激安中華USB-MIDI I/Fを買ったら動作しなかった

 Amazon.co.jpマーケットプレイスで、数百円のUSB-MIDIインタフェースが売られています。

 同じような見た目の製品が別の製品として複数登録されているようで、Amazonの商品ページはいくつかあります。それらのレビューを流し読みしてみると、使えた・使えないの両方の内容が混在しており、使えるという人でもデータ量が多くなるとダメだとか、かなり怪しい雰囲気を感じる代物です。
 まともな楽器メーカーの製品とは、(その時々の販売価格によって異なりますが)10倍くらい値段差がありますので、使えればラッキー程度のノリで購入してみたところ、正常動作しませんでした。
 

動作不良の内容

 私の手元に届いた個体は、以下のような状態でした。

  • Windows10に認識自体はされる
  • MIDIバイスを接続すると正常動作していないことが確認できる
    • MIDI INが機能しておらず、PC側にデータが入力されない
    • MIDI OUTから正常にデータが出力されない
      • 猛烈に異常データが出力されているようで、外部MIDIバイスによってはBufferFull表示でハングアップする機材もある
  • ケースにOUTの表記があるLEDが常時点灯したまま
  • ケースにINの表記があるLEDがMIDIバイスからの入力有無に関わらず全く点灯しない

 通常、機器AのMIDI OUTを機器BのMIDI INへ接続しますが、ごく一部の製品には表記が逆のパターンもあるようですので、念のため逆に差してもみましたが、外部MIDIバイスMIDIデータは送信されず*1、外部MIDIバイスからMIDI入力することもできませんでした。

 数百円の製品ながら売価変動がかなり激しい(変動幅も数百円程度で、購入時価格の1.5倍~2倍程度に簡単に跳ね上がるようです)ので、良品との交換を希望したところ、在庫が無く返金ということになりました。単価が安すぎるためか、返品送料等のコスト負担すら惜しいようで、不良品は返送せず処分してくれとのことだったので、分解して中身を確認してみました。
 

分解

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 黒い樹脂ケースの隙間にマイナスドライバーなどを差し込むと分解できます。ネジや接着剤などは使用されていませんでした。
 中に入っていたI/F基盤はかなり歪んでおり、固定用の穴開け位置の精度が適当過ぎるのだと思われます。基板にはM2-3とZD-20Bの型番或いはパーツナンバーらしき刻印が確認できます。
 ケースにOUTと表示されている常時点灯した赤色LEDは基板上LED1表記で、全く点灯しなかったIN表示の緑色LEDはLED2表記、ケースには何も書かれていない左側のLEDはLED3と表記されています(以降この表記を文中で使います)。
 

基盤裏面

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 Amazonのレビューではフォトカプラが実装されていないといった言及もありましたが、この個体にはON SemiconductorのH11L1が使用されていることが確認できます。一方、USB-MIDI変換チップと思われる部材はエポキシ樹脂のようなもので隠されており、何が使われているのか識別できません。故に、何がおかしいのか調べるのは難しそうですが、いくつか部品が未実装のランドがあることに気が付きます。
 目視でパターンを追える範囲で見てみると、点灯しなかったLED2, LED3と変換チップを繋ぐ回路パターンの途中に位置するR6, R7とシルク印刷された箇所にチップ抵抗が付いていません。ここが未接続ではLED2, LED3が点灯するはずありません!輸送中に壊れてしまったとかではなく、製造・出荷された時点からの不良品です。
 本来何Ωの抵抗を取り付けるのが正しいのか解りませんが、LED1のパターンでは102表記(1kΩ)のチップ抵抗が使われていますので、恐らくは同様に1kΩ程度のチップ抵抗が必要と考えられます。これは電流制限抵抗の意味合いだと思われますので、「製造コスト下げたい」「電流制限抵抗を無くしても(LEDの寿命が短くなることはあっても)機能するから要らない」「寿命が短くなるならたくさん売れるぞ素晴らしい」みたいなイカレたコミュニケーションが製造時にあって、「要らない」の意味を取り違えてショートさせずに何も付けなかったためこうなったのかなと想像できるかもしれません。完全に邪推ですが。

 とりあえずこのランドをショートさせれば動作するようになるか試してみることにします。
 

修復試行

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 R6, R7のランドをはんだでショートさせてみました(画像中の赤枠部)。
 すると今度は、目論見通りLEDが点灯するようにはなったのですが、

  • PCからのMIDI出力と連動して、LED3が青く点滅するようになった
  • ケース上のOUT表記の赤色LED(LED1)は依然常時点灯状態
    • 察するに、ケース上のOUT表記の赤色LED(LED1)は実はPOWERインジケータで、ケースに何も書かれていない青色LED(LED3)がMIDI OUTのステータス表示の誤植と思われる
    • 検索するとケースのLED表記順がおかしいという指摘の海外個人サイトが確認できる
      Cheap USB MIDI cable – how to modify it | karu sisemus
      ※さらにこの海外の方の個体と私の入手した個体ではIN/OUTの配置が逆
    • Amazonの商品ページの画像ではIN/OUTの表記が無いものもある
    • 同一ケース形状ながらケースの印字が異なったり、内部基盤の仕様が異なったり、意味不明な派生品が複数存在すると考えられる
  • 中央のMIDI IN(LED2)は当初点灯しないが、意味不明なタイミングで常時点灯になる
  • MIDI IN/OUTともに、データの送達は正常に行えないまま

 といった状況に変わりました。LEDが点灯するようになっただけ少し前進した(?)ようにも思いますが、相変わらず使えないままです。

 MIDI OUTが正常出力されない原因は思いつきません*2が、MIDI INについてはまだ怪しいポイントがあります。基板上のR10のシルク印刷部にもチップ抵抗がありません(画像中のオレンジ枠部)。H11L1の4ピンと「何か」を繋ぐランドですが、「何か」がVcc(5V)であるならば、ここにはプルアップ抵抗が存在するべきなのかもしれません*3。H11L1のデータシート中のテスト回路を見る限り、R10には270Ω程度の抵抗が存在するべきだと考えられます。

 といった感じで、R10に抵抗を取り付けるとMIDI INが利用できるようになる可能性は残っていますが、私が取り急ぎ使用したいのはMIDI OUTなのです。これ以上、無駄に時間を浪費したくないので、おとなしく別のMIDIインタフェースを使うことにします。
 

他のUSB-MIDI I/F

 安価な中華USB-MIDI I/Fには今回購入した製品と同様の形状の製品以外にも、もう1~2種類あるようですが1000円台~2000円台の値付けとなっているようです。例えば、本投稿記載時点では以下の製品にAmazon's Choiceの表記が付いていますが、使えたという報告と使えない/安定しないといったような報告がレビューに混在しており、少なからず不良品が混在しているであろうことが察せられます。

 

 ノーブランドの中華系電子機器にありがちですが、同じ製品に見えるけど中身が別物ということがあります。これらのUSB-MIDI I/Fも一見すると同一に見える製品が複数存在し、Amazonの商品ページが複数乱立しつつ、複数業者が併売している状況です。その中で、正常に動作するもの、動作するけどフォトカプラが使われていないもの、動作するけどケースのLEDの機能表示が実態と合っていないもの、安定しないもの、動作しないもの等々が混在していると考えられますが、外観や商品ページでは識別できないため、送られてきたものが正常に使用できるのかは運任せ的なランダム要素が強いと言えるでしょう。

 この値段で動作する製品が届けばラッキーですが、正常に動作する個体が届くまで購入-返品を繰り返すのは、よほど時間的余裕があるのでなければとてもお勧めできません。また、動作はするけれどフォトカプラが実装されていない個体が届いた場合*4、不幸にも外部MIDIバイスで電気的異常が起きた場合にPC側にも損傷を与える可能性があります*5ので、やはり積極的にお勧めする理由はありません。この類の問題を自力でどうにかできる方以外は、多少高価でも国内大手の製品を使用した方が良いと思います。

 



以上。

*1:この場合、ハングアップを起こした機材はありませんでした。単にMIDI INとMIDI INを繋いだ状態になって未入力状態となっているだけだと考えられます。

*2:エポキシ樹脂の下のチップや配線が基板の歪みに起因して配線不良を起こしているのでしょうか?

*3:H11L1の下に位置するパターンが目視できないので、「何か」の正体はテスタなどで確認する必要がありますが、調べていません。

*4:分解しなければ確認できず、動作する製品を分解してしまうとサポート対象外となりそうですが…。

*5:恐らくはUSB-MIDI I/Fが壊れるだけでしょうけれど、PCのUSBポートにポリスイッチではなくヒューズが使われている場合、PCを修理しない限り当該USBポートが使用不能になる可能性があります。