国際航空宇宙展のロッキード・マーティンF-35モックアップ
2016年10月に開催された国際航空宇宙展(Japan International Aerospace Exhibition; JA2016)で、Lockheed Martinのステルス戦闘機F-35 Lightning IIの(航空自衛隊風の外装の)モックアップが展示されました。ロービジ(low visibility/低視認性)国籍マークが描かれた機体は複数のメディアでも報じられていますが、私も現地で見てきましたので遅ればせながら紹介します。
※肖像権保護のため画像中に写り込んだ顔は認識できないよう雑に加工しています。決して首から上が無い人が現地に居たり、時空が歪んでいたわけではありません。
そもそも
公式のPDFによれば、以下の通り記述されています。
<屋外展示場での展示>
■戦闘機 F-35 モックアップ・救難ヘリコプター・救難消防車の展示
実施時間:9:30~17:30
会場: 屋外展示場
ロッキード・マーティン社の最新ステルス戦闘機「F-35」モックアップのコックピットへの搭乗体験を予定しているほか、航空自衛隊 の UH-60J救難ヘリコプターも飛来。空港用の化学消防車である救難消防車とともに展示を予定しています。
【2016年国際航空宇宙展】開催直前リリース.pdf
航空自衛隊の展示の一環としてF-35のモックアップが展示されているかのようにも読み取れてしまいますが、F-35モックアップの展示はロッキード・マーティンによるもの。航空自衛隊とは直接的には無関係で、モックアップ機体も自衛隊所有物ではなくロッキード・マーティンのものだそうです(屋内外の自衛隊ブースの方に直接聞きましたので間違いありません)。
機首周辺とロービジ国籍マーク
一部では話題になったグレー日の丸とも呼ばれるロービジ国籍マーク。ミラーレスカメラ(Canon EOS M及びPanasonic GM1S)のAFがなかなか合わないケースが多かったことは特筆すべきかと。すなわちコントラスト検出方式のような画像認識で追尾してくる対空ミサイルにはロービジ化の効果が期待できるのかもしれません。画像認識だけで追いかけてくるミサイルが存在するのかは知りませんが、熱源追尾や座標指定などと併用されていると、その命中精度を落とすことはできるのかもしれません。
エアインテーク周辺
モック故にステルス性は無いのかもしれませんが、この辺の形状も隠されることなく普通に見ることができました。
機首下部(EOTS)
機首下部に位置するEOTS(後述)(と思われる)部分。モックでは鏡状になっていましたが、実物はハーフミラーとか素通しのガラスになるのでしょうか?
背面
排気ノズル周りはこんな感じ。
エンジン
F-35にはPratt & Whitney社のF135エンジンが採用されており、CTOL(通常離着陸型)、STOVL(短距離離陸垂直着陸型)、CV(艦載機型)のそれぞれに異なるバリエーションモデルが存在するらしい(エンジン脇のパネルにはSTOVLの表記有 ※航空自衛隊が導入するのはCTOLのF-35A相当機とされており、エンジンはこれとは異なる派生型のはず)。画像中の左端側がF-35本体背面の排気ノズル辺りと一致するのではないかと思われる。
コックピット部
表示装置は実際のディスプレイではなく紙状の印刷物。ディスプレイ右側には、こんなに地上がはっきり見えるのかというレベルで地上の様子が映し出されている(様子を模した画像が貼られている)。自衛隊が対地攻撃するような事態はかなり考えにくいですが、大規模災害時の状況把握のため、初動としてスクランブル待機中の戦闘機で偵察するという運用に投入されると威力を発揮するのかもしれません。
ウェポンベイ
F-2やF-15Jが主翼下部にミサイルをぶら下げるように装備するのとは異なり、F-35ではステルス性向上のためミサイル等の兵装は機体内のウェポンベイに収容されます。ということで、従来の自衛隊採用機とは大きく異なるので多めに撮っています。荷重バランスを考えれば当然かもしれませんが、左右で搭載容量等の差は無さそうに見えます。
機体前方中心から
左翼側(機体前方から撮影)
右翼側(機体前方から撮影)
左翼側(機体後方から撮影)
右翼側(機体後方から撮影)
質疑応答
F-35モックアップの屋外展示には、ロッキード・マーティンのスタッフと思われる方が2名ほどいたものの、コックピット体験搭乗をサポートしている方と、発電機を使って何か作業されている方しかおらず、質問することはできませんでした。が、屋内外の自衛隊ブースの方(というか現職の自衛隊員の方)には、いくつか質問させていただくことができたので箇条書きで紹介します。
- ロービジ国籍マークは上空で見ても見難いのか?
- (百里救難隊の方)ロービジ国籍マークはまだ正式決定とは聞いていない。
- ロービジ国籍マークはF-35以外にも展開するのか?
- (屋内展示の方)F-35も含めて正式に導入が決まったとは聞いていない。
- C-1がグリーンの迷彩塗装なのに、C-2(XC-2)ではグレー調なのは何故か?
- C-1は40年以上も前に作られた機体であるが、C-2では発見されにくい塗装としており、(正式導入するかは不明な)ロービジ国籍マークと意図は同じ。
- F-2とF-35どちらが強いのか?(小並疑問)
- F-35がスクランブル任務に就く際は、国籍不明機に対して姿を晒さなければならず、ステルス性や遠距離攻撃のメリットが失われるのでは?
- (屋内展示の方)相手がこちらを認識できないのはどうにかしないといけないので、スクランブル時は反射板をつけるようなステルス性を落とす策や装備も検討中。
まとめ
機体を眺めているだけでも興味深いですが、現場で任務にあたる自衛隊員の方とお話しさせていただくと、普段聞けない話が聞けて色々と勉強になります(ありがとうございます)。例えば、ロービジ国籍マークは(現時点では)決定ではないと判ったのも大きな収穫でした。
F-35自体は、どうなんでしょうかね。実戦となれば強いのであろうことは想像できますが、現在の空自の任務に適しているのかは少なからず疑問が。とは言え、未知の将来を考えれば、備えあれば患いなしとも言えるでしょうし、近視眼的に判断できるものではないのでしょう。
なお、空自のF-35は2017年度より、まずは三沢に配備されることが決まっているようです(2019年に陸自に配備予定とされるV-22オスプレイよりはずっと早そうです)。それに先行して2017年1月辺りに米軍のF-35が岩国に配備される見通しという報道もありましたので、そう遠くないうちに国内で実機を目にできる機会もあるのではないでしょうか。
以上。