが使えるということは、GR-50は同様の音源システムを搭載していることになります。
  • 取説Page133辺りの「他機種用のメモリ・カードを使ったデータのコピー」
    • ここでD-10/D-20/D-110が機種名を挙げて言及されています。この節には「~パッチデータは他機種と互換性がありません~」の記述もありますが、ここで言うところの「パッチ」はいわゆる単独の音色プログラムの事ではありません。YAMAHA系機材で言うところのPerformanceやKORG系機材で言うところのCOMBIに近い概念です。つまり、単独の音色プログラム(D-10系機材で言うところの「トーン」)はD-10/D-20/D-110と互換性があるわけです。

 見比べてみたところ、搭載しているPCM波形は全てD-10シリーズと同じ名称・番号ですので、同一波形ROMを積んでいると考えられます。同様にGroup a/bのトーン名・番号も同一でしたので、(DAC等の差異があるのか不明ですが)基本的に同じ音が鳴るはずです。
 

雑記

 以上より、ギターシンセサイザーとして鳴らす目的でGR-50を購入するのではなく、MIDI経由で鳴らそうと思っている場合にはわざわざGR-50を選択する必然性はありません。比較的入手性の高いD-10シリーズを選べばよいでしょう。D-110とか捨て値で同然で見かけますので*5

 個人的にはD-10は思い入れのある機種*6ですが、今の時代にわざわざ入手する必要があるかというと、正直微妙です。アナログシンセのような音や、(大容量PCMならではの)アコースティック楽器の代替といった用途には全く適していません。WG(いわゆるOSC)でPCM選択時でなければレゾナンス付きのフィルタも搭載していますが、アナログシンセのフィルタや昨今のデジタルフィルタと比べてしまうと、特に面白いものではありません。リングモジュレータも機能としてはありますが、その出力は全く直感的ではないので狙って意図した音を作るのは困難です。限定的なPCM波形と矩形波または鋸波を駆使して、良く言えばレトロ感のあるような音(或いはノスタルジックな音)*7を出す目的なら悪くないと思います。
 



以上。

*1:D-110はパラアウトに対応するなどの差異はあります。

*2:或いはラックマウントバージョンに相当するD-550

*3:SoundCanvas SC-D70とは全く別物です。

*4:ちなみにD-70はラックマウントバージョンが存在せず、MV-30という音源内蔵シーケンサがD-70に近い音源システムを搭載しているようです。MV-30は起動にFDのシステムディスクが必要で、正常に稼働する個体は結構いいお値段します。

*5:同様に捨て値で処分されていたMT-32とかCM-32/64が、何故か近年値上がりしているような気もしますのでD-110も今が底値なのかもしれませんけど…。似たような時代のYAMAHAFM音源のFB01とかTX81Zも底値から反転した感ありますが、生存/流通個体数が減る一方だからなんでしょうかね?

*6:数十年前に初めて買ったベロシティ対応鍵盤搭載シンセ。本体の2行液晶とボタン操作ではエディットしにくいのでJD800ごっこをするためにPG10も後で買った。

*7:悪く言えば古臭い音