KORG Gadget2で新登場のTaipeiを試す

 先日KORG Gadget 2*1がリリースされました。
www.korg.com

 私はiOSKORG Gadgetを使っていましたが、AppStore経由でGadget 2へアップデートされました。
 Gadget 2で新規に登場したガジェットには、追加購入無しで利用可能なTaipei があり、MIDI-Out Control Moduleと説明されています。触ってみたので以下に記載します。
 

メイン画面

KGC2 Taipei main screen
 TaipeiはMIDI-Out Control Moduleという説明の通り、MIDI出力を制御するモジュールです。他のシンセサイザー系のガジェットとは異なり、Taipei単独では音は出ません。
 

コントローラ

 KAOSSPAD同様の2軸XYコントローラと、8系統のツマミでMIDIのコントロールチェンジ(CC)情報等を送出できます。また、珍しく1系統のLFOも同様にMIDI情報を送出可能*2となっています。
 各コントローラの送出可能な情報をまとめると、下表のようになります。

Controller CC#0-127 PitchBend Other
2軸コントローラ o o Mod, Arp Speed, Arp Gate, LFO Speed, LFO intもアサイン可能
Mod*3以外の4つはMIDI情報ではなくTaipei自身のパラメータを制御
ツマミ o o -
LFO o o WAVEはTriangle, Down Saw, Up Saw, Square, S&Hの5種類から選択可能
アルペジェータ - - 鍵盤GUIと併せてNote On/Offを送出
TYPEはUp 1, Up 2, Up Full, Down 1, Down 2, Down Full, Up/Down 1, Up/Down 2, Up/Down Full, Rand 1, Rand 2, Rand Full, Triggerの13種類から選択可能

 Gadgetのシーケンサを使って外部音源を演奏するだけではなく、iPadとTaipeiのGUIコントローラで外部音源モジュールの音作りをするような使い方もアリだと思います。今では埃を被ったハコに過ぎない扱いを受けているRoland SCシリーズやYAMAHA MUシリーズを引っ張り出してきて、今風のUIで音色エディットしてみてもいいかも知れません。蛇足ながらGS/XGで共通的に使えるチートシートとして、以下の表を張っておきます。

CC Parameter
CC#74 LPF Cutoff frequency
CC#71 Filter Resonance
CC#73 Attack Time
CC#75 Decay Time
CC#72 Release Time

 

プログラム

 他のガジェットと同様にプログラムをメモリできますが、Taipeiの場合は音色ではなく各種コントローラのパラメータアサインが保存されることになります。プリセットではminilogue xd, prologue, monologue, minilogue, volca fm, volca kick, volca sample, volca keys, volca beats, volca bass, electribe, electribe sampler, iPolysix, iMS-20の計15プログラムが用意されています。
 最近のKORGシンセサイザー向けのプログラムが用意されているのが判りますが、多くのハードウェアの電子楽器に混ざって、ソフトウェアのiPolysixとiMS-20も並んでいます。というわけで、Inter App-audioなのかCoreMIDIなのか判りませんが、iOS内の音源アプリを演奏させることもできるようです(後述)。
 

設定画面

KGC2 Taipei MIDI out
 全画面表示しない状態で右側のTaipeiアイコンの下に[No Output]と表示されているボタンを押すと、MIDI出力先を選択できます。このボタンは出力先の名前が表示されるため、上記スクリーンショットでは[No Output]ではなく[Sound Canvas/1]と表示されています(この例では、予めバックグラウンドでRolandのSound Canvasアプリを起動させてあります)。
 MIDIに詳しくない方は、[MIDI Out To]というダイアログなのに、[Sound Canvas (MIDI In)]と表示されているのを疑問に思うかも知れませんが、TaipeiのMIDI OutをSound CanvasMIDI Inに繋ぐという意味なので、何も間違っていません。
 

演奏可能なアプリ

 ちなみに、ここではSound Canvasを例に挙げていますが、先日紹介したSynclavier Pocket!でも正常に動作することを確認できました。
SynclavierがiOSアプリで復活 - 記憶は人なり
 一方、SyntronikやiDS10はMIDI Out Toの選択肢に表示されるものの、発音が確認できませんでした*4
 また、YamahaのFM EssentialやSynth Book(のAN2015)はMIDI Out Toの選択肢にすら表示されませんでした*5
 といった状況ですので、TaipeiのMIDI出力は全ての音源アプリに対応しているわけではないようです。
 

TaipeiのSETTINGS

KGC2 Taipei settings screen
 [Utilities]には主にLFO周りの設定があります。各パラメータと設定可能値をまとめると下表のようになります。LFOは大量のMIDIメッセージを垂れ流すことになるので、今後のアップデートでLFOの分解能が指定できるように改善されるとベターだと思います。

Parameter Value
LFO Key Sync On/Off
LFO Sequencer Sync On/Off
LFO Transmit Always/During Playback
Transpose -24~+24

 また、横画面のスクリーンショットには映っていませんが、縦画面にすると[Panic]ボタンが現れ、恐らくAll Notes Offメッセージが送出できます。
 [Output Settings]の[Output]は、前述の[MIDI Out To]ダイアログと同じ設定です。
KGC2 Taipei MIDI ch settings screen
 [Output Settings]の[Channel]は、MIDIチャネル(1~16)を指定できます。
 

まとめ

 Taipeiを経由させることでGadgetのシーケンサから、iOSの音源アプリ(全てではない)や、外部音源を演奏させることができます。すなわち、Gadgetに含まれる音源ガジェットとその他の音源を同期して演奏させることが可能になるため、楽曲内で使える音は事実上無制限になります。

 外部音源を鳴らす場合はLightning-MIDIやBLE-MIDIインタフェースが別途必要ですし、iOSの音声出力と外部音源の音声出力は無関係ですので、両者の出音を混ぜるためにミキサーが必要です。それを録音するにはまた別の機材が必要です。と、考えるとiOS端末1個だけで完結する手軽さは完全に失われます。それなら、PCベースのシステムで作業した方が効率的ではないかと私には思えます。

 一方で、iOSの音源アプリをTaipei経由で演奏させる場合は、外部音源を鳴らすのとは異なり相変わらずiOS端末1台で完結します。この使い方であれば従来同様の手軽さで使えるため、今後の音作りの幅を広げる意味で利用価値は高いと思います。

 ところで、Taipeiが送出可能なのはコントロールチェンジとピッチベンドだけで、何故かプログラムチェンジがありません。これでは外部音源を鳴らすシーケンサとして使い物になりません。さらに言えばこれらのチャンネルメッセージだけではなく、システムエクスクルーシブメッセージも送出できないと、外部音源の完全な制御はできません。といったことは、実際に芸部音源を使った音楽制作する人であればすぐに気付くと思いますし、KORG開発陣が気づかないとは思えません*6。それでも、エクスクルーシブはともかくプログラムチェンジは最低限必要だと思いますので、今後のアップデートに期待します。
 

KORG Gadget2のiOS設定一覧(おまけ)

 Taipeiの話から逸れます。


f:id:kachine:20190303194036p:plain
f:id:kachine:20190303194046p:plain
f:id:kachine:20190303194057p:plain
f:id:kachine:20190303194108p:plain
f:id:kachine:20190303194118p:plain
f:id:kachine:20190303194134p:plain
 
 なお、KORG Gadgetの既存音源ガジェットについては以下の投稿をご参照ください。
wave.hatenablog.com
 



以上。

*1:ところで、KORG GadgetとKORG Gadget Collectionのどちらが正式名称なのでしょうかね?公式のWebページタイトルはGadget Collection表記ですが、本文中はGadget表記ですし。

*2:大量のMIDIメッセージが垂れ流され続けることになるので、古いハードウェア音源の発音がもたついたり弊害が起きる可能性があります。逐次MIDIメッセージをパケット化するBLE MIDIで出力していたりすると、遅延によりLFO波形が崩れたMIDI CCにならないんだろうかとかも気になりますが未検証。

*3:MIDI CC#1と同じだと思われるが未検証。

*4:iPhone 5sで検証したためシステムリソースが足りてないだけかもしれません。Sound CanvasやSynclavier Pocket!も一発では発音されず、アプリの切り替えやアプリの再起動を試行すると発音するようになったりしたため。

*5:同じYamahaのMobile Seqアプリからは演奏・録音できるのですが。

*6:実装したところで、iOSから外部音源ゴリゴリ設定して鳴らすユーザーなんていないでしょ。という判断で開発工数削減したんでしょうかねぇ?