4KハンディカムFDR-AX700が発表された

 2017年秋に4K対応ハンディカムFDR-AX700が発表されました。

 2016年までのハンディカムのリリースサイクルとは異なるタイミングでの発表となりましたが、型番から察するに従来機の後継モデルではなく、新たなハイエンドモデルとなるように見えます。
 一方では、従来の4KハンディカムのハイエンドモデルだったFDR-AX100とソニーストアでの販売価格が同一*1であることから、FDR-AX100の在庫が終息次第、事実上の後継機として扱われるのかもしれません。

 以下、既存モデルと比較してFDR-AX700の何が凄いのか見ていきます。
 

イメージセンサ

 FDR-AX700は従来のFDR-AX100と同様にハンディカムとしては大型の1インチのイメージセンサを搭載しています。
 面積は同等ですが従来はExmor Rブランドだったところ、Exmor RSブランドに変わっています。すなわち、従来はSONY製の裏面照射型のCMOSイメージセンサを搭載していたところ、FDR-AX700では「積層型」の裏面照射型CMOSイメージセンサに更新されたことになります。
 

積層型

 何がイメージセンサに積層されたのかというと、「高速信号処理回路」だそうで、外部ISP(Image Signal Processor; SONYはBIONZブランドで訴求)に対する映像信号を引き渡す前の段階での信号処理を司る回路の処理速度が向上したと以下のページからは読み取れます。
FDR-AX700 特長 : さらなる高画質化 | デジタルビデオカメラ Handycam ハンディカム | ソニー

 これにより、FDR-AX700では4K HDR(ダイナミックレンジが広い=データ量が多い)に対応したり、4K記録はできないながらも最大960fpsでのハイスピード(再生するとスーパースロー)撮影に対応することができたのでしょう。
 

サイズ

 対角1インチのセンサを搭載してはいますが、実際に撮影に利用されるのはもっと小さい面積になります。
 というのも、SONY製の1インチイメージセンサはこれまでもアスペクト比3:2の製品しかないはずです。昨今の一般的な映像のアスペクト比である16:9で利用するためには、どう頑張ってもイメージセンサの上下の領域は捨てることになります。
 実際、スペックとして公開されている数値は以下の通り。

項目 公表値 実画素数(備考)
総画素数 2,100万画素 5616x3744px(幾何的に推定)
有効画素数(16:9動画) 1,420万画素 5024x2824px(静止画スペックから推定)
有効画素数(16:9静止画) 1,420万画素 5024x2824px(公表値)
有効画素数(3:2静止画) 1,200万画素 4240x2824px(公表値)

 この関係を図示すると以下のようになります。グレーの領域がイメージセンサ、斜線部が実際に撮影に利用されると推定される領域を表します。
FDR-AX700イメージセンサ利用状況(推測)

 図中にも記入しましたが、実際に撮影に利用される領域の対角長は幾何的に計算すると約0.85インチとなります。
 1インチないじゃん、と思われるかもしれませんが、従来のFDR-AX100も殆ど同じです。他社製品でも、例えば大型のマイクロフォーサーズセンサを搭載したPanasonic LX100*2がありますが、映像撮影時には対角長は4/3インチに満たない大幅にクロップされた領域が映像撮影時には利用されます。
 図からも判る通り、アスペクト比が16:9ネイティブではないイメージセンサで16:9の映像を撮影する場合には、上下の画素が無駄になるのは原理的に仕方ないのですが、左右の画素が無駄になるのは単純に無駄です。左右の画素を無駄に捨てる状態にせざるを得なかったのは、レンズのイメージサークルに合わせたものなのでしょう(対角1インチを十分な画質でカバーできるイメージサークルのレンズではないため、外周部を切り捨てていると推定される)。
 

AF

 SONYの一眼カメラαシリーズで実力を高めてきたファストハイブリッドAFが搭載されました。最近のイメージセンサのトレンドである像面位相差を実現するために、イメージセンサ上にAF用画素が21*13=273ポイント作り込まれているようです。
 スマートフォンや廉価なビデオカメラのように極小のイメージセンサを搭載している場合は、厳密なピント合わせをそれほど意識しなくても多くの場面ではピントが合っているように見えますが、大型のイメージセンサを搭載している本機のようなカメラでピントを外すとピンぼけが不快に感じられるでしょうから、素直に歓迎したい新機能と言えるでしょう。
 

レンズ

 少なくともFDR-AX100からスペック上は全く変化していません。
 ZEISSバリオ・ゾナーT*銘で口径比F2.8-4.5。アスペクト比16:9時の35mm判換算焦点距離がf=29.0-348.0mmとなっています。
 

雑感

 FDR-AX700のシリーズ機として業務用のXDCAM PXW-Z90、NXCAM HXR-NX80が予告されていることからも明らかなように、本機は多くの一般消費者をターゲットにした製品ではなく、ハイアマチュアや低予算番組の収録などを主なターゲットとしていそうなことが察せられます。

 ビデオカメラの購入を検討している一般の個人が、たとえ予算に余裕があるからと言って「ハンディカムの一番いいやつ頂戴」というノリで買ってしまうと、恐らく持て余すことになると思います。大きなイメージセンサ故の高画質というメリットを享受するよりも、ピントが浅くてピンボケ映像を量産してしまったり、FDR-AX55等のワンランク下のハンディカムよりも大幅に大きくて重いことからくる疲労感など、デメリットを感じるかもしれません。

 さらにSONYのHandycamならではの空間光学手振れ補正もFDR-AX100と同様に、本機にも搭載されていません。大型イメージセンサ故に光学系全体を動かすのが難しい*3のだと想像されます。

 FDR-AX700がハイアマや番組制作向けであると位置付けるならば、ワンランク下のFDR-AX55は一般消費者向けハンディカムの事実上一番いいやつと言えそうです。FDR-AX55なら1インチセンサではなくなりますが、4K記録に対応しつつ空間光学手振れ補正にも対応しますので、普通のユーザにとっての使い勝手のバランスがいい選択と言えるのではないでしょうか、価格も安いですし。それでもまだ大きくて重い、或いは高価格ということであれば、4Kには対応しないながらも技術的に枯れ切ったFullHDのハンディカムHDR-CX680辺りが有力な選択肢となるでしょう。
 

 



以上。

*1:本投稿記載時点で199880(税別)円

*2:これはビデオカメラではなく所謂高級コンパクトカメラですが。

*3:実現には大型のアクチュエータが必要でさらに本体の巨大化、消費電力も増加するなどの困難が容易に想像できる。