事業廃止・破産申し立てに至ったAirAsiaJapanの足跡

 2020/11/17にAirAsiaJapanが破産申し立てを行った旨、報じられています。
エアアジア・ジャパン、破産手続き開始
 現時点で公式サイトに説明は見当たらないようですが、10/5時点で事業廃止を決定し12/5付で全路線廃止する届け出を行ったとする旨、公表しています。
newsroom.airasia.com

 COVID-19の蔓延により多くの産業が打撃を受けていますが、航空業界はかなり厳しいことも多くの報道で目にします。
 当BlogでもADS-Bレシーバで得られたログデータを基に、飛行している航空機の数が激減していることを何度か紹介してきました。
wave.hatenablog.com

 本投稿ではAirAsiaJapanのフライトに限定して、過去のフライト数の推移を分析してみたいと思います。
 

AirAsiaJapanのフライトを特定する

AirAsiaJapanの機体

 AirAsiaJapanが保有する機材はエアバスA320が3機だそうです。調べてみると、登録番号(レジ)とICAO 24bit address(MODE-S)の関係は下表のようにまとめられます。

登録番号 ICAO 24bit address
JA01DJ 840538
JA02DJ 8408CC
JA03DJ 840C60

※ICAO 24bit addressはインターネットで例えるとMACアドレスのようなもので、同じ値を持つ航空機は重複して存在しません。そして、ADS-B*1で航空機から送信される情報には必ずICAO 24bit addressが含まれていますから、上記の3つのアドレスを含むADS-Bメッセージを調べます。
 

AirAsiaJapanのフライト

 ADS-BのメッセージにはICAO 24bit addressとコールサインを紐付け可能なメッセージ種別があります。そして、このコールサインには日本上空を飛んでいる旅客機の場合は、事実上フライト名(便名)が設定されているようです*2
 というわけで、前述の3つのICAO 24bit addressに紐づくコールサインを過去ログから洗い出してみると、概ねWAJn(nは3桁または4桁数字)という文字列が得られます(そして、この形式はAirAsiaJapanのフライト名と一致しています) *3
 

AirAsiaJapanのフライト数推移

 前述の手段で、ADS-BのログからAirAsiaJapanのフライトを特定することが可能なので、手元にある過去ログ(2018年8月以降)から全て洗い出して、整理してみました。
 日別の便数を月別にサマリしてプロットすると以下のようになります。2020/5~2020/7と2020/10は全く観測されませんでしたが、2020/4/9から全便運休、2020/10から再度全便運休が発表されていますので、観測システムやデータ加工上の不備ではありません。

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ADS-Bで観測したAirAsiaJapanの月別便数

※私のADS-Bレシーバの設置地点では、関東上空は概ね良好に受信できますがAirAsiaJapanの拠点であるセントレアは見えません。AirAsiaJapanはセントレアと新千歳、仙台、福岡、桃園の4路線で就航していましたが、福岡や桃園(台湾)を結ぶ便は関東上空を飛ばないので通常は受信できません。故に、実際にはこのグラフ以上に多くの便が運航されていたことになり、データの網羅性・完全性は担保されないことにご注意ください。
 

(おまけ)多く観測できた便

 蛇足ながら、私のADS-Bレシーバの設置拠点で最も多く観測されたフライトのTOP6は以下の通りでした。

Flight Counts Route
WAJ004 566 新千歳⇒中部国際
WAJ010 561 新千歳⇒中部国際
WAJ002 554 新千歳⇒中部国際
WAJ009 528 中部国際⇒新千歳
WAJ003 527 中部国際⇒新千歳
WAJ001 494 中部国際⇒新千歳

 新千歳とセントレアを結ぶ便、しかも新千歳発ばかりが上位に位置していることから、飛行方向によって飛行ルートが違う*4ということが察せられます。
 逆に1回しか受信できなかったようなフライトもありますが、面白そうなものとしては2018年元旦に初日の出フライトとして飛行したWAJ4001もセントレア発着ながら山梨辺りまで来ていましたのでしっかり受信できていました。
 

考察・感想

 エアアジア・ジャパン - Wikipediaを要約すると、概ね以下のような就航状況だったようです。

2017/10/29 名古屋/中部 - 札幌/新千歳線 就航
2019/2/1 名古屋/中部 - 台北/桃園 就航
2019/8/8 名古屋/中部 - 仙台 就航
2020/4/9 新型コロナウイルスの影響により、全便運休
2020/8/1 名古屋/中部 - 福岡 就航
2020/10 再度全便運休

 前掲のグラフと突き合わせてみると、2019年8月から観測できたフライト数が大きく増えていますが、これは仙台便が就航したことによる影響でしょう。
 2019年12月には前月比50便以上減っていますが、これはそれらしい理由を読み解けません(前年12月にはそのような落ち込みは無く、季節性変動では無さそうですし、COVID-19が武漢で発生した直後ですが、当時は対岸の火事といった雰囲気で特に影響なかったですし)。
 そして、2020年1~3月は観測できたフライト数に大きな変動は無さそうですが、COVID-19の蔓延によりグローバルで影響が拡大していった時期でもあります。恐らくは、フライト数は大幅に減っていなくても、空席率が大幅に上昇していたと思われます。そのため、4/9の全便運休という判断に繋がったのでしょう。
 2020年8月になると福岡路線が新規に就航するとともに、既存路線も一部で運航を再開したのが読み取れますが、勢いは続かず9月には減少に転じ、10月には再度全便運休となりました。

 そして、今回の破産申し立てとなりますが、COVID-19の蔓延が収まらない限り、回復は無理と経営判断したのでしょう。残念ではありますが、合理的な判断だと思います。飛ばさなくても3機分の航空機リース費用や、駐機費用はかかりますし、人員確保のための費用も掛かります。多額の債務が膨れ上がって身動き取れなくなり、破産を選択するしかなくなったのでしょう。

 ANAの合弁だった初代AirAsiaJapanも、今回の2代目AirAsiaJapanもうまくいかなかったわけですが、COVID-19が収束した後には3度目の正直で日本市場に再挑戦があるのでしょうか?それ以前に輸送だけではなく製造も含め、航空業界で無事に生き残れる企業がどれだけあるのか、気がかりではあります。
 



以上。

*1:Automatic Dependent Surveillance-Broadcast

*2:何らかの法令・政令・省令・ガイドライン等で決まっているのだと思いますが、詳細は知りません。

*3:RJWAJ004(地上に居た?)、WAE001(JがEに)、WJ003(Aがない)、WA002(Jがない)、WAJ09(0埋めしてない)、WAJOO1(ゼロではなくオー)のようにtypoのようなコールサインが設定されていることも極稀にありました。ADS-Bのコールサインって、パイロットが手入力してるんすかね?

*4:新千歳⇒中部国際の方が、中部国際⇒新千歳より関東の近くを飛行すると思われる。