FL Studio Mobileのソフトシンセ群

 以下の投稿に引き続き、本投稿ではFL Studio Mobile(FLM)に搭載されたSuperSaw、MiniSynth、GMS、Transistor Bassの4つの各ソフトウェアシンセサイザーについて記載します。
wave.hatenablog.com
 

SuperSaw

 SuperSawと言う名称から察せられる通り、90年代後半にリリースされたRoland JP-8000のオシレータ波形のSuperSawを使った音を意識していることは間違いないでしょう。
 JP-8000のSuperSawは複数の鋸波を組み合わせた波形を一つのオシレータとして使えることが特徴でしたが、その点はこのアプリでも同様です。
 なお、同名のプラグインは本家Windows版にも存在しません*1のでFLMオリジナルとなります。
 

OSC(発振器)

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 Pulse Modeというスイッチがあるので、本家JP-8000とは異なり鋸波ではなく矩形波でも同様のアプローチができます。

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 また、SUPERSAWモードではなくSUPERSYNCモードも選択可能ですが、SUPERSYNCとは何なのかよく判りません*2。が、所謂シンクサウンドを作れるモードだと思っておけば良さそうです。
 

FILTER(フィルタ)

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 所謂VCF周りのパラメータが集約されており、独立したEGがあります。並んでいるパラメータ群はごく一般的なものですので、特に説明は不要でしょう。ちなみにLPFです。
 

LFO(低周波発振器)

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 こちらも一般的なパラメータ群です。昨今の多くのVSTi同様にDAW(シーケンサ)のテンポと同期もできます。
 

LEVEL(音量)

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 所謂VCA周りのパラメータが集約されており、独立したEGがあります。こちらも一般的なパラメータ群です。
 

MOD(変調)

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 PW Rangeは恐らくPB(Pitch Bend) Rangeのtypoではという気もしますが、Pitch Wheelの略なのかもしれません(結果的に意味するところは同じなので)。
 他には、Modulation Wheelによる変調対象(Dest)とその程度(Amount)が指定可能です。
 
 後述しますが、スマートフォンのタッチパネル上のキーボードではピッチベンダーもモジュレーションホイールもありませんので、ここでの設定値の効果を手っ取り早く確認するにはMIDIコントローラをスマートフォンに接続するのがお勧めです。
 

VOICES

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 発音モード関連やアルペジェータの設定ができます。
 

FX(効果)

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 ディストーションとディレイの2つがSuperSawのビルトインエフェクトとして実装されています。もちろん、後述のFLM自体が持っているエフェクト機能を併用することもできます。
 

MiniSynth

 MiniSynthは本家Windows版に同名のプラグインが存在します。UI構成は違いますが、同じパラメータを持っていますので、移植版とみて問題無いでしょう。
 なお主観にすぎませんが、FLMでは狭い画面に押し込むためかパラメータ配置が結構ぐちゃぐちゃで、他のプラグインとのUIの整合性もないですし、そういった観点では改善の余地が多々ありそうです。

OSC(発振器)

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 OSCILLATOR KINDは波形選択です。選択可能な波形もWindows版と同じで以下の10種類になります。

  • SAW
  • SAW+SAW
  • PULSE
  • SAW+SQUARE
  • SQUARE+SQUARE
  • SUPERSAW
  • BELL
  • DEAF SAW
  • SPREAD OCT
  • SPREAD 5th

 Modifierは例えばPULSE波形ならパルス幅を指定できます。後述のLFOの接続先をここにすれば、PWMができたりします。
 Noiseはホワイトノイズ量を指定できます。
 Transpは単にTransposeの略です。
 

FILTER(フィルタ)

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 並んでいるパラメータはごく普通のフィルタど同様です。ちなみにLPFです。
 なお、KBD TRKはKeyboard Tracking、VEL TRKはVelocity Tracking、RESはResonanceの略です。
 

FLT EG(フィルタ用包絡線生成器)

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 フィルタのEGが別タブに別れていますが、ごく普通のADSR式のEGです。
 なお、ANMTは完全にAMNTのtypoだと思いますが、Amountの略です。
 

LFO(低周波発振器)

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 LFOも一般的なパラメータ構成です。OSCの項でも触れましたが、Dest(Destination)が選択できるのでLFOで変調をかける先をFLT(Filter), FRQ(Frequency), MOD(Oscillator Modifier)の3つの中から任意に選択できます。
 なお、RateはHz単位での指定はできず、1/4~16小節単位となるBPM連動型です。ShapeはSIN(Sine wave), SAW(Saw wave), SQR(Square wave)の3種類から選択可能です。
 この画面にねじ込まれているMWはModulation Wheelの略と思われ、LFO Destと同じ3つの接続先を選択可能です。
 

MASTER

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 こちらのタブのEGは所謂AEGで、アンプ用のEGです。
 VOICE MODEはPOLY, MONO, LEADの3種類から選択可能です。POLYはPolyphonicで疑いようが無いですが、MONO(Monophonic)とLEADの違いは何なのか一見すると意味不明です。MONOもLEADも単音しか発音されませんが、次のような違いがありました。1音目を発音させたまま(Note On後にNote Offを送らない)、2音目を発音させ、1音目のNote Offより前に2音目のNote Offした場合、MONOでは何も発音されなくなるが、LEADでは1音目の音が鳴る。文字で書くと解りにくいですが、実際試してみればすぐ違いが解ると思います。
 LEADにしてポルタメント効かせてシンセソロ弾いたら気持ちいいだろうなと思うじゃないですか、丁度隣に並んでいるSlideというパラメータがPortament Timeです。
 

FX(効果)

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 DIST(Distortion), DELAY, CHORUS, PHASERの4種類のエフェクトが利用可能です。なお、4種類のいずれか一つではなく、4つを同時に利用可能です(左下のスイッチアイコンで各エフェクトの有効・無効を切替可能)。
 

GMS(Groove Machine Synth)

 UI中でGMSynthと書かれている部分もありますが、いわゆるGM(General MIDI)音源ではありません。Groove Machine Synthの略でGMSです(かといって、RolandのGroove box MC-x0xシリーズのようにシーケンサを積んでいて、それらしいプリセットパターンが使えるというわけでもありません)。
 GMSも本家Windows版に同名のプラグインが存在しますが、MiniSynthとは異なり同等機能の移植版ではありません。大きく違うのはWindows版は3OSCであるのに対して、FLMでは2OSC構成といった点でしょうか。
 なお、GMSはアプリ内購入が必要です。課金せずともその場で鳴らすだけならできますが、以下のダイアログに表示されるように楽曲中にパラメータを保存して再度読み込んで同じ状態を再現させることはできません。
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 GMSはアプリ内購入で440円*3となっています*4
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FILTER(フィルタ)

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 CUTOFF, RES(RESONANCE)は説明不要かと思いますが、フィルタEGのパラメータにATTACK, DECAYしか存在せず、SUSTAIN, RELEASEがありません。AMOUNTでSUSTAIN LEVELに相当する音色に調整した後、ATTACK, DECAYを詰めていくアプローチで音作りすればSUSTAINがなくても問題ないでしょう。なお、これは狭い画面前提となるFLMのUIの都合ではなく、Windows版にもSUSTAIN, RELEASEはありません。但し、Windows版は任意に接続先をフィルタ、モジュレーション、ピッチ、LFOから選択可能なEGが2機に加え、LEVEL専用のEG(所謂AEG)が1機あるのに対して、FLMではFILTERに固定の1機(ADのみでSR無し)、後述のMODに固定の1機(ADのみでSR無し)、後述のLEVELに固定の1機(フルADSR)、さらに任意に接続先を指定可能なEG(フルADSR)がもう1機という構成となっているという違いがあります。故に、RELEASEパラメータを使ってNOTE OFF後にフィルタが変化する音色を作りたいという場合には、ディスクリートEGのDestinationをFilterにすれば実現可能です。
 KINDはフィルタの種類をLP 12(LPF 12db/Octave), LP 24(LPF 24db/Octave), HP(HPF)の3種類から選択可能です。
 

OSC(発振器)

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 A/Bの2機のオシレータ波形を使用可能です。先述の通り、Windows版では3機のオシレータが使用できますが、FLMでは2機となっています。それとは別にNOISE(ホワイトノイズ)も使用できるのはWindows版もモバイル版も同様です。
 選択可能なオシレータ波形はWindows版と同様の、以下の29種類です。

  • Beast
  • Crunch
  • Devils Horn
  • Digital
  • Dirt
  • Electro
  • Fifth
  • Fox
  • Funky
  • Grubby
  • Keys
  • Liquid
  • Ogre
  • Rhodes
  • Saw Mean
  • Saw Retro
  • Saw
  • Silk
  • Sine
  • Smooth Sub
  • Square Retro
  • Square Smooth
  • Square
  • Strat
  • String
  • Throat
  • Triangle
  • Troll
  • Vocal
MOD(変調)

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 KINDはモジュレーションの種類を指定でき、Ring(Ring Modulation), FM(Frequency Modulation), Sync, Filterの4種類から選択可能です。リングモジュレーション、FM、SyncについてはオシレータA/Bのモジュレーションになります(なお、FilterはWindows版のUIでは恐らく実現できない選択肢です)。
 モジュレーションにもFILTERと同様のSUSTAIN, RELEASEの無いEGが備わっています。
 MW DEST(Modulation Wheel Destination)はモジュレーションホイールの接続先をFilter, LFO, Osc.Mod.の3種類から選択可能で、MW AMOUNT(Modulation Wheel Amount)でモジュレーションのかけ具合を調整可能です。
 PB RANGE(Pitch Bend Range)はピッチベンドする範囲を1 smt(Semitone), 2 smt, 7 smt, Oct(Octave)の4種類から選択可能です*5
 

LEVEL(音量)

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 ごく一般的なパラメータが並んでいます。OSC, MODタブではEGにSUSTAIN, RELEASEが実装されていませんでしたが、AEGにはきちんと存在します。
 

EG(包絡線生成器)

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 接続先をFilter, Osc.Mod., Pitchの3種類から選択可能な汎用EGです。Filter, Osc.Mod.は、各タブ内のADのみでSR無しのEGでは作りたい経時的変化ができないという場合に選択すればフルADSRのEGを利用可能ということになります。
 

LFO(低周波発振器)

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 ごく一般的なLFOです。
 ShapeではLFO波形をSine, Saw, Squareの3種類から、DEST(Destination)はFLT(Filter), MOD(Modulation), FREQ(Frequency = Pitch), LVL(Level), PAN(Panpot)の5種類から、RATEは1/4拍~8小節の間(BPM連動指定のみで周波数指定不可)で選択可能です。
 

VOICES

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 このタブには発音モードがらみのパラメータが集約されています。
 

FX(効果)

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 3系統の同時使用可能なエフェクターが実装されています。利用可能なエフェクトプログラムはDIST(Distortion), FLANGER, PHASER, LPF(Low Pass Filter), HPF(High Pass Filter), DELAY, REVRB(Reverb), PANNER, RING, VOIXの10種類から選択可能です。
 X, Yは選択したエフェクトプログラムによってアサインされているパラメータが異なります(具体的なパラメータ名は画面に表示されないので、耳で効果を確かめながら調整することになります)。
 

Transistor Bass

 TransistorBassは略すとTBになることから察せられるかも知れませんが、所謂TB-303クローンと呼ばれる類のシンセサイザーです。故にモノフォニック専用で、ポリでは発音できません。
 Windows版にも同名のプラグインが存在しますが、Windows版自体が近年リリースされた比較的新しいプラグインです。FLMではパラメータ構成が異なったり、一部機能が削減されていたりします(大きく違うのは303 Pulseスイッチが無いことと、ビルトインエフェクトとビルトインシーケンサが無い)。
 Transistor Bassはアプリ内購入が必要です。課金せずともその場で鳴らすだけならできますが、以下のダイアログに表示されるように楽曲中にパラメータを保存して再度読み込んで同じ状態を再現させることはできません。
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 Transistor Bassはアプリ内購入で240円となっています。Windowsプラグインは79USD*6ですので、機能削減分を差っ引いても激安だと思います。
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MAIN

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 モチーフとなっているTB-303自体が純粋なシンセサイザーとしてのパラメータは少ないですから、Transistor Bassもパラメータ数は少ないです。このため、所謂VCO/VCF/VCA系のタブに各パラメータが分割されているわけではなく、MAINタブと後述のPULSE WIDTHタブに集約されています。
 パラメータは見ての通りでほぼ察しが付くかと思いますが、Waveformスライダはオシレータ波形のPulse/Saw比率を調整するもので、一番上にするとSaw、一番下にするとPulseになります。
 

DISTORTION(歪み)

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 本家TB-303にはディストーションエフェクトはありませんが、TB-303ディストーションの組み合わせはもはや定番化しているためか、ビルトインエフェクトとして実装されています(左端のスイッチで無効化もできます)。
 

PULSE WIDTH(パルス幅)

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 PW(Pulse Width)と、LFOによるパルス幅の変調度合いが調整できます。LFOのパラメータはSpeedだけで、LFO波形は正弦波固定です。なお、LFO Speedスライダはシンプルに速さを指定しているだけで、テンポ同期では無さそうです。
 

 といった感じで、シンセサイザー好きには結構楽しめると思います*7
 ただ、UIが整理されていないというか、洗練されていないというか、散らかっているというか、そんな印象は少なからずあります。そこら辺は今後改善されていくと嬉しいですけど、個人的には出音が良ければそれで良しなので、UI改善は優先度低くても我慢できます。
 (引き続きサンプルプレイバックタイプの音源についても記載する予定です。)
 



以上。

*1:Windows版には比較的シンプルな減算式シンセサイザーとして、かつてはTS404や現行の3x OSCなどが存在します。が、オシレータのパラメータ構成はFLMのSuperSawとは大きく違いますので、全くの別物と考えるのが妥当でしょう。

*2:JP-8000のようなリスペクトすべき模倣元が存在するのか、本アプリ固有のものなのか不明。

*3:表記価格はいずれも本投稿記載時点の価格。

*4:GMSWindows版なら現行のFL StudioのFruity, Producer, Signature, All Plugins BundleのいずれのEditionにも標準で含まれる。

*5:多くの一般的なシンセサイザーとは異なり、任意の半音単位で指定可能なわけではない。

*6:Transistor BassはWindowsFL StudioでもAll Plugins Bundle以外のFruity, Producer, Signatureの各Editionには含まれず、別売。

*7:減算方式シンセしかない無いのは残念でもありますが、Saw, Square, Triangleのようなプリミティブな波形だけではなく、癖のある波形がオシレータに使用できますので、出音のバリエーションはそれなりに楽しめる。