M-Audio OMNI I/O基板を観察する

 現在では既に対応製品も発売されておらず、メーカーサポートも無く、マニュアルPDFすらダウンロードできない骨董品のM-Audio OMNI I/Oを入手しました。

 現在、オーディオインタフェースは国内外の多様なメーカーから発売されていますが、OMNI I/Oはちょっと毛色が違います。確かにインタフェースではあるのですが、USB接続や、かつてのFireWire(IEEE1394)接続、或いはPCI接続といったようなPCと直接接続する機器ではありません。I/O BOXとでも表現すればいいのか、M-Audioの一部のオーディオインタフェースと接続して使うためのインタフェースなのです。対応する一部のオーディオインタフェースとは、PCI(PCI-eではない)接続のAudiophileやUSB(USB1.1)接続のQUATTROといった古い製品であり、もはや現行のWindowsMacOSで動作するドライバは存在しません。

 そんなわけで、現在店頭で見かけることはまずありませんが、捨て値でオークションに出品されているのを稀に見かけることがあります。私は今でもLinuxでQUATTROを使用することがあるので、OMNI I/Oを落札してみました。大変汚い外装状態だったので、分解・清掃を行ったついでに、内部の基盤を観察した記録を掲載します。
 

構成

 金属筐体の中には上下2枚の基盤が重なって配置されています。各基盤はピンヘッダ・ピンソケットで接続されています。
 なお、分解には特殊な工具は必要なく、プラスドライバーとラジオペンチがあれば十分です。全てのツマミとプッシュスイッチの樹脂パーツを引き抜いた後、D-SUB15ピンコネクタとXLR-PHONEコンボコネクタを固定しているネジを外すのを忘れなければ特に難なく開きます。

使用IC

 使用されているICを列挙すると以下の通りでした。
 なお、基板は中間配線層があるようで、表裏だけを眺めても配線経路は判りませんので、各ICが何を司ってそうかは推測で書いています。
 

Lower PCB
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M-Audio OMNI I/O lower pcb
Manufacturer Parts name Qty Desc
Burr-Brown INA103KP x2 OPAMP
JRC NJM4560LD x11 2回路入りOPAMP
Hitachi HA17555 x1 Timer
STMicro L7815CV x1 +15v Regulator
STMicro L7915CV x1 -15V Regulator

 Burr-Brown(現Texas Instruments)のINA103KPが2系統あるXLR-PHONEコンボコネクタ付近にそれぞれ1個ずつ使用されています。Burr-BrownのPCMシリーズのADC/DACはよく見かけますが、INAシリーズって何だろうと思って調べてみたところ、INstrumentation Amplifierの略でINAのようです。つまり、測定器などでの使用も想定された高精度なアンプのようで、1個千円以上するお高いパーツです。データシートを見ると、ファンタム電源付きのマイクプリアンプのような回路例も載っており、まさにその用途でOMNI I/Oでは使用されているようです。

 JRCのNJM4560LDが大量に使用されているので嫌でも目につきます(SIPパッケージのICは全部これです)。と言ってもこちらは単価数十円のオペアンプですから、この部品取り目的で購入する意味は無いでしょう。主にゲイン調整用の各ポテンショメータと併せて配置されていますが、それ以外にも使用されているようです。

 Hitachi(現ルネサス)のHA17555が電源回路と思しき付近で1個使用されています。この型番ってあの555(?)と思ったら、その通りでタイマICのNE555由来の555でした。前述の通り、OMNI I/O自体にはデジタル系インタフェースは何もありませんし、ロジックICもありませんので、何故タイマICがあるんだろうと思ったのですが、恐らく周辺に位置するコンデンサ4つとダイオード4つでチャージポンプ回路を構成してそうです。つまりファンタム電源用の+48Vを生成するキーパーツとして使用されているように思えます。
 とは言え、後述の通り内部にはDC15Vしか電源は無さそうですのでその4倍の60Vそのままではファンタム電源電圧としては高すぎますので、分圧してるのかもしれません。または、入力電圧の方を分圧するなどしてDC12Vとして、その4倍で48V丁度を狙って生成しているのかもしれません。或いは、周辺のコンデンサ3つとダイオード3つでチャージポンプを構成し、3倍の45Vを生成し(多少低いけど)ファンタム電源として使用している可能性もあるかもしれません。回路図が無い以上は正確なことは判りません。

 STMのL7815CVとL7915CVはそれぞれ正負の15Vを生成する3端子レギュレータICです。OMNI I/Oの電源入力AC9Vをダイオード4つとコンデンサで全波整流した電力が、このレギュレータで正負のDC15Vに変換されているようです。INA103KP,NJM4560LD共に正負両電源を要求するためにこの2つのレギュレータICを使用しているのでしょう。なお、正電圧を生成する方のL7815CVだけ放熱部分がケースにネジ止めされています。ファンタム電源用にチャージポンプ回路にも電力供給する分だけ、L7915CVより供給電力が大きく発熱も大きいとかの理由でしょうか?
 

Upper PCB
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M-Audio OMNI I/O upper pcb
Manufacturer Parts name Qty Desc
JRC NJM4560LD x6 2回路入りOPAMP

 

雑記

 外装はアルミ合金か何かかと思われますが、基板を取り外した後に水と洗剤を使用してブラシでがっつり擦ったら綺麗になりました。ウェットティッシュとは洗浄力が全然違います。そして、自動車用のコーティング剤を塗布して24時間以上乾燥させたので、錆が発生するような事態にもならないのではないかと思います。
 なお、まぎれもないM-Audio製品ですが、基板上のシルク印刷は前身のMIDIMAN表記となっています。
 電解コンデンサの容量抜け等は調べていませんが、外観上は電解液の漏れも無さそうです。劣悪だった筐体外観に反して内部基盤は年代の割に良好そうな状態に見えます。使用されているパーツも表面実装ではなく、普通のDIPSIPだけなので修理や改造にも手を入れやすそうな設計で好感が持てます。とは言え、ソフトウェアのサポートが終わってる以上、ハードウェアだけメンテできても仕方ないとも思えますが。自己責任でLinuxで活用することになるでしょう。
 



以上。